「餃子の王将」の業績が好調だ。直営既存店の売上高は、2021年10月から22年12月まで、15カ月連続で前年同月を上回り続けている。

 食材費、人件費、エネルギー価格が上がる中、22年に入って2回の値上げを行っている。それでも勢いは止まらなかった。

 餃子の王将の店舗に行くと、1000円以下で食べられる定食は、「餃子定食(餃子2人前、ライス中、スープ、漬物)」(891円)を含めそれほど多くない(東日本の場合)。西日本は若干安くなるが、大きくは違わない。

 現状の価格を見ると、餃子は297円(東日本)、275円(西日本)。炒飯は550円(東日本)、495円(西日本)。天津飯は583円(東日本)、539円(西日本)。醤油ラーメンは550円(共通)など、まだまだ安い。

 しかし、炒飯・天津飯・醤油ラーメンのいずれかに餃子を足しても、ワンコイン以内に納まった頃を知っている世代から見ると、ずいぶんと高くなったように感じる。それでも顧客に支持されている。

 餃子の王将を経営する、王将フードサービス(以下、王将F)の決算を見ると、コロナ禍で飲食店が時短や休業といった自粛を余儀なくされたにもかかわらず、あまり落ち込んでいない。短期間で回復している。

 これは、メインで販売している商品が餃子という、テークアウトに強い商品だったからだ。類似した低価格中華の業態でも、メインの商品がラーメンで、サブで餃子も売っている「日高屋」「幸楽苑」は、より落ち込みが大きかった。幸楽苑の場合は、コロナ前から業績が悪化していた事情もあった。

 ラーメンに限らず、うどん、そばも含めた麺類は、「麺が伸びる」「スープが冷める」と思われるのか、テークアウト、デリバリーに選ばれにくい。特にラーメンは冷凍自動販売機で売れている。

 そこが、昔からあった出前との違いである。麺類は出前の定番だった。

 王将F、日高屋を運営するハイデイ日高、幸楽苑を運営する幸楽苑ホールディングス(HD)における20、21、22、23年(23年のみ第2四半期)の売上高推移は次の通りだ。()内は前年同期比。なお、王将Fの決算月は3月、ハイデイ日高は2月、幸楽苑HDは3月だ。

 王将F:856億円(4.8%増)→806億円(5.8%減)→848億円(5.2%増)→451億円(11.5%増)

 ハイデイ日高:422億円(0.8%増)→295億円(30.0%減) →264億円(10.7%減)→176億円(54.5%増)

 幸楽苑HD: 382億円(7.3%減)→ 266億円(30.5%減)→ 250億円(5.8%減)→127億円(1.5%増)

 参考までに「大阪王将」のイートアンドホールディングスは次の通り。決算月は2月(20年までは3月)。決算月の変更があったため、21年、22年は前年同期比を出していない。

 イートアンド:304億円(4.1%増)→260億円(−)→308億円(−)→244億円(第3四半期、7.2%増)

 大阪王将の21年は11カ月決算だが、1カ月平均で約24億円を売っている。もし21年も12カ月決算だったとすると、284億円ほどを売り上げていたと推測される。

 そうすると、ラーメン業態の日高屋や幸楽苑は21年から22年にかけて売り上げを落とし続けて、23年になってやっと回復してきている。それに対して、餃子をメインとする餃子の王将と大阪王将は一足先に、22年から回復してきた。

 餃子に限らず、焼売、小籠包など点心はテークアウトに向いた特性を発揮して、デリバリーを含めてコロナ禍で売れた。コロナ後も定着して、好調を維持しそうな様相だ。

 餃子の王将が好調な要因を解き明かしていきたい。

●直営店が増加

 餃子の王将は1967年に京都市の四条大宮に1号店を出店して以来、発展を続けている中華チェーン。全国に2022年12月末時点で、直営店540店、FC店190店の計730店となっている。

 コロナ禍前の20年1月末の時点では、直営店518店、FC店213店の計731店だった。

 店舗数は1店が減っただけで、ほとんど変わっていない。その代わり、直営店が増え、FC店が減っている。

 全般に、古くからのFCオーナーが高齢で後継者がなく、辞めていく一方で、直営店を出店して店舗がなくなった隙間を埋めているようである。

 閉店した店で代表的なのは、20年10月31日に閉店した出町店(京都市)がある。学生が30分皿洗いをすれば食事が無料になる名物店であったが、店主が高齢で後継者も見つからずに閉店。餃子の王将FCオーナーには体力面などを考慮した定年制があり、70歳が目途となっている。

 コロナ禍で店内で飲食する人が減り、年齢的にも気持ちの張りをなくしてしまい「潮時だ」と感じたFCオーナーも多かったようだ。

 後述するが、餃子チェーンの新興勢力もあり、新しくFCを始めるオーナーは、「同じ餃子を扱うなら……」と勢いのあるほうに流れている可能性もある。

 直営で最新の設備が整った新しい店を出し、若い店長が頑張ってチェーンの活力となっている。それが、餃子の王将が好調な要因の1つ。他方、個性豊かなFCオーナーが減っているのが、課題となっているといえるのではないだろうか。

●売れるメニューを続々開発

 餃子の王将の店舗に行ってみると、ベーシックな餃子や天津飯で、近年登場した新しいメニューが増えている。このように、売れるメニューの開発も好調の要因に挙げられる。

 餃子はスタンダードなベストセラー商品に、「にんにくゼロ生姜餃子」「にんにく激増し餃子」が加わり3種類となった。

 16年、食後の口から発するにんにくのにおいを気にせずに餃子を楽しみたいという顧客のニーズに応えて、にんにく不使用のにんにくゼロ餃子を発売。

 さらに、19年7月には、このにんにくゼロ餃子を進化させたにんにくゼロ生姜餃子を発売している。高知県の生姜を中心とした国産の生姜を100%使用。通常の餃子の2倍の量だ。皮やあんも改良を行い、生姜の香りや程よい辛みを感じられる、口当たりのまろやかな餃子が完成した。

 また、21年3月には、にんにくの量を2倍にしたにんにく激増し餃子を発売。通常の餃子よりもにんにくのパンチがガツンと効いた内容だが、コロナ禍で皆マスクをしているため、口からにんにくのにおいが広がりにくいのが幸いした。にんにく激増し餃子はよく売れており、品切れで入荷待ちという店も多い。

 プレミアムな商品として、「極王」シリーズの充実も見逃せない。こだわりの食材を使い、見た目も華やかに仕上げているのが特徴だ。

 14年から、「極王炒飯」「極王天津飯」が販売されていたが、16年に「極王焼そば」が加わった。これら3商品は19年に順次リニューアルされた。

 極王炒飯はジューシーな焼紅鮭、シャキシャキなレタス、豚バラ香味焼きを使用。極王天津飯は、ごはんをふんわりと玉子で覆い、さらに特製醤油ダレで玉子をとじた、ダブル玉子仕立てが特徴。極王焼そばは特製XO醤と白醤油の風味を加えている。

 さらに、21年2月には、新商品として「極王天津麺」を発売。昆布、鰹、イワシ煮干、サバ節のダシのうま味が効いた熱々のスープがかかっている。100%北海道産小麦粉を使った麺の上には、ふんわり焼いた玉子を乗せた。餡にも玉子を閉じたダブル玉子仕立てのぜいたくな天津麺としている。

 極王シリーズに加えて、「ジャストサイズ」の充実が餃子の王将の魅力を増している。

 ジャストサイズとは、通常の半分ほどの分量の小皿料理で、値段も手頃。餃子なら通常6個297円が、ジャストサイズなら3個159円になる(東日本の場合)。

 ジャストサイズは餃子、炒飯、天津飯、ニラレバ炒め、酢豚、麻婆豆腐、鶏の唐揚など20種類以上のメニューが用意されている。

 がっつり食べるイメージの餃子の王将だが、ジャストサイズによって少しずつ多種類食べたい女性のニーズにも応えられるようになった。また、あと1品を付け足したい人にも便利で、がっつり系の人にも喜ばれている。

 さらには、月替わりで提案するフェア商品も売り上げアップに寄与している。22年12月に登場した「五目あんかけラーメン」は約45万食を販売。23年1月も継続して販売中だ。

●料理の質を向上

 餃子の王将では、料理の品質を上げる取り組みを継続的に行っている。

 食材では、14年より主要食材を国産化。産地にもこだわり、餃子の皮や麺に使用する小麦粉は北海道産、にんにくは青森県産だ。

 調理では、本社内で社員(主に店長)が料理のスキルを向上させられる「王将調理道場」が17年に開設された。道場で腕を磨いた店長が、調理のコツや新商品の調理法を各店に持ち帰りスタッフに伝授する。このスキームにより、個人や店舗間の技術の格差を無くすように努めている。コロナ禍となってからは、オンライン研修も実施している。

 まとめると、1種類から3種類に増やした餃子、プレミアムな極王シリーズの提案、小皿のジャストサイズ充実、フェアー商品の好調、食材の国産化、王将調理道場での技術向上などが、好調の理由として挙げられる。顧客が選べるメニューの選択肢を増やしつつ、料理をおいしくする取り組みが、餃子の王将が値上げをしたにもかかわらず売り上げを伸ばしている背景にある。

 また、テークアウトをしやすいように専用の受付窓口を設けたり、デリバリーに対応したりと、非接触性が高い販売方法にも積極的に取り組んでいる。

 では、実際にどの程度値上げされたのか。

 一度目の値上げでは、22年5月14日より、グランドメニューの約2割となる14の商品で、店頭価格を20〜30円(税別)上げた。

 値上げの対象が全体の2割というのは、大したことではないという印象を与える。しかし、内容を見ると餃子、炒飯、天津飯、中華販、鶏の唐揚、ニラレバ炒め、酢豚、回鍋肉、餃子の王将ラーメン、焼そば(醤油)など、主力商品が多く含まれていた。

 続く二度目の値上げでは、同年11月19日より、グランドメニューのうち35の商品で、10〜50円(税別)上がった。対象商品は極王シリーズが含まれるなど、一度目の値上げより品数が多い。

 これによって主なメニューの税込価格の推移は次のようになった。

・餃子:(東日本)264円→286円→297円、(西日本)242円→264円→275円

・炒飯:(東日本)495円→528円→550円、(西日本)440円→473円→495円

・餃子の王将ラーメン:(東日本)550円→572円→594円、(西日本)528円→550円→572円

・ニラレバ炒め:528円→561円→583円

・回鍋肉:(東日本)528円→550円→583円、(西日本)528円→550円→572円

・極王炒飯:748円→748円→770円

 このように、全体では1割ほどの値上げになった模様だ(値上げしていない商品もある)。回鍋肉のように、これまで全国共通の値段であったメニューで、東日本のほうが高く設定されるケースもある。どうやら、西日本の人のほうが価格にシビアだと考えられているようだ。豚キムチも全く同様に、以前は全国共通の値段だったが、今は東西で区分して値上げされている。

 一方で、ニラレバ炒めのように東西で共通の価格を維持している商品もある。

 このように東日本と西日本で価格を分けているのも、奏功しているように見える。東日本のほうが心持ち高い。新しく価格が分かれた、回鍋肉と豚キムチの11円差は、たかが11円ではなく、非常に大きな11円なのかもしれない。

●餃子がブーム

 餃子はコロナ禍の巣ごもり需要で、「無人販売所」が急増するなど、冷凍食品を中心にブームになっている。無人販売所のパイオニアで、最大手「餃子の雪松」の場合、コロナ禍に入る直前の20年1月には19店だったのが、23年1月26日時点で432店にまで激増している。これは「コロナ禍で餃子が流行している」と可視化された事象であった。

 また、21年に開催された東京オリンピックの選手村食堂で提供された餃子が、非常においしいと選手たちの間で評判になった。冷凍餃子最大手、味の素冷凍食品の商品だったが、報道やSNSを通じて「日本の餃子はおいしい」という評判が拡散されることにより、餃子全体へと波及効果を持ったのではないか。

 新興の餃子チェーンとして「餃子とビールは文化です」をスローガンに掲げる、NATTYSWANKY(ナッティースワンキー)ホールディングス(東京都新宿区)の「肉汁餃子のダンダダン」が、コロナ禍で店舗数を伸ばしている。22年12月末日時点で、直営96店とFC31店を含めて127店ある。

 20年1月末時点で直営68店、FC18店の計86店であったので、コロナ禍の間に約40店もの店舗を増やした。

 同店の影響か、餃子をメインにした大衆的なお酒も飲める食堂が、よく盛り場で目に付くようになった。中には餃子の店の隣に、餃子の店といったケースもあるほどだ。

 このように、中華系の商材で持ち帰りに向いた餃子が、コロナ禍で注目を浴び、餃子の代表店として餃子の王将も恩恵を受けた面も否めない。

 しかし、それだけではなく、品質アップにためのさまざまな取り組みはもちろん、東日本と西日本で分けた値上げのやり方が巧みで、顧客の支持を受けている。

(長浜淳之介)