「クレーム対応に追われてしんどい」といったイメージが根強いお客さま相談窓口業務。その一方で、相談窓口を消費者からの意見が直接集まる“データの宝庫”だと考え、商品開発につなげる動きが加速している。
エスビー食品では相談窓口におけるデータ活用に力を入れている。消費者や取引先からの問い合わせや指摘を“全て”データとして貯蓄。重要度の高い内容は毎朝全社員に配信し、社員の「お客さま視点」の醸成に励んでいる。
顧客からの指摘はデータとして、どのように活用されているのだろうか。相談窓口の運営体制やデータ活用について、お客様相談センター ユニットマネジャーの木下香江子さんに話を聞いた。
●お客様相談センターの役割
同社のお客様相談センターは14人体制で運営している。基本の業務は電話やメールでの対応業務。木下さんは「情報提供に加えて、顧客一人一人の不満・不安を受け止め、安心していただくことが重要な役割です」と話す。
1日当たり80〜90件の問い合わせがある。内容は「どこのお店に売っていますか?」という販売店の問合せから、商品の使い方、原料の産地やアレルギーに関する質問などさまざまだ。
また、商品に対して「もっとこうしてほしい」という意見・要望については、商品改良・改善の参考にしている。
「お客さまの声を社内の各部署へ伝え、商品やサービスの改良・改善を実施しています。要望や指摘を実際に商品に反映することで、エスビー食品のファンを増やすことが重要な業務になっています」(木下さん)
●要望・指摘は一元管理 毎朝社員に配信
顧客からの問い合わせは全て情報管理システム「Compass System」に記録し、管理している。2018年10月から導入しており、お客様相談センターに加えて、工場や原料・資材メーカーへの調査、営業部門を通じた指摘連絡や商品情報に関する取引先からの問い合わせも一元管理。顧客満足向上に向けて、より一層の全社活動の強化につなげているという。
システムの名称について、木下さんは「『お客さまの声を、エスビー食品の進むべき方向を示すコンパスとして、お客さまに満足いただける商品づくりに生かしていく』という思いを込め、Compass Systemと名付けています」と話す。
Compass System内に貯蓄したデータは、「VOC(Voice Of Customer)配信」と呼ばれるシステムで1日1回社内に配信している。全部署が対象で、毎朝社員がPCを起動すると、「お客さまの声のピックアップ」の画面が立ち上がる。
「社員のお客さま視点の醸成と、お客さまの声をもとに、より良い商品やサービス向上を目指すために毎日配信をしています。内容は社員のモチベーションが上がるうれしいお声から、商品に対する厳しいご意見まで幅広く掲載するようにしています」(木下さん)
●消費者の声から改良に至った事例
同社はこれまでに消費者の声をもとに商品の改良を行っている。
ロングセラー商品である「赤缶カレー粉」には「火を通さなくてもそのまま使えますか?」という質問が年間80件寄せられた。社内の「改良改善会議」で提案し、パッケージ変更時にあわせて「加熱しなくても召し上がれます」との表記を追加した。
「他にも、レトルト商品には『レトルトカレーの箱に“パウチ”と書いてあるんだけど、パウチって何?』といった問い合わせがありました。そこで、パッケージの“パウチ”を『中袋(レトルトパウチ)』に表記変更。改良改善会議で提案し、半年後の新製品から順次対応しました」(木下さん)
●「暴言の場合は切電して良い」 カスハラ対策も
昨今注目を集めている、顧客が従業員に対して悪質なクレームや不当な要求を突きつける迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。電話対応はカスハラの被害が多いことが特徴だが、エスビー食品はどういった対策を実施しているのか。
「大人数の部署ではありませんので、お客さま対応中の様子を周りのメンバーが察知しサポートするなど、一人で抱え込まないようリーダーによるフォロー体制ができています」
「『不当な要求があった場合は毅然とお断りする、暴言の場合は電話を切って良い』が基本となります。対応が困難な場合は、リーダーによる折り返し対応を案内するよう伝えており、メンバーに精神的負荷が大きくならないようにしています」(木下さん)
●間接的な問い合わせにも対応 今後の展望
スマートフォンが一般的になった今、従来の電話やメールでの早急な対応ではなく、検索サイトやSNS経由で自己解決できることへの要望が高まっている。同社は今後は「間接的な問い合わせへの対応」を強化する姿勢だという。
「直接問い合わせるのではなく、WebやSNS経由の間接的なお客さまへの施策が必要だと考えています。お客さまが自己解決できるように、公式Webサイトに『よくあるご質問』を拡充中で、検索性の向上策も実施しています。今後はより多くの情報提供を通じ、お客さまに価値を提供できるよう努めていきたいと考えております」(木下さん)