ぐるなびが、地方に眠る「食」発掘のプロジェクトに挑戦している。予約困難な飲食店の予約などができる有料会員制サービス「PREMIUM GOURMET CLUB(プレミアムグルメクラブ) 」を2022年9月にスタート。その一環として、不便な場所にある有名店にヘリコプターで移動できるサービスを試験的に実施している。今後、サービスを拡大していく方針だという。2人1組で77万円という驚きのプランはどのようにして生まれたのだろうか。事業を統括する執行役員の西原史郎氏に話を聞いた。

 プレミアムグルメクラブの会費は月額3630円、年額で3万3000円としている。会員になると、食に特化したコンシェルジュが全国約8000店舗から希望に沿った提案・予約代行をしてくれたり、予約困難店を特別に用意してくれたりする。

 東京、大阪、京都といった都市部にはミシュランガイドに掲載されるような飲食店は多くある。一方、地方にある名店は交通利便性が高くないことから、注目されにくいという課題がある。富裕層は「時短」を重視する傾向が強いことから、ヘリコプターで地方の有名店に移動するプランを考えたという。

 これまで実施したツアーはどういった内容だったのか。

 1回目は22年10月、和歌山県岩出市にあるレストラン「ヴィラ・アイーダ」を訪れた。同店は隣接する畑で年間約300種類以上の野菜を育てているのが特徴。利用者は京都市内のヘリポートから、レストラン隣の空き地まで移動。3時間かけてじっくりとランチを楽しんだ。京都市内から車で移動すると約1時間30分かかるが、ヘリだと約30分で済むという。

 2回目は23年6月、滋賀県長浜市にある「徳山鮓」で実施した。同店は、近江地方の代表的な郷土料理である「鮒鮓(ふなずし)」が有名。こちらも、京都市内のヘリポートから出発するプランだ。車だと京都市内から約2時間かかるが、ヘリだと約30分で到着するという。

 このほかにも、23年4月に島根県邑南町においてプラン検証のためのデモツアーを実施している。「キャンピングレストラン×ヘリツアー」というコンセプトで、広島市内からヘリでスキー場などを備えた「瑞穂ハイランド」に移動。参加者はフィンランド式サウナを楽しんだ後、里山イタリアンAJIKURAが提供する食事をとり、夕方にはヘリで広島に戻った。料理には、年間100頭しか生産されないという石見和牛や、自社農園の有機野菜など同町産の食材を中心に使用したという。車で移動すると1時間30分かかるが、ヘリだと約20分だ。

●運用してノウハウを蓄積

 西原氏によると、今回のツアーは同社として初めての試みであったため、実施したことでさまざまな課題が見えてきたという。

 例えば、1回目のツアーではレストランの隣にある空き地をヘリポートとした。土地の所有者と交渉して借りた後は、周辺住民の家をまわり、ヘリポートとして使わせてほしいとお願いをした。理解を得るのは簡単でなかったと西原氏は振り返る。

 また、国が定めたさまざまな基準をクリアする必要があることから、ヘリポートの設置は思ったほど簡単ではないことも分かった。例えば、かつて小学校だったが、現在は別の用途に使用されている施設があったとする。広い校庭があるため、ヘリポートとして活用しようと考えたが、周辺にある照明がネックとなり諦めるといったケースだ。

 自社の利益のためだけにヘリポートを設置しようとしても、地元の理解が得られなければうまくいかない。プロジェクトを進めるにあたって「災害時に救援物資を運ぶ拠点としても活用できる」「地元の子どもたちもヘリに乗って楽しめる」といったアピールも必要になるという認識を西原氏は示した。

 何度かヘリを飛ばしてきてある程度のノウハウを蓄積してきたが、今後はどのような展開を考えているのだろうか。

 西原氏によると、宿泊プランを組み合わせたサービスを提供していく予定だという。また、25年開催の万博でインバウンド需要がさらに盛り上がることが予想されることから、開催地に近い淡路島や和歌山関連のツアーを充実させたいという考えを示した。

 ぐるなびは地域の魅力を発掘・発信するためにさまざまな活動をしている。例えば、自社の社員を「地域活性化起業人」として各自治体に派遣している。この制度は総務省が推進しているもので、民間企業が自治体と協定を締結し、共同で観光振興などに取り組むというものだ。現在16カ所に18人を派遣している。また、若手シェフを発掘・応援するコンペティション「RED U-35」を開催しており、このプロジェクトで表彰されたシェフと一緒に各地方に魅力的な店をつくるという構想もある。

 地方にある隠れた名店の魅力を富裕層にアピールする手段として考案したヘリを使ったサービス。今後、サービスを拡大していくなかでどれだけの支持が得られるか。