「今、忙しいんで」「帰ってください」――。不審な訪問者に、インターフォン越しに男性の声で対応できる防犯グッズが話題を呼んでいる。2022年11月に発売し、初回生産5000台はまたたく間に完売。「ルフィ事件」と呼ばれる一連の広域強盗事件も影響し、さらに注目が集まる。アイデアを発案したのは、一人暮らしの女性社員たちだった。

 商品名は「応答くん」(2200円)。手のひらサイズで、16個のボタンがついている。それぞれを押すと、男性の太い声で「何の用ですか?」「これ以上来たら警察呼びますよ」などといった音声を発する。これをインターフォン越しに使うことで、男性が在宅しているように思わせる仕組みだ。

●きっかけはコロナ禍特有の女性の悩み

 開発したのは、アイデア家電などを手がける大阪府東大阪市のメーカー「ライソン」。クレーンゲームの景品企画などを手掛ける「ピーナッツ・クラブ」の第2営業部が、2018年に分社化し設立された。応答くん開発のきっかけは、女性社員たちから上がった、コロナ禍特有の悩みだったという。

 「おうち時間が増え、宅配サービスを利用する機会が増える中、毎回自分の声でインターフォンに対応すると『一人暮らしだと悟られるのではないか』という声が、女性社員から上がりました」(同社担当者)

 さらに、「誰か自分の代わりに『玄関の前に置いておいて』と応答してほしいと思うことがある」といった意見が上がり、「応答くん」の開発に至った。

 音声には当初、有名人の声を吹き込むことも検討したが、開発コストが上がるため断念。代わりに、自社の男性社員の音声を採用した。男性は30代後半で普段は営業職。プロではない社員の野太い声は返ってリアル感が増し、「より自然な音声になりました」と担当者は話す。

 利用シーンは女性の一人暮らしだけでなく、高齢者世帯、子どもの留守番などを想定する。インターフォン越しだけでなく、電話越しの利用も想定する。迷惑電話に対して「もう電話してこないでください」といった音声や、「ピンポーン」というチャイムの音も発せられる。チャイムの音を鳴らすことで、来客を理由に電話を切ることができるわけだ。

●自由なアイデア出しがユニークな開発に

 「応答くん」のみならず、同社はこれまでも社員の発案から数々のユニークなアイデア商品を手掛けている。2020年12月に発売した「せんべろメーカー」は、1台でおでんや焼き鳥・炙りに熱燗を楽しめる調理器具。コロナ禍で広まった「リモート飲み」などのニーズに対応する。商品名は「1000円でべろべろに酔えるほど安く飲める」との意味を込めている。好評を博し、翌年には「にせんべろメーカー」を新たに開発した。

 このほかにも、本格的な蒸し料理を簡単に作る「冷凍食品用せいろ蒸し器 点心爛漫」、冷える足元を暖める「巻くコタツ KOZUTSUMI」など、いずれも社員のアイデアから商品化。そのユニークさは、SNSなどを中心にたびたび話題に上る。

 社員から出るユニークなアイデアの数々は、どのようにして拾い上げているのか。担当者はこう話す。

 「当社では、誰でもアイデアを出すことができるので、思いついたら社内のインターネットのコミュニケーションツールに投稿したり、直接社長に話したりします」

 「アイデアは、社内で実現可能性を探り、『いける』と判断されたものについては、次のステップとしてサンプル制作へと進んでいきます」

 同社は社員数約30人。部署の垣根に関係なく、アイデアを出し合うことで、これまでに家電やアウトドア商品など約100品を販売してきた。

 応答くんは、「ルフィ事件」の報道が増した2月以降、特殊詐欺対策として問い合わせが増えているという。女性社員の不安から生まれたアイデアは、多くの人々の不安を解消するアイテムへと成長している。