社員全員参加のエクセル研修を実施し、データ活用を強化することで売り上げを伸ばしているワークマン。「数字」を共通言語にすることで、年次に関係なく議論ができる社風を実現し、10年間で売上高は2.6倍に成長した。

 ただし、全てをデータだけで判断するわけではない。現場の視点とデータを掛け合わせることで商品を改善した事例を聞くと、データ活用に関するワークマンの考え方が見えてくる。

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●「誰が」「なぜ買うか」は分からない 現場で確かめる

 ワークマン営業企画部広報部の林知幸さんによると、同社が扱うデータは「POSデータ」のみ。購入者のデモグラフィックデータ(年齢や性別、居住地、職業などの人口統計学的なデータ)ではなく、「いつ、何が、どれくらい売れた」というデータのみでデータ分析を行う。顧客管理も行わない。

 ワークマン躍進の背景には、「現場で直接顧客と接点を持ち、製品に生かす」姿勢がある。商品の販売状況しか分からないため、売れ行きが良い商品、不思議な売れ方をしている商品がある場合は、現場で「誰が」「どんな目的で」購入しているのか直接確かめるという。

 「過去に、雪かき用のウェアの売れ行きが良く、データ上で異常値を示したことがありました。カラーも白や黒のシンプルなものではなく、緑などのカラフルなものが異様に売れており、『作業をする人以外にも売れているようだ』と分析。店舗を観察すると、“バイク乗り”の方が購入していました。直接購入者に購入理由、商品の気に入らない、改善してほしいポイントを聞いて、よりバイク利用にシフトした商品を開発しました」

 「データを活用して1番やりたいことは、商品をよくすることです。私たちは『商品がいつ、どれだけ売れているか』しか分からないので、売り場まで見に行って、購入者を観察します。そして、ユーザーの声を開発に生かすことで商品が良くなり、職人さん以外の一般のファンの方が増え、幅広い層にリーチできるようになりました」(林さん)

●コックシューズがマタニティシューズとして人気

 データで異常値(想定以上に売れている、特定の色のみが売れている、など)を示しており、思わぬ層からの購入を知ったケースは他にもある。

 「ぬれた床でも滑りにくい」と人気だったコックシューズが梅雨や秋雨の時期に売れており、調査するとマタニティシューズとして使用されていることが分かった。現在は「ファイングリップレディース」として、女性用に商品をアップデートしている。

 溶接業用の作業着「綿かぶりヤッケ」が、「火の粉が飛んでも穴が開かない」とキャンプやバーベキューをする人に爆売れ。年間約5000枚の販売数が、1週間で2万枚超売り上げたことも。現在は女性でも着やすいように仕様変更し、「綿アノラックパーカー」として販売している。

●大成長の背景に「ワークマンプラス」の存在

 売上高を10年間で609億2800万から1565億9700万円まで成長させた立役者となったのが「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」という新業態だ。「高機能×低価格のサプライズをすべての人へ」をコンセプトに、アウトドア、スポーツ、レインウェアの専門店として売り出している。18年9月に第1号店をららぽーと立川立飛(立川市)に開業し、現在は457店舗を運営する。

 品ぞろえはワークマンと同じだが、マネキンを置いたり、照明を変えて空間演出を加えたり、一般客用の商品が目立つように設計している。これまで職人中心だったワークマンだが、WORKMAN Plusをきっかけに一般の来店が急増。現在は女性をメインターゲットにした「#ワークマン女子」も展開し、現在25店舗を運営する。

 「これまで数%だった女性比率が、WORKMAN Plusは50%、ワークマン女子は70%、ワークマンでも30%に増えました」(林さん)

 今後は引き続き製品の開発、改良に力を入れつつ、新業態開発にも取り組む。

 「パンツの派手な色がすごく売れていて、調べてみるとゴルフウェアとして購入されていたこともありました。もしかしたら、ゴルフラインを強化すれば新たな業態の開発につながるかもしれません。各店舗での提案にとどまらず、新しい製品を開発したり、新用途・新業態開発をしたり――データを元に、会社全体としての新たなチャレンジにつなげていきたいですね」(林さん)