●連載:令和5年の法改正トリセツ

「労働基準法改正」「育児・介護休業法改正」「Cookie規制」など令和5年(2023年)もいくつかの改正法施行が予定されている。企業は法改正施行に向けて、どのような準備をしておくべきか?

 2022年7月に女性活躍推進法の厚生労働省令が改正され、労働者301人以上の企業に対して、男女の賃金差異の公表が新たに義務付けられました。情報公表は事業年度の終了後、おおむね3カ月以内に実施しなければなりません。3月末に事業年度が終了する会社であれば6月末までに公表することになります。

 公表義務化の背景には、男女間の賃金格差がなかなか解消されないという課題があります。賃金格差の実態や一つの要因である女性管理職の少なさについて本稿で解説していきます。

●縮まらない賃金格差

 女性活躍推進法(16年4月施行)が成立してから7年が経過しましたが、依然として男女間の賃金格差は存在します。そう聞くと、扶養内で働く人や派遣・パートなどの非正規社員が多いという理由を挙げる人がいます。しかし正社員の平均年収で比較しても、男性348万8000円に対して、女性270万6000円と差があるのは事実です。

 厚生労働省は、男女の賃金格差が解消されない最大の要因として「役職の違い(管理職比率)」を挙げており、次いで「勤続年数の違い」となっています。

 帝国データバンクの調査によると、管理職(課長相当職以上)に占める女性の割合は 9.4%(22年)と過去最高を更新したものの、前年比0.5ポイント増とわずかな改善幅にとどまり、依然として1割を下回る低水準が続いています。正社員でも管理職にならないと昇給は頭打ちとなります。労務行政研究所が22年に上場企業を中心に調査した職位別の賃金は次のようなものでした。

・部長:1000万円台

・課長:800万円台

・係長:500万円台後半〜600万円台前半

・一般社員:300万円台後半〜400万円台前半

 部長の年収水準を100とすると一般社員は40程度にとどまります。女性の管理職が増えない限り、男女の賃金格差は解消しないでしょう。

●女性管理職が増えない2つの理由

 ではなぜ女性管理職は増えないのでしょうか? 昨今は出産後に育休を取りながら働き続ける女性が増えましたし、女性管理職を増やそうとする企業も増えてきたので、疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。

 社会保険労務士としての筆者の経験則などを基にすると、2つの理由があると思われます。一つはそもそも管理職を目指す女性が少ないことです。一般職の今でも大変なのに責任が重くなったら、家庭や子育てとはとても両立できないと考える人は少なくないようです。

 もう一つは営業職を希望する女性が少ないことです。営業という職種は、売り上げという明確な指標があるため、他の部署に比べて結果次第で評価や昇進につながりやすい面があります。輝かしい学歴や特別な能力がなくても、努力を続ければ成果を上げられるのです。

 ただ一方で、一日中テレアポを続けたり、数字を達成できなければ上司から詰められたり、接待の場でハラスメントを受けたりするマイナスイメージもあるため、営業職にアレルギー反応を示す女性は少なくないのではないかと思われます。

 求人サイトdodaが実施した「女性の仕事満足度 職種ランキング2022」によると、1位はマーケティング・広報アシスタント、2位は総務でした。営業職はトップ20にすら入っていませんでした。

●自己裁量の余地は管理職や営業職のほうが大きい

 傍から見ると仕事が大変で割に合わないと思われる管理職や営業職ですが、一般社員や内勤社員よりも自己裁量の余地が増えるので、時間をコントロールできるというメリットもあります。

 一般社員であれば、上司から振られた仕事を断われないでしょうし、外線電話の応対や課内行事の幹事役など仕事以外の雑務もあります。管理職になればスタッフに仕事を振る、会議に出席するといった業務が中心になるので、仕事の段取りを立てやすくなります。学生時代の部活を思い出してみてください。1年生はひたすら上級生に命じられた練習をこなすのに加え、用具の整理や清掃などの雑用をこなさなくてはなりません。上級生になれば、こうした雑務から解放されることも多かったのではないでしょうか。

 人手不足により管理職が実務もこなさなければいけない中小企業や、短期間で成果を出すことを要求される外資系企業、スタートアップ企業などを除き、ある程度の規模の日系企業では管理職になったほうが仕事の負荷はむしろ減る傾向があります。平均以上の能力のある部下が多いので、トラブルも頻繁に起こるわけではありせん。

 同じような状況が営業職に当てはまります。テレアポ、上司からの詰めなどは、不動産や保険、金融などの一般消費者をターゲットにした職種での話。決まった得意先を回るのが中心の法人営業では様子が異なります。相手企業も迷惑するので一日中、テレアポをするような企業は少ないです。扱う商材や職種にもよりますが、卓越した営業センスがなくても真面目に取り組めば一定の数字を上げることができるケースも多いのです。

 コロナ収束後も効率化のためオンライン商談を選択する企業も増えてきているので、移動や出張による疲労や残業時間の軽減も期待できます。むしろ、機密性を守るため出社している経理などの内勤社員よりも、営業職のほうがリモートワークを続けやすいのです。

 子どもの急な発熱といった突発的なトラブルが起きた場合も、営業職であればリモート商談に切り替えたり日程を変更したりと自身で調整も可能です。内勤社員よりも同僚に対する「自分が急に休んでしまった」という罪悪感を覚えずにすむのではないでしょうか。

●成功事例の浸透を

 もちろん管理職になれば、どんな企業であれ責任が重くなりプレッシャーが増すことには変わりません。しかし管理職に昇格することで給料が増えるので、会社の近くに引っ越したり、家事代行を依頼したりなど選択肢も増やせます。平社員よりも子育てと両立しやすくなる可能性もあるでしょう。

 ただこうした事実はあまり認識されておらず、管理職や営業職は大変だという側面のみ刷り込まれているように思われます。バイアスを払拭(ふっしょく)するために、さまざまな事例を取り上げ、昇進するメリットを紹介するよう努めてみるのはどうでしょうか。