※本記事は、書籍『トップセールスだけに頼らない組織を作る 実践セールス・イネーブルメント データを活用した必勝パターンの設計から、育成施策・ナレッジ活用、効果検証まで(著・山下貴宏、翔泳社)』の中から一部抜粋し、転載したものです。
ここでは営業の成果と育成をつなぐ方法について具体的に解説します。まず全体像を押さえておきましょう。「営業成果を出すための行動(営業活動)」と「適切な行動をとるためのスキル/知識の習得(営業の育成)」の2つの流れとして上段と下段に分けます。
組織の中で継続的な仕組みとして回していきますので、一般的なマネジメントサイクルである「Plan(計画)」「Do(実行)」「See(検証)」(PDSサイクル)を横軸にとります。結果、上下で合計6つの箱ができます。
セールス・イネーブルメントは左上のPlanからスタートして、上段と下段それぞれの箱をつないでいき、最終的には上段と下段それぞれのSeeで得られるデータをもとに効果を検証する取り組みになります。上段と下段それぞれについて解説します。
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●営業成果を出すための行動(営業活動)の流れ
上段の流れは、営業成果を出すための行動(営業活動)です。一般的な営業組織のマネジメントサイクルをイメージしてください。
例えば、今期の営業組織の数値目標が設定され、各営業チーム個人に目標金額が振り分けられ(Plan)、営業が担当顧客にアプローチして日々の商談を進め(Do)、売上進捗をSFAなどで確認しながら目標金額を達成していく(See)、といったサイクルです。皆さんの営業組織でも多かれ少なかれ該当すると思います。
Plan:達成すべき営業成果の設定
達成すべき営業成果の設定は、例えば以下のような内容です。
営業目標:売上や利益目標などの数値目標。加えて、チーム別、製品・サービス別などの詳細
目標達成の柱:数値目標をどのように達成するのかをまとめた営業戦略のこと。直接販売 - 間接販売などの注力チャネル、重点的に提案する製品・サービス、顧客の業種業界や企業規模などの優先順位とその攻め方
注力すべき営業指標:上記方針に応じて、重点的に管理する営業指標
これらの情報は、営業役員を中心に営業企画部や営業マネジャーの間で決められるケースが多いでしょう。実際には、営業数値目標だけが上層部から設定されて、営業戦略やモニタリングすべき指標は現場の営業チーム任せ、という企業も多く見かけます。
「Plan」が具体的ではない場合には注意が必要です。私が支援する企業では、営業育成施策などの開発に着手する前に「Plan」の具体化から始めます。理由は、「Plan」を曖昧なまま進めると結果的にイネーブルメント施策の効果検証ができなくなり、施策の精度も落ちるためです。セールス・イネーブルメントは最終的に「Plan」を実現するための手段ということを忘れないようにしましょう。
Do:商談の前進
商談の前進とは、日々の営業活動のことですが、この領域については昨今営業の分業化が進んでいます。リード獲得はマーケティングが担当し、リードを育成して案件化までをインサイドセールスが担当し、案件を受注まで持っていくのはフィールドセールスで、その後のサービスの定着とアップセル/クロスセルをカスタマーサクセスチームが担い、一連のサイクルを通じて顧客への価値提供(LTV:Life Time Value)を最大化するというモデル(いわゆるThe Modelが有名)です。
See:営業成果の振り返り
最後の営業成果の振り返りについては、要は営業指標管理です。スプレッドシートやSFAで一元管理します。スプレッドシート管理は効率性の観点で限界があるためあまりおすすめしませんが、いずれにしても数値をもとに進捗管理するのが「See」のステップです。
上段のPDSのサイクルを回すことで、イネーブルメントの目的である営業成果がデータで見えるようになります。
ちなみに、ここまでのところで上段の「Plan」「Do」「See」がつながるのが当たり前のように書いていますが、むしろ、つながっていない企業が多い印象です。典型的には「営業戦略は営業マネジャー任せ」「営業が全てのプロセスを担当していて疲弊」「スプレッドシート管理のためマネジャーによって見る視点がバラバラで集計に多大な労力を要する」「SFAを導入したが日報管理になっていて本来の数値分析に至っていない」といった事象の組み合わせで「Plan」「Do」「See」が分断されているような状況です。このような場合は、まずは営業活動の骨格から整理して、上段でやることを絞って、営業成果が見える状態にしましょう。
●適切な行動をとるためのスキル/知識の習得(営業の育成)の流れ
下段は、適切な行動をとるためのスキル/知識の習得(営業の育成)です。上段の営業活動をスムーズに進めていくための「How(方法/やり方)」の強化をします。
Plan:営業To-Beモデルの整理と育成テーマの把握
営業の育成の「Plan」は、上段の営業活動の「Plan」を受け、あるべき営業スキル体系の整理と育成テーマの把握から始まります。このPlan同士をつなぐ部分で重要なのは上段の「目標達成の柱」です。例えば、「ゴール達成の柱」が新規顧客獲得で数値目標を達成しようとしているのか、既存顧客からのクロスセルやアップセルで目標を達成しようとしているのか、重点顧客の業界はどこか、などによって必要なスキル体系が異なってきます(スキル体系のまとめ方は書籍をご参照ください)。
あるべきスキル体系を整理したら、スキルアセスメント(以下、アセスメント)をおこないます。営業の得意なことと不得意なことを定量的に測ることができます。例えば、既存顧客の深耕において「顧客の重点投資領域を把握し、提案する」というスキルが必要だと設定した場合、各営業がどのくらいのレベルでできているのかを測ります。例えば「提案すべきテーマが分からない、実践できていない」ということが5段階のスコアで1だったとすると、定量的に見てなんらかの打ち手が必要であることが分かります。そうすると重点的に取り組むべき育成テーマが明確になります。
Do:イネーブルメント施策の企画・開発・提供
育成テーマが見えたら、具体的な育成施策(Do)を提供します。施策の柱は4つで、「トレーニング(学習)」「コーチング(実践促進)」「ツール/ナレッジ(活動の効率化)」「システム(データによる可視化/共有化)」です。アセスメントで明確になった育成テーマの優先順位にもとづいて施策を展開していきます。
See:育成と営業成果の検証
最後は、育成結果の検証(See)です。「育成指標管理」では、各営業のトレーニングの受講率、スキルレベルの改善状況、ツールの利用状況など、育成施策に関わるデータを分析し、育成の進捗状況を把握します。
ここまでで、育成のPDSサイクルがつながり、データで育成の進捗が見られるようになります。ちなみに、このPDSサイクルの整備状況は、多くの場合は特定の「Do」にとどまっている印象です。例えば外部の「e ラーニング」を契約し、社員の受講率を集計して終わりだったり、一般的なアセスメントを実施してスコア管理していたりすることが多いように思います。どちらの管理も必要ですが、営業成果にフォーカスする場合、実務の観点からもう一歩二歩踏み込む必要があります。これも後の節で詳しく解説します。
●営業成果と育成をつなげた仕組みを構築する
ここまで上段の営業活動と下段の育成のPDSサイクルを見てきました。セールス・イネーブルメントというのは、営業成果(Plan)を起点に上段下段でそれぞれ施策を展開し(Do)、最終的に営業成果と育成のデータを突き合わせてその効果を検証し(See)、営業の成果と育成をつなぐ取り組みになります。
上段ではSFAを活用して営業活動管理をおこなっている、下段についてはeラーニングを実施している、という企業は多いかもしれませんが、それだけでは十分とはいえません。
著者:山下 貴宏(やました・たかひろ)