米グーグル傘下のYouTubeが短尺動画「YouTube ショート」の収益化を2月1日に始める。運営元が1月29日までに発表した。中国バイトダンスが手掛ける「TikTok」への対抗とみられる。収益化対象の動画を増やすことで、参画クリエイターの増加を目指す。

●全世界で1日300億回再生のYouTube ショート

 YouTube ショートとは、YouTubeで公開・視聴可能な最大60秒の縦型動画のことを指す。TikTokのユーザー拡大を背景に、2020年9月にベータ版としてインドでサービスを開始。日本では翌21年7月に始まった。

 22年9月の発表によると、1日の視聴回数は全世界で300億回以上、月間ログインユーザー数は15億人に達するという。若年層のユーザーに人気があり、動画を投稿するクリエイターにとっては、手軽に動画コンテンツを作成できるという利点がある。

 ここ最近では、有名YouTuberが投稿した長編動画の中から重要な要点だけ切り出す「切り抜き動画」が流行っていることもあり、効率的にチャンネル登録者数を増やすためのツールともされている。

●収益化には「チャンネル登録者数1000人以上」が条件

 収益化には、チャンネル登録者数1000人以上が必要。その上でショート動画の視聴回数が直近90日間で1000万回以上、もしくは直近1年間に公開した動画(ショート動画を除く)の総再生時間が4000時間以上が条件となる。

 ただ、収益化の対象となるのはオリジナルコンテンツのみ。映画やテレビ番組の未編集のクリップなど、オリジナルではない動画や、YouTubeや他のプラットフォームから再アップロードされた他のクリエイターのコンテンツなど転載動画は対象外とする。

 YouTubeのパートナープログラムに参加することで収益化できるようになり、運営側の審査を通過すれば、「ショート フィード」のショート動画の間に広告が表示されるようになる。23年初頭には、YouTube上のいわゆる“投げ銭”機能「Super Thanks」をショート動画にも適用する方針だ。詳細はYouTubeの公式Webサイトで公開している。

●背景にTikTokの脅威 主導権奪還なるか

 YouTubeがショート動画の収益化に踏み切った背景には、TikTokの存在がある。調査企業eMarketerの調査によると、22年のTikTok全体の広告収入は前年比3倍の116億4000万ドル(1ドル=130円レートで約1兆5132億円)。24年には、TikTokの広告収益は235億8000万ドル(同3兆654億円)にまで膨れ上がり、実質的にYouTubeの全体収益である236億5000万ドル(同3兆745億円)に匹敵すると予測している。19年からの5年間で70倍の規模に成長している計算となる。

 これまでYouTubeも試験的にショート動画の収益化を行っていたものの、短尺動画がメインのTikTokに対し、YouTubeがショート動画でクリエイターに還元した金額は21年から22年にかけて1億ドル(同130億円)にとどまっていた。

 実際、クリエイターがYouTubeに投稿した動画を見ると、自身のTikTokアカウントに投稿したショート動画を、転載しているケースが目立つ。通常の長編動画はYouTubeに投稿しつつ、短尺動画はTikTokというように使い分けている様子がうかがえる。YouTubeはショート動画の収益化を本格化することで、動画プラットフォームとしての主導権を握る狙いがある。

●企業がショート動画を活用するケースも

 近年は、採用活動のPRの一環として、企業が公式YouTubeチャンネルを開設するケースが増えている。若年層に親近感を持ってもらおうと、ショート動画を利用する企業も多い。企業のPRという視点では採用活動以外にも、インフルエンサーが企業タイアップで製品をショート動画で紹介するケースもある。

 YouTubeの分析を手掛けるエビリー(東京都渋谷区)の調査によると、YouTube全体でショート動画の投稿数が増加傾向にあるという。ショート動画でのタイアップに関しては「ショート動画をフックにして長尺動画への動線を作ることで視聴の途中離脱を防ぐ効果も一部で見られており、この方法でもYouTubeの広告収益を伸ばすことが可能。現段階ではタイアップ案件への参入はまだ様子見という状況だが、今後企業とのタイアップ案件の成功事例が増えれば、案件数は加速していくだろう」と分析している。

 企業PRで、YouTube ショートの利用が進むか、今後、注目を集めそうだ。