ここ数年、さかんに「EVシフト」が叫ばれてきました。そして、実際にそれを現実化する動きもあります。2022年は、トヨタがスバルと共同開発した「bZ4X(スバル名はソルテラ)」を発売しました。これによって、スズキとダイハツを除く、全ての日系自動車メーカーがEVを販売することになりました。
また、日産と三菱自動車は軽自動車EVである「サクラ」と「eKクロスEV」を投入。この2台の軽自動車EVは、自動車メディアからも高く評価され、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」「RJCカーオブザイヤー」の2冠を達成しました。まさに、22年は「EV大衆化元年」とも呼べるような年となりました。
●注目度は高いが、売れていないEV
EVへの注目度が高いことは間違いありません。では「EVが売れている」のかといえば、実際のところそんなことはないのです。日本自動車販売協会連合会が発表した「2022年1〜12月の燃料別メーカー台数(乗用車)」を見ると、1年間に売れたEVの数は3万1592台。国内販売約222万台の新車販売のうち、わずか1.4%にすぎないのです。18年は0.9%、19年は0.8%、20年は0.6%だったことを考えれば大きな伸びですが、絶対数はまだまだ売れているというほどの数字ではありません。
高い評価を受けた「サクラ」「eKクロスEV」はどうでしょうか。全国軽自動車協会連合会が発表した「通称名別新車販売確報」を見ると、22年の「サクラ」の販売台数は2万1887台で、「eKクロスEV」は4175台。発売が6月であり、わずか半年で2万台以上を売り上げたのは、単体のEVとしては大ヒットといえるでしょう。しかし、あくまでも「EVとしては」という前提条件での話。その数は、最も多く売れた軽自動車のホンダ「N-BOX」の年間販売台数20万2197台の、わずか10分の1ほどにしかすぎないのです。
●欲しいのはEV、ではなく「安くて良いクルマ」
つまり、「EVの話題は大きかったけれど、たくさん売れたわけではない」のが22年だったのです。
売れていない原因はいくつも考えられます。最大の障壁は「車両価格の高さ」でしょう。トヨタの販売する「bZ4X」はミッドサイズのSUVであるのに600万円からという値付けです。日産のEVであるミッドサイズSUVの「アリア」も539万円から。トヨタのエンジン車であるミッドサイズSUVの「RAV4」は293万8000円から。同じサイズ感なのに、エンジン車からEVになると、それだけで200〜300万円も高くなっています。
日産「サクラ」と三菱自動車「eKクロスEV」が注目されたのは、EVという商品性もさることながら、補助金をうまく使うと約180万円から買えるという価格も大きいはず。200万円を切れば、エンジン車とも十分互角に戦えるというわけです。
そんな昨年の動向を鑑みれば、1月末に発売を予定している中国のBYDによるEV「ATTO3」も、それほど多く売れるとは考えにくいでしょう。「ATTO3」は、58.56kWhのリチウムイオン電池を搭載して、最大485キロ(WLTCモード相当)の航続距離を誇る、ミッドサイズのSUVです。その価格は440万円で、性能からいえば輸入ブランドのEVや日系ブランドのEVよりも割安感があります。しかし、ガソリン車と考えれば440万円は安くはありません。ガソリン車であれば、トヨタの「クラウン」も435万円から販売されています。
「EVだから、クラウンよりも高くて仕方ないね」と買ってくれる人は、どれほどいるのでしょうか。一般的な消費者は、「安くて良いクルマ」を求めています。「環境によいから高くても我慢しよう」というのは、余裕のある人だけができる行為です。「EVは良いかもしれないが、高くて現実には手が出ない」というのが庶民目線でしょう。
とはいえ、世論が環境を軽視しているわけではありません。国を挙げてのカーボンニュートラル宣言もありますから、そういう意味でもEVを諦めるわけもいきません。さあ困りました、どうするのしょうか?
●見直されるハイブリッド車
そんな状況の中、1月10日にトヨタは新型「プリウス」を発売しました。「プリウス」といえば、世界初の本格量産ハイブリッドカーであり、環境に優しいエコカーの代表格です。その性格付けにより、旧来のエンジン車好きから「遅くて、格好悪いクルマ」と言われた歴史もあります。
ところが新型「プリウス」は、そんな過去のうっぷんを晴らすような、低く構えた斬新なデザインが採用されました。豊田社長からの「次のプリウスはタクシー専用にしてはどうか」という打診に対して、開発陣は全く正反対の「エモーショナルなクルマ」を押し通したそうです。エコでありながらも「一目惚れするデザイン」と「虜にさせる走り」を実現したうえ、価格は275万円からです。
格好良いスタイルに手の届く価格、もちろん燃費性能も抜群です。最高32.6km/L(WLTCモード)もの低燃費を達成しています。環境対策的にハイブリッドは、確実に成果を出しています。また、3月ごろには、プラグインハイブリッド(PHEV)も追加されるそうで、相当な人気モデルになるのではないでしょうか。
また、同じ1月にマツダは、欧州において「MX-30 R-EV」と呼ぶモデルを発表しました。これは、ロータリー・エンジンを復活させて発電機として搭載する独自のプラグインハイブリッド車です。欧州だけでなく、日本での発売も期待できます。
つまり、1月の新型「プリウス」「MX-30 R-EV」、3月の「プリウスPHEV」というように、この春はハイブリッドの話題が続いていくのです。
EVは話題になるけれど、実際に数多く売れる訳ではありません。そして、実際に売れ筋となるのはハイブリッドです。前述の22年の「燃料別メーカー別台数(乗用車)」を見ると、現在、最も多く売れているのはガソリン車(42.3%)ではなく、ハイブリッド車(49.0%)なのです。
新型「プリウス」によって、ハイブリッドのネガティブなイメージが払しょくされるでしょう。また、話題のプラグインハイブリッドも投入されれば、改めてその便利さや魅力も知れ渡るはず。そうしたことが重なれば、23年はハイブリッドやプラグインハイブリッドの価値が、改めて見直される年となるのではないでしょうか。
筆者:鈴木ケンイチ