日本政府観光局によると、2023年12月の訪日外客数は273万人で、19年を上回る数字となった。24年1月17日に観光庁が公表した、23年における訪日客の旅行消費額は5兆2923億円と過去最高を達成するなど、インバウンド消費は好調な数字を維持している。

 コロナ禍で減少したインバウンドが戻りつつある中、訪日外国人向けの体験型観光サービスとして、昭和の時代を再現した「日本の田舎の学校体験」が23年11月に千葉県君津市でスタートした。

 サービスを提供するのは、運動会の企画・運営と、廃校キャンプ場を運営する「運動会屋」(東京都渋谷区代)だ。「日本の田舎の学校体験」は、同社が管理する廃校キャンプ場「CAMPiece君津」(千葉県君津市)で提供している。

●訪日外国人向け「日本の田舎の学校体験」とは

 「日本の田舎の学校体験」は、当時の面影をそのまま残した廃校を活用している。参加者は学ランとセーラー服に着替え、担当教師による授業を受ける。教師役には、プロの役者を起用することでエンターテインメント性を高めた。

 本サービスは日本人向けにも提供するが、授業はすべて英語で行う。参加人数は30人までを上限とし、最小3人から開催可能とした。料金は、大人(13〜60歳)が3万円、子供(6〜12歳)が1万円。

 朝のホームルーム、日直、書道や歴史の授業、給食、運動会、最後は卒業証書が授与されるなど、日本の生徒が経験する学校生活を擬似体験できるほか、オプションとして校庭でのキャンプ泊と温泉旅館への宿泊も可能とした。給食も昭和の学校で定番だったメニューを再現した。

 運動会屋は22年に廃校利活用事業者として選定され、当初は地域活性化のための運動会やキャンプ事業を提供していたというが、なぜ学校体験サービスに至ったのか。

 背景には「日本文化を体験したい」という外国人のニーズの高さがあげられる。「主力事業である運動会の企画・運営を海外向けにも展開した中で、現地の人たちが喜んで参加する姿をこれまで数多く見てきた。日本独自の学校生活の体験も外国人には新鮮に映るのではないかと考えた」と、運動会屋の代表である米司隆明氏は話す。

●サービスの立ち上げで苦労したことは?

 本サービスの特徴は「昭和レトロな学校」を再現していること。現在、日本でもZ世代を中心に「昭和ブーム」が起きているが、トレンドを意図したわけではないという。「廃校なので最先端の設備がない。一方で、豊かな自然に囲まれた立地に加えて、自身も昭和世代であることから当時を再現するほうが環境を生かせると考えた」(米司氏)

 学校体験のサービスでは、他校から攻め込んでくるヤンキーや、バケツを持って廊下に立つという“昭和の学校あるある”の演出も用意する。

 現在、運動会屋では廃校キャンプ場を4拠点運営しているが、学校体験サービスは君津市のみで提供している。「君津だからできたというわけではなく、校舎の雰囲気や体育館も使える使い勝手の良さが決め手となった」(米司氏)

 「日本の田舎の学校体験」は、インバウンド向けにありそうでなかったサービスだが、立ち上げにあたり、どんな苦労があったのだろうか。米司氏は「英語が話せて現地へ行ける役者の確保と、体格の大きい外国人が誰でも着用できるサイズを日本で探すのは大変だった」と振り返る。

 事業の立ち上げに費やしたコストは約600万円。観光庁が実施していたインバウンド向け事業の補助金を活用し、役者や送迎サービスの確保、制服などを含むコンテンツに必要なものをすべて準備した。

 24年1月時点で、利用者はまだいないというが、事前のテストを兼ねた体験会などでの評価は上々だったことから「自信のあるコンテンツはできたので、焦らず集客していく」考えだ。

 集客については、InstagramとYouTubeのアカウントを開設し、外国人向けにPRしているが、「立地の問題もあるため、送迎や都心部からいかにして集客するかが今後の課題」となる。

 千葉県君津市は都心から離れていて、羽田空港からクルマで約50分、成田空港からクルマで約80分という立地だ。ところが、有名な観光スポットがあるとは言えないため集客は容易ではない。さらに、木更津方面から「CAMPiece君津」へ向かうJR久留里線は、赤字路線として存続の危機にある。

 そうした不便な環境ではあるのもの、米司氏は「観光資源の少ない郊外エリアだからこそ、今回の体験型観光サービスを提供する価値がある」と話す。

●観光資源が少ない地方にインバウンドを呼び込む

 「地域を巻き込むサービスとして考えているので、まずコンテンツを作り、来てもらう。そのうえで地域の独自性を出したい。君津市は酒蔵が多いため日本酒をアピールできるほか、温泉も近い。廃線間近といわれるローカル線もあり、車両も含めた日本の牧歌的な風景も外国の方は楽しめると考えている」(米司氏)

 そのほか、地域の学校や生徒との交流、地元食材を使用した給食の提供などを将来的には目指している。

 また、今回の取り組みが成功し、実績となれば、観光資源が少なくインバウンドの恩恵を受けられていない地域の活性化にもつながると米司氏は指摘する。「同じ内容で横展開するのではなく、何もないところからコンテンツを作り、地域ににぎわいを創出する『地域創生事業』につなげたい」

 君津市のように観光客を呼べる資源がないエリアでも、インバウンド向けのサービスを作り、にぎわいを創出することで、地域の活性化を図る狙いだ。日本の地方における新たな観光資源として、取り組みが成功するかどうか今後も注目したい。

(カワブチカズキ)