2月5〜11日、東京・大手町駅にユニークな広告が掲載された。「ちゃんと隠さないと、個人情報は特定される」というメッセージと、一部を黒塗りにした人物名らしきものが5つ並んでいる。

 妹子……といえば、小野妹子? なるほど、歴史上の人物名のようだ。シェイク……スピア! 「門」が2つ入る名前といえば……誰だろう? ガリ、ガリ……だめだ、お笑いタレントさんの名前しか浮かんでこない。

 これは、個人情報保護の大切さについて、消費者の意識向上を促す取り組みを続ける一般財団法人「日本情報経済社会推進協会」(JIPDEC)が展開している広告だ。歴史上の人物をクイズ感覚で考えさせる手法が、SNSなどで話題を呼んでいる。 

 どのような着想から、今回の広告は実現したのか。同協会で広告展開を担当する、プライバシーマーク推進センターの福岡峻さんに話を聞いた。

 ビジネスパーソンであれば、初対面の相手などと取り交わす名刺に「Pマーク」のロゴが表示されているのを見たことがある人も多いだろう。

 これは、JIPDECが運営する「プライバシーマーク制度」のロゴマークだ。企業や団体などの個人情報保護の体制・運用が適切であることを、このロゴマークを用いて示す制度で、23年4月で創設から25年を迎えた。

 体制・運用の審査をへて、プライバシーマークを付与された企業は、24年1月末現在で約1万7600社だという。「個人情報」を企業が適切に取り扱っていることを示す証でもあるマークだが、日頃、現場で働くビジネスパーソンが個人情報といった小難しい話題に思いを巡らす機会は、そう多くはないだろう。

 そこで、今回の「歴史上の偉人」広告だ。「つい足を止めた」「上手な広告」――などと、SNSで広く拡散された。広告は、東京メトロ大手町駅やJR大宮駅で2月に掲出され、3月4〜11日に再び大手町駅に掲出されるという。

●「○門○門」「ガリ○○・ガリ○○」……誰?

 小野妹子、シェイクスピアまでは分かっても、「○○門○○門」「ガリ○○・ガリ○○」は悩んだ人も多いのではないか。ぜひ、特設サイト「知るといいこと、Pマーク。」で答え合わせをしてみてほしい。この広告はどのようにして生まれたのか。狙いとは――。

――今回の広告の狙いやターゲット層を教えてください

福岡さん: メインターゲットは30代のビジネスパーソンになります。プライバシーマークはBtoB商材であるため、今回は、調査の結果ビジネス層の中で認知度が低い層(30代)をターゲットとしました。

 また、プライバシーマークはビジネス上、名刺交換の時などに「なんか見たことはある」ものの「なんのマークか分からない」という方が多いことも課題の一つでした。そのため、個人情報保護の大切さを伝えるとともに、「なんか見たことあるマーク」ではなく「プライバシーマークは個人情報保護のマーク」といった形で、マークを認知してもらいたいと考えていました。

●反響が広がった要因は?

――クイズ形式をとりつつ、同時に個人情報保護の大切さを感じてもらうための工夫がとても巧みです。このアイデアはどのようにして着想したのですか?

福岡さん: 駅広告ですので、半強制的に通行する方の目に入ってしまうという点が大前提にあります。そのため、まずは「通行する方々にとって広告が邪魔にならないこと」そして「面白がったり楽しんだりしてくれそうな可能性があるものとしたい」というのが最優先事項でした。

 その前提がありつつ「個人情報保護」というのは、”小難しい”、”私は関係ない”と思われがちなものですから、ハードルを下げる、という点を意識しました。また、テーマはもちろん「個人情報」「個人情報保護」としなければならない中で、当然ながら、実際の個人情報を広告には使えない、という制限もあります。このような点から、偉人でのクイズ方式の広告となりました。

――広告を見た人からはどのような反響が集まっていますか?

福岡さん: SNS上で話題だった日の(協会サイトへの)アクセス数が増加していたので、答えが気になりサイトへアクセスしてくれた方が多かったのだろうと感じています。SNSを見ていると、全問正解の方もたくさんいらっしゃり、あれでは個人情報を守っているとは言えない、ということを実感してくれているような意見もたくさん拝見しました。

 当協会としては今までにない新しい内容や広告展開の方法だったので、内部のリアクションも大きかったです。個人的には、こういった方法や手段があるということ、「協会らしく」に必要以上に縛られる必要はないということを、一番に後輩たちに感じてほしいと思っていたので、今回の協会内のリアクションは嬉しかったです。

――SNSを中心に大きな反響を集めている要因について、どう分析していますか?

福岡さん: 反響の要因については、さまざまな要因が同時にあった結果であると考えています。リアクションの中で「○番目は誰だろう…?」や「某芸人さん…?」という方がたくさんいらっしゃいましたが、それだけではなく、伏字の箇所を大喜利のようにして遊んでくれた方が想像以上にたくさんいらっしゃいました。クイズ形式のあの広告は、その伏せ方から、想像しやすい誤答に加え、商品うんぬんは置いておいて「遊べる余地・想像する余地」が生まれたことが、結果的にSNS上でのリアクションにつながったのだろうと思います。

 また「邪魔にならないように」や「楽しめるように」という観点から、使用するフォントをインパクトを重視して派手なものや重たいものにするのではなく、丸みのあるものにしました。このような、接しにくい題材を接しやすくするためのこだわりで、たくさんのリアクションにつながったと考えています。ただ予想以上の反響ではあり、とても驚いています。