ミツカンがJリーグ2部(J2)所属の「ジュビロ磐田」とスポンサー契約を締結した。同クラブのユニホームを手掛ける英国のスポーツブランド「アドミラル」のロゴと似ているというネットユーザーの指摘がきっかけだった。英国ブランドと似ていると指摘された、ミツカンの企業ロゴにはどのような意味があるのか。それには創業一族の家紋が関係していた。

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●1804年に愛知で創業の酒造会社

 ミツカンは1804年、中野(中埜)又左衛門(なかの・またざえもん)が尾張国半田村(現在の本社がある愛知県半田市)で創業。現在でこそ、酢のイメージが強い同社だが、当初は酒造業としてのスタートだった。

 しかし、友人とともに訪れた、江戸視察での寿司との出会いが転機となる。又左衛門は当時、江戸で人気だった寿司に、主に米を原料とする高価な「米酢」が使われていた点に着目。酒粕を原料にした酢を製造すれば、寿司の低価格化を実現できると考えた。

 当時、酒造会社が酢を生産することは非常識とされていた。酒桶に酢酸菌が入ることで、酒が全て酢になる恐れがあるためだ。だが、大胆ともいえる又左衛門のチャレンジは見事に成功。江戸での寿司ブームに乗る形で、売り上げを順調に伸ばしていった。その後、明治政府下での文明開化で、庶民の食生活も変化。寿司以外にも酢を使った料理が広がり、需要が高まった。

●創業家の家紋をベースに考案した企業ロゴ

 明治政府下では、西洋の法体系に基づいた制度整備も進んだ。企業ロゴなどの商標権もその対象になった。当時の経営トップである4代目又左衛門が考案したのが、現在も使用されているロゴだった。

 創業家の家紋をアレンジしたデザインで、3本線を「ミツ」、丸を「カン(環)」と呼び、ミツカンになったという。当初は違うデザインを登録しようとしたものの、別の企業に先を越され、申請を断念したというハプニングにも見舞われる中、1887年に商標登録。翌88年からは全国各地を巡り、新マークのお披露目会を開催した。特に東京では、現在の貨幣価値に換算して億近い金額をかけ、歌舞伎座を貸し切ったイベントを行うなど周知を進め、現在に至る。

 同社の公式Webサイトの情報によると、3本線はお酢の命といわれる「味」「きき(酸っぱさ)」「香り」を表わし、下の丸はそれらを「丸くおさめる」という意味が込められているという。

 ジュビロ磐田とのスポンサー契約を巡っては、英アドミラルのロゴデザインとの酷似が、Twitterでいい意味での騒動になった。似ているからという理由で対立するのではなく、交流のきっかけとし、スポンサー契約まで締結した点にも、ロゴに込められた「丸くおさめる」という思いが反映されているのではないか。