スマートニュースは2月5日、格闘家の皇治が大阪で開催する自主興行「NARIAGARI」の第1回大会をニュースアプリ「SmartNews」の格闘技チャンネル上で無料独占ライブ配信する。

 2022年はボクシングや総合格闘技を中心に、空前の格闘技ブームが起こった。スマートニュースが格闘技チャンネルを立ち上げ、格闘技イベントを配信する理由を事業責任者に聞く。NARIAGARIの皇治CEOにもインタビューし、創設の背景と真意に迫る。

●日の目を見ないプロ格闘家にスポットライトを

 22年のブームは4月9日、ボクシングのゲンナジー・ゴロフキン対村田諒太のミドル級王座統一戦を皮切りに始まった。

 6月7日の井上尚弥とノニト・ドネアのバンタム級王座統一戦、6月19日に東京ドームで開催された那須川天心と武尊などが戦った「Yogibo presents THE MATCH 2022」、9月25日の「The Battle Cats presents 超(スーパー)RIZIN」での、フロイド・メイウェザーと朝倉未来のエキシビションマッチは、多くのファンを魅了した。

 絶え間なくビッグマッチが続いたことがブームを支えた形だ。それに加え、朝倉がプロデューサーを務める1分間最強を決める「BreakingDown」も大きな注目を集めた。

 23年も格闘ブームが続くのかが注目される状況の中、有名キックボクサーの皇治が2月5日、大阪で「NARIAGARI」という自主興行を開催する。これは「まだ日の目を見ないボクサーやキックボクサーに戦いの場を提供することで、成り上がってもらいたい」という皇治の狙いから実現した大会だ。スマートニュースは、全17試合を無料で独占配信する。

●格闘技は大きなセグメントの1つ

 配信するに至った経緯について、スマートニュースの日本コンシューマー事業責任者である野辺一也執行役員に話を聞いた。

 「実際に格闘技チャンネルを立ち上げてみて、手応えを感じています。格闘技は世の中でこれだけ話題になっていますし、よりオリジナリティーのあるコンテンツを自ら考えていくべきという意見が社内から出ました」

 独占配信にあたり、大会自体のスポンサーにもなっているのか。野辺氏はあらためて双方にとってメリットがあることを強調した。

 「具体的な経済条件はお話しできないのですが、スポンサードをする形にはなります。私どもとしては、皇治選手の初めての興行なので注目度が高いと考えています。また、SmartNewsの中にも格闘技に興味のあるユーザーが多くいますので、その方々に発信をすることで、視聴機会を創出できます。大会を観てもらう人を増やす意味では、私どものニュースアプリを通じて多くのユーザーにつなげますので、皇治選手にもメリットを提供できると思っています」

 そもそも、いつからNARIAGARIの話は始まったのか。

 「22年の夏・秋ぐらいから話をした感じで、当時は名前すら決まっていませんでした。なぜ私どもかといいますと、格闘技チャンネルを立ち上げるにあたり皇治選手や魔裟斗さんなどに協力をしてもらった経緯があるからです。そして、今回『一緒にどうですか』という話を皇治選手からいただきました」

 SmartNewsは無料のニュースアプリであり、課金はないものの、読者がコンテンツを読むにあたり広告の配信枠がある。これが同社にとっての大きな収益源だ。ただ、格闘技との相性の良さについては少々疑問符が付く。だが同氏は、格闘技は数あるチャンネルの中でも存在感があると話す。

 「今の時代、1つのコンテンツだけでは、全てのユーザーを満足させることができない時代です。当アプリには約1000個のチャンネルがありますが、ユーザーのニーズも多様化し、そこに同じ趣味、嗜好を持っている人たちが集まり、ファンがつながる場所ができます。

 選手やアーティストそれぞれの取り組みの中で、完全な双方向性とまではいかくても、何かファンが参画して一緒に企画を動かすような体験企画を提供しています。つまり趣味や嗜好が多様化する中で、ニーズがあるものをそろえていくことが重要なのです。その中で格闘技はかなり大きなセグメントです」

●ライトユーザーといかに接点を持ち続けるか

 だが、チャンネル数が1000もあると、格闘技は埋もれる可能性がある。何か目立たせる仕掛けはあるのか。

 「おっしゃる通りで、チャンネル自体の選択肢が多くなると、今度はユーザー側が格闘技を選ぶのが大変になります。今までSmartNewsは使っていなかったけれども、皇治選手に興味があるから、『この機会にアプリをダウンロードしてみよう』という流れは当然、格闘技チャンネルをフォローする前提になっています。

 あとは自ら能動的にチャンネルを増やす際のオススメ機能です。全てのユーザーが自分に合ったチャンネルを見つけて、登録をするのは相当ハードルが高いです。同じようなチャンネルを見ている人の傾向は分かっていますので、レコメンデーションしていきます。当社が強化していく方向性としてはディスカバリーです。情報がたくさんある中で、ユーザーが観ていて面白いと思える出会いを、いかにアプリ内に作るか。その部分に試行錯誤をしています」

 筆者は40年来、格闘技を観てきているが、ブームが23年以降も続くかどうかには懐疑的だ。いかにしてブームを維持させたいと思っているのか。野辺氏は日々の接点を創出し続ける地道な活動がポイントになるとした。

 「格闘技に限らず、新型コロナのタイミングでほとんどのイベントや興行が中止されました。コアなファンは常に残っていますが、そこにミドル・ライトユーザーがムーブメントに乗ってくるのです。試合の間隔が空くと、やはりライト層が薄らいでいき、もう1回ユーザーを獲得しなければならない構造になっています。

 重要なのは、ミドル・ライトユーザーといかに接点を持ち続けるかです。ユーザーと日々の接点を持つようにしないと1年もすれば、使われなくなってしまいます。幸いSmartNewsは毎日ニュースを見るのが習慣化されているアプリなので、継続的に情報発信をするだけでなく、NARIAGARIを観る方であれば、次の興行にも興味があると思うので、私たちの方からリマインドする必要があるでしょう。

 大会がない期間も選手が情報発信をし、そこにインタラクティブな機能を入れ、質問ができるようにするなど、ファンが選手とつながっている感覚を持つことで、エンゲージメントが蓄積されていきます。私たちが提供すべきところだと考えています」

●収容人数は500人 大きな会場でやらない理由

 主催する皇治に団体のコンセプトを一言で聞いてみた。

 「それは、もう、『成り上がり』です。ほんまに強い思いを持っている人を出したいんですよ。それが一番です。本当に苦労してがんばっている選手が成り上がれる舞台にしたいんです。選手にスポットライトが当たってほしいんです」

 会場は、収容人数が500人と大きな場所ではない。チケット収入というよりペイ・パー・ビュー(PPV、有料コンテンツに料金を支払って視聴するシステム)で稼ぐビジネスモデルにしていきたいのだろうか。ただ第一回に当たる今回に関しては、無料で配信するためにPPVで稼ぐわけではない。

 「なぜ大きい舞台でやらないか。それは大きな会場では、チケットを売れる選手をメインに使わないといけなくなるし、試合数を多くしないといけなくなるんですよね。

 自分はそうではなく、試合数を可能な限り絞ることによって、できるだけ多くのスポットライトを当てるようにしたいんです。スマートニュースさんや自分の動画チャンネルなど何らかの媒体に、選手をよりピックアップしてもらうようにしたいのです。

 ほんまやったらプロ興行ではないので、別に賞金を出さなくてもいいと思うんですが、出してこれから成り上がるために資金にしてもらえたらいいかなと思って、(賞金を)出します」

●メジャー団体への登竜門的な存在に

 記者会見では「BreakingDownのパクリです」と話していた皇治。だが詳しく話を聞いていくと、方向性が異なるのは明らかだ。

 「BreakingDownのような素人のスター選手が出てきてもいいと思います。ただはっきり言って、俺たちはプロで、下積みがあって、最低限の強さはありますからね。俺も武尊や那須川天心には勝てなかったけど、チャンピオンクラスの選手にも勝ちましたし、タイトルも取りました。

 例えば、BreakingDownのこめお選手は自分のジムに来ているのですが、あの子たちも成り上がりたかったと思うけど、パッとね、実力もないのに、団体の影響力でいきなりスターになってね……。問題も多々起きるじゃないですか。だから、いきなり素人に知名度をバッとも出すのもどうなのかとは思っています。

 プロで実力のある人がなかなか売れない時代です。それはSNSなどで自己プロデュースが簡単になってきているからです。俺はそうではなく、格闘技や夢に対して苦労している子たちにこそ知名度は持たすべきだと考えています」

 実力と知名度は比例するべきという考えのようだ。

 「俺は、実力はあるけど知名度はない選手に知名度を与えて、RIZINとかK-1とか大きな舞台に上げたいんです。ほんまに実力があるから、その団体を盛り上げることもできるし、一般のファンも喜びます。NARIAGARIを大きくしていくというよりも、メジャーな舞台にいい選手をどんどん輩出していきたいというスタンスです」

 例えば昔のプロレスの世界では日本プロレスがあり、その後、全日本プロレス、新日本プロレスが中心となり、やがて多団体の時代を迎えた。その結果、各団体の選手層は薄くなり、入場者も減って経営が苦しくなるスパイラルに陥っている。一方、NARIAGARIは競合団体ではなく、メジャー団体への登竜門的な位置づけと考えていいのだろうか

 皇治は「はい、その通りです」とはっきりとした口調で答えた。

●ファイトマネーではなくスポンサーで稼いでほしい

 成り上がれる舞台を用意したのは、皇治自身がなかなか芽が出なかったときに「こういうチャンスがあったら良かったのに」と思っていたからなのか。

 「まさにそう思っていましたね。自分は15歳から立ち技の格闘技を始めて、26歳でK-1のリングに上がりました。この11年間はマジでしんどかったですし、お金もなかったです。ハッタリばっかりで、どうやったらK-1に行けるかも分からずに、もがいていた時期がありました。

 自分が誇りに思うのは、たくさんの人に支えられたけど、誰かに導いてもらったことはないことです。地方で埋もれていた選手の1人でしたが、地道にはい上がってきたんです。K-1のリングに上がったときも自分が直接プロデューサーに連絡しました。自分の人生はそれで良かったのです。だけど、もっと早くに登竜門的な舞台があれば、もっと早くメジャーになれたかもしれないと思うとね」

 メジャー団体へのルートが確立していなかったことで苦労した経験を、他の選手にはしてほしくない思いが強いようだ。そしてファイトマネーではなくスポンサー収入に本質的な課題があると話す。

 「この間もシュートボクシングのチャンピオンに会ったんですけど、格闘技で食べていけないから別な仕事をしているんです。本当は格闘技だけで食べていきたいのに、仕事をしないとあかん状況ってむなしいじゃないですか。これってプロといえるのかと。他のプロ選手にも負けてほしくないし、彼らと肩を並べ、そして超えてほしいです。

 なぜ食っていけないのかを考えると、重要なのはファイトマネーよりも知名度だと考えています。知名度さえあれば、いろいろと協力してくれる人はいるのです。スポンサーもビジネスとして宣伝してほしいと広告をどんどんつけるはずなのです。今は選手が広告塔にならない限り、プロとしてほぼ食べていけないのです」

 こうした現状への危機感があるようだ。

 「昔の旧K-1はファイトマネーが高騰しすぎて支払えず、その結果、潰れたわけですから、ファイトマネーを上げるのはなかなか難しいビジネス環境です。そうであるならば、選手を有名にし、かつ広告塔にしてしまえば、いろんな企業が有望選手に対してスポンサー料を払います。そうすればファイトマネー自体が高くなくても、みんな生活できるようになるんです。

 事実、BreakingDownの選手が食べていける理由は広告が入っているからですよね。埋もれていた選手が、実際に強くて、しかもスポンサーも付けられたら最高じゃないですか。そういう団体にできたらいいなと思っています」

●一歩踏み出す勇気

 皇治は自己プロデュースに長けている印象が強い。気を付けていることは何かを聞いてみた。

 「言われた本人は腹が立つけど、周りは笑ってしまうような感じですかね。差別用語とかいじめにならないようにすることは気をつけています。あとは勇気ですよね。俺なんか、試合で何回も負けても、こうしてインタビューを受けられているのは、勇気をもって一歩踏み出して行動したからです。誰もが挑戦しないことを1人でやるのは、自分も人間なので怖いです。だけど、勇気を持っていけば何かが変わると思ってやってきました。

 K-1からRIZINに行ったときもそうやし、RIZINで勝てなくて、もう無理かなと感じたこともいっぱいありました。続ける勇気があったからこうなれたと思います。成り上がりたい人はどんどん勇気を持ってね、一歩踏み出してくれれば、何かいい形になるんじゃないかな」

 選手としてではなく、興行主として事業を起こすことにためらいはなかったのかも聞いてみた。

 「いや、やっぱり恐怖ですよ。今回、NARIAGARIという団体を作ることで、マイナスの意見もいっぱいありますし。ただ、『自分が勇気を持って一歩踏み出してやってきたことが、初めて実を結びかけているな』って初めて思ったんです。埋もれている格闘家をピックアップすることについて自分が協力できるのは、格闘技をやってきてよかったなって思いました」

 23年も格闘技ブームが続くのだろうか。皇治は業界への危機感も感じていた。

 「続けないといけないですよね。俺はずっと言っているのですが、立ち技で魔裟斗さんが引退してから天心、武尊、自分の世代に来るのに10年かかりました。THE MATCH 2022は武尊と天心の試合だけでよかったのに、ほとんどのトップ選手の試合を組んでしまったんです。そうではなくて、他の試合は名前のない選手にやらせてよかったんです。有名な選手を全部使ってしまいましたから次からはもうマンネリですよ。

 正直、もう僕らは『終わった世代』なんです。このまま待ちぼうけしたら、次のスターが出てくるまであと10年かかります。だからこそ、次のスターが出るまでは、頑張らないといけないんです」

 副業をしないと食べていけないプロ格闘家が多い現状は、周知の通りだ。ただ、業界の構造上、ファイトマネーの拡大は難しいので、個別にスポンサーをつけることによって稼げる業界にするというのが皇治の主張だ。その発想は、筆者も考えつかなかった。確かに多くのスポーツにおいて、年俸、ファイトマネー、賞金といったものよりもスポンサー収入の方が多いことが少なくない。

 格闘技業界の構造を変えるのは簡単ではない。だが選手の実力さえあれば、スポンサーを獲得するのはそこまで難しくはない。NARIAGARIの創設は、苦労して成り上がってきた皇治の体験に基づく事業なだけに、課題に対して現実的な解を示したものと言えるだろう。

(ジャーナリスト武田信晃、アイティメディア今野大一)