ドラッグストア最大手のウエルシアホールディングス(HD)は3月24日、2026年2月までに全店舗でたばこ製品の販売を順次終了すると発表した。「健康な暮らしを提供する」との企業理念を鑑み、今後のたばこ販売は適切ではないと考えたという。業界最大手が決断した「たばこ廃止」の判断は、業界の内外にどのような影響を及ぼすのか。
同社は現在、全国で2751店舗を展開。このうち7割に相当する約2000店舗でたばこを販売している。3月1日以降に開いている新店舗では、電子たばこを含む全てのたばこ商品を販売していない。
「『お客さまの豊かな社会生活と健康な暮らしを提供する』との企業理念に照らし合わせ、今後のたばこの販売は適切ではないと考えた」と同社の担当者は話す。同社は「新たなヘルスケア商品・サービスを提案することにより健康産業を邁進(まいしん)」すると発表しており、「たばこ廃止」で企業イメージの向上につなげたい考えだ。
●「たばこ廃止」世界の潮流
ドラッグストア業界の動向に詳しい流通経済研究所の山崎泰弘・常務理事は「たばこの販売規制は、先進国を中心に世界的に見られる潮流。ドラッグストアという業態の特性からすれば妥当な決断ではないか」と指摘する。
海外では、米ドラッグストア大手のCVSケアマークが2014年にたばこの販売を全店で取りやめ、社名をCVSヘルスに変更している。ドラッグストアは「ヘルスケアを推進するミッションを持った小売業」(山崎氏)であり、国内大手の「スギ薬局」など、もともとたばこを取り扱っていない企業もある。
ウエルシアHDは、「健康な暮らし」をうたいながら、たばこを扱っているという“矛盾”を、今回の決定で解消する形になる。
ウエルシアHDの決定は、たばこ業界に影響はあるのか。山崎氏は「ドラッグストアでのたばこの販売ルート自体はそこまで大きくない」と指摘する。
たばこの販売ルートが最も大きいのはコンビニエンスストア。チェーン売上高の約3割をたばこが占めるとされている。一方、ドラッグストア業界は成長産業であり、販売チャネルが減ることは、業界にとっては長期的には痛手となりそうだ。
●コンビニにとっては有利?
ウエルシアHDの決定は、たばこの販売ルートが大きいコンビニにとっては有利に働きそうだ。
たばこの販売には、健康への配慮の観点から、たばこ事業法に基づき、営業所ごとに財務大臣の許可が必要となっている。販売店の乱立による販売競争を防ぐため、既存のたばこ店との間に一定の距離を設ける距離規制がある。
これまで近隣のウエルシア薬局がたばこを販売していたことにより、販売許可が下りていなかったコンビニ店舗もあるとみられ、こうした店舗にとっては、たばこ販売のルートが広がりそうだ。
●タバコの売り上げはどうカバーする?
「たばこ廃止」を決めたウエルシアHDは、たばこの売り上げを今後どうカバーするのか。山崎氏は「ドラッグストア業界が成長する背景には、健康志向の高まりの中で健康食品や医薬品のほか、ペット用品や園芸用品といった日用品の伸長も大きい。これらでカバーできるという判断もあるのではないか」と指摘する。
また、利益率の観点からみても、たばこは「たばこ税」の比率が大きく、粗利益率は消費財の中で最も低いものの1つ。「売り上げが減るほど、利益のインパクトは大きくない」(山崎氏)という。
財務省によると、全国のたばこの販売店数は2002年度の約30万7000店舗をピークに、年々減少を続けている。直近の21年末時点では22万9105店まで減っている。
業界最大手の動きは、たばこの販売店の減少に拍車をかけそうだ。