本連載は、メンタルヘルスの向上・維持に向けたサポートを行う産業カウンセラーの川村佳子氏が、ビジネスパーソンから寄せられた相談に基づき、職場で働く女性ならではの“お悩み”“イライラ”の要因やその解消法を解説するシリーズです。
第6回目は「嫉妬心」とのうまい付き合い方を解説します。
「嫉妬心」は、物心がついた時から老年期まで、私たち人間の心に感情があるかぎり一生付き合っていくものです。喜怒哀楽に続く「第5の感情」ともいわれています。
嫉妬というと、どちらかといえば隠しておきたい、見て見ぬふりをしたい「厄介な感情」というネガティブなイメージがあるのではないでしょうか? しかし、嫉妬心は付き合い方次第で、自己成長の原動力にもなります。嫉妬心は、男女ともに抱くものではありますが、今回の連載では“女性”に多いケースをご紹介します。
●「容姿端麗、仕事もできるなんて悔しい」
最初に、めぐみさん(30代会社員)の事例をご紹介します。めぐみさんは同じ部署に中途採用で入社してきたある女性のことで悩み、相談室を訪れました。
学歴、職歴、容姿、何もかも彼女にかなわなくて。彼女を見ていると「どうせ私なんか」と、惨めな気持ちになってしまうんです。周りの人たちも私より彼女に仕事を振ることが多いんです。彼女に期待をしているのが分かるから、余計に腹立たしくて。私の存在価値って、何なのかな……。
中途採用で入社してきた女性と自分を比べてしまい、めぐみさんは自信を失っていました。そして嫉妬心から、人前で彼女を何度もなじり、評価を落とそうとしたのです。そのことが原因で、会社内の人間関係もギクシャクしてしまいました。
めぐみさんのように、職場で同僚や部下に嫉妬心を抱き、円滑なコミュニケーションをとることができなくなったり、メンタル不調に陥ってしまったりするケースは少なくありません。
●なぜ嫉妬心が生まれるのか
そもそも、なぜ嫉妬心は生まれるのでしょうか?
心理学では「優越の欲求」といわれているのですが、人間には本来「誰よりも優れた存在でありたい」という欲求が備わっています。その欲求の満足が脅かされたとき、私たちは嫉妬心を抱きます。
人間の自我は1歳半くらいから芽生えると考えられていますが、その頃はいかに母親の関心を引くかという面で嫉妬心を抱くようになります。例えば、幼いきょうだいが母親の関心を引くために、「自分はこんなことができた! すごいでしょ!」と、アピール合戦をすることがありますよね。
発達段階を経て成長していくごとに世界が広がり、成人期、社会人になると、自分と他者を比較することから目を背けられなくなります。受験や恋愛、就職、出世、才能、容貌、健康、財産など、嫉妬心は「自分より優れた人」「評価の高い人」に向けられていきます。「誰よりも優れた存在でありたい」という優越欲求の満足が脅かされるとき、私たちは嫉妬するのです。
●嫉妬しやすい人の特徴
嫉妬深い人は、普段の言動からも見てとれるくらい分かりやすいのが特徴。涼しい顔をしているポーカーフェースの人も、ひょいと顔出す嫉妬深さは隠しようがありません。嫉妬心を抱きやすい人の特徴を5つ挙げてみます。
(1)俺が、私がと、「自己アピール」の強い人
(2)スタンドプレーを常に好む「目立ちたがり屋」
(3)「うわさ好き」な人
(4)大風呂敷を広げる「虚栄心の強い人」
(5)他者と常に比較する「不安の強い人」
また、これに加えて、いつも正論や正義を振りかざし人を正そうとする人も嫉妬心を抱きやすい傾向があります。彼らは一見、嫉妬心とは無縁のように見えますが、実は間違いや失敗を何よりも恐れています。自分の存在がいつも揺らいでいて不安があるので、自分を主語に意見をせず、「世間一般」や「常識」を盾に、あくまでも「世間の意見」だと主張してくることも。
こうした特徴を見ていくと、嫉妬心を抱きやすい人は、自分との信頼関係の作り方がうまくできていない人といえるでしょう。「自己顕示しなくても大丈夫な自分」への十分な信頼感を育て、養うことが重要です。
●嫉妬は可能性のチャンス! 上手な向き合い方とは?
嫉妬心を抱いた時の上手な付き合い方をいくつかご紹介します。
(1)嫉妬の原型を崩して切り離す
嫉妬心は、羨望と妬みが入り交じった感情といえます。そして、自分と同等だと思っている人、もしくは完全に格下だと思っていた人が結果を出したときや、周りから評価されたときなどに抱く感情です。
私達は手の届かない相手には、嫉妬ではなく憧れの感情を抱きます。嫉妬したときは、「うらやましさ」と「妬み」を切り離し、羨望の気持ちが自身にあることをそっと受け止めてみましょう。そうすることで、自分が本当はなりたいもの、欲しいものに気付くことができます。
(2)結果までの過程に目を向ける
私達は、他者の実った赤い果実だけを見て、ひがんだり妬んだりしてしまう時があります。
しかし、どんなに結果を出している人でも、必ず陰で努力を重ねています。まずは、嫉妬したその人の努力の過程に目を向け、「すごいな」という気持ちとともに敬意をはらってみるのはいかがでしょうか?
「なかなかできないことだ」「頑張ったんだな」「どうやって努力したんだろう」――こんな風に、結果だけでなく、そこまでたどり着いた道のりに目を向けてみると、「よし、自分も頑張ろう!」といった気持ちになってくるはずです。
(3)「嫉妬はチャンス」と考える
嫉妬は自分に「あなたもできるよ」という可能性のサインを送ってくれています。なぜなら、私達は興味のないものには、関心を寄せないからです。
「本当は自分もあんな風になりたいのかもしれない」「自分はまだやっていない。挑戦してみようかな」
嫉妬心が沸き上がってきたとき、静かに自分の気持ちと向き合うと、知らなかった自分に出会えるかもしれません。自分が何に嫉妬しているのかが見えてきたら、そんな自分に許可を与え実際に行動してみましょう。新たな可能性のチャンスです。
人は苦しいときや悩んだとき、自ら努力するよりも、他者の足を引っ張ったり、相手に責任があるのだと他人のせいにしたり、安易でラクな方を選んでしまいがちです。しかし、ネガティブな感情には多くの可能性が秘められています。
苦しい感情を抱く自分にOKサインを出すことは難しいかもしれません。しかし、どのような感情も自分の大切な一部であると考えることができれば、私達は自分の最高の応援団になることができます。こうして、自分への信頼感を、自分自身で満たし、仕事も頑張っていきたいですね。