近年、チェーンの洋菓子店が苦戦を強いられている。コンビニやスーパーのスイーツが価格面に優れ、質も向上しているためだ。不二家は路面店の縮小を続け、銀座コージーコーナーも業績が軟調に推移している。一方、同じ洋菓子チェーンのシャトレーゼは業界の動きに反して著しい成長を見せ、ついに国内外1000店舗を達成した。調べてみると、シャトレーゼがコンビニや他チェーンと直接の競争関係にならない強みが見えてくる。

●スイーツ市場は横ばいも「街のケーキ屋さん」が減少

 国内スイーツ市場は横ばいに推移している。矢野経済研究所の「和洋菓子・デザート類市場規模」によると、コロナ禍で若干落ち込んだとはいえ、2兆2000億円台前後をキープ。2021年度の数字を見ると、チャネル別の内訳はスーパーなどの量販店が4割ほど、コンビニが2割ほどを占め、以降は百貨店、専門店・路面店が続く。

 昨今話題を呼ぶことが多いコンビニスイーツは、09年にローソンが発売した「プレミアムロールケーキ」が火付け役といわれ、10年代に市場規模を伸ばした。その他、大手洋菓子チェーンへの集約もあり、この間に個人が経営する、いわゆる「街のケーキ屋さん」は縮小していった。

 近年は、コンビニ・スーパーの勢いによって大手の洋菓子チェーンも苦しめられている。不二家が展開する不二家洋菓子店は18年度から店舗数がV字回復しているものの、従来の路面店から売り上げがより少ない「納品店」への転換を進めている。

 納品店はスーパーなどの店内に設置される店舗で、販売は納品先が担う。店舗網全体の3割以上を占めているが、1店舗当たりの売り上げが少ないため、店舗が増えても洋菓子事業の売上高は以前より減少している。その他、銀座コージーコーナーも19年3月期に最終赤字へと転落。コロナ禍では売上高が伸び悩んでおり、23年3月期の売上高は245億円だった。

●なぜシャトレーゼが「一人勝ち」するのか

 以上のように苦しむ洋菓子チェーンが多い一方、シャトレーゼは全国で店舗数を増やすなど快進撃が続いた。20年3月末から23年3月末までの国内店舗数は540→582→640→740と3年間で200店舗を増やし、1月には国内外で1000店舗を達成した。

 ちなみにシャトレーゼでは国内店舗のおよそ9割がフランチャイズ店であり、ロイヤリティを取らずに工場から店舗への卸売を本部の収入とする仕組みを取っている。工場は北海道から九州まで全国に10拠点を構える。フランチャイズ主体の経営で、ロイヤリティではなく主に工場からの卸売でもうけるのはコメダ珈琲店と似たシステムだ。

 規模拡大は売り上げにも影響を与えている。シャトレーゼホールディングスの売上高を見ると、コロナ前の19年3月期は662億円だったのに対して最新の23年3月期は1327億円まで伸びており、コロナ禍での成長が著しいことが分かるだろう。

 不調の不二家・銀座コージーコーナーと、快進撃のシャトレーゼ。両者の大きな違いの一つが店舗立地だ。前者が駅前や都市部の繁華街に路面店を構えるのに対し、シャトレーゼは主に郊外のロードサイドに展開している。シャトレーゼが駅前商店街に出店する場合でも、比較的街の外れに出店する場合が多い。

 こうした立地の違いから、シャトレーゼは他チェーンより「目的買い」客の比率が高いと考えられる。対して駅前・繁華街に店舗を構える他チェーンは、たまたま店舗を見かけた客が甘いもの欲しさに訪れる、つまり「衝動買い客」の比率が高いのではないだろうか。駅前にはコンビニやスーパーなどが多く、不二家や銀座コージーコーナーはコンビニスイーツなどの脅威にさらされて業績が悪化したと筆者は考えている。

 そして、シャトレーゼが目的買い客、つまり「ファン」を集めた最大の理由は安さにあるだろう。ケーキ1切れの価格帯はおおよそ300〜400円台であり、不二家や銀座コージーコーナーよりも安い。価格の分、質感には差が感じられるが、消費者にとって安さは大きなメリットになるはずだ。

 ホールケーキも5・6号サイズで2000〜3000円台と低価格帯だ。1本64円の「チョコバッキ― バニラ」、1個129円の「ダブルシュークリーム」などケーキ以外の商品も安い。ちなみにシャトレーゼの全商品数は400ほどあり、和菓子やパンなども販売しており、豊富な品ぞろえも魅力の一つになっている。ネットのレビューを見ても、品ぞろえを評価する声は多く「ついつい多く買ってしまった」などの意見もあり、広い郊外店を主力とするシャトレーゼだからこそ可能な施策として売り上げの向上につながっているようだ。

 シャトレーゼの安さを支えているのが工場直販(SPA)モデルだ。北海道から九州まで全国10カ所に工場を構え、各工場から店舗へ直販する体制をとっている。

 工場では自動化を進めており、工場と店舗の間に問屋などの中間業者を挟まないため、コスト削減にもつながる。仕入面では卵や牛乳、果物などの主要材料を地元の契約農家から直に仕入れる体制をとっており、こちらも中間業者を省くことで低コスト化を実現している。

 製造から物流、小売までを自社で管理するSPA業態は、もともとユニクロなどアパレル業界で発展した言葉だが、現在では他業態にも普及している。同じく安価がウリで食のSPAとして挙げられることも多いサイゼリヤも、ハンバーグやホワイトソースを仕入先に近いオーストラリアの工場でまとめて生産しており、徹底した効率化で安さを実現している。

 なおシャトレーゼの店舗運営では、製品の大半を工場で製造している。店舗の工房で作ることもあるが、簡素化できているのか本格的なパティシエを置く必要が無く、工房スタッフをパートやアルバイトで募集している。バイト中心で運営できる点は、フランチャイズオーナーにとって評判のようだ。

●都市型店舗「ヤツドキ」も展開中

 シャトレーゼは16年3月期から海外にも出店し、現在はシンガポールやインドネシアなどアジア圏を主軸に180店舗(1月18日時点)を展開している。基本的には国内のシステムを踏襲し、海外向けWebサイトでも日本ブランドを訴求する。

 国内では、従来の郊外型と異なる新業態店を模索している。19年9月に銀座で1号店をオープンした「YATSUDOKI(ヤツドキ)」は都市型の店舗だ。現在では東京のほか山梨や兵庫などに20店舗以上を展開し、特に都内では従来と比較して駅近の店舗が目立つ。

 ヤツドキはシャトレーゼよりも高級感のある店舗デザインで、より敷居が高そうな印象を受ける。商品を見るとカットケーキがおよそ500円台、ホールケーキは3000〜4000円台と必ずしも高価格帯とはいえないが、シャトレーゼよりは高めの設定だ。高級感をイメージしているのは、目的買い客を増やし、コンビニスイーツや他チェーンとの競合を避けるためだろう。郊外型の安い店舗で成功したシャトレーゼだが、都市部で成功できるか。ヤツドキの今後に注目したい。

●著者プロフィール:山口伸

化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー