栃木県宇都宮市と隣接する芳賀町(はがまち)にまたがるLRT(ライトレールトランジット、軽量軌道交通)、「ライトライン」が好調だ。2023年8月26日に開業して以来、5カ月で約190万人が利用した。これは当初予想の約1.2倍になるという。24年4月1日のダイヤ改正で所要時間短縮、通勤通学時間帯の増便、最混雑時間帯の快速運転を実施する予定だ。さらに宇都宮駅西口以西の延伸計画も動き出す。実際に訪れてみると、ライトラインの走る街として活気がみなぎっているように見えた。宇都宮市の格が上がった気がする。

 ライトラインの現在の運行区間は「宇都宮駅東口停留場」と「芳賀・高根沢工業団地停留場」を結ぶ14.6キロメートルだ。市街地などほとんどの区間で道路上に軌道を設置しており、これを専門的には「併用軌道」という。道路と併用する軌道という意味で、一般的には「路面電車」のほうが通じやすい。

 かつて東京や大阪でも広大な路線網を持っていた路面電車は、自動車の普及によって邪魔者扱いされて次々に廃止されていった。いまでは路面電車がある都市の方が珍しく、路面電車そのものが観光資源になっている。そんな状況のなかで、ライトラインは75年ぶりに誕生した新規開業の路面電車となった。

 全車両が流線型の新型低床電車で統一され、デザインは「雷都・宇都宮」をイメージする稲妻の黄色。この意匠は停留場なども統一されている。料金収受は基本的に交通系ICカードを使い、すべての扉で乗降できる。昭和の懐かしさを残す路面電車とは一線を画し、欧州の街を走るような姿。「未来の乗りもの」の具現化である。実際に乗ってみれば「ライトライン」という名の新しい乗りものだと感じるはずだ。

●東側の建設理由は「工業団地の通勤改革」

 ライトラインは、JR宇都宮駅と宇都宮市西部の工業団地を結ぶ路線として建設された。沿線には清原工業団地、芳賀工業団地、芳賀・高根沢工業団地がある。ホンダ、キヤノン、カルビーなど、知名度の高い企業が進出している。これらの工業団地と宇都宮市中心部の間に鬼怒川がある。川があれば橋を架けるけれども、道路橋は自動車が集中し渋滞になりやすい。そこで軌道系交通アクセスが検討された。

 JR宇都宮駅とその周辺から工業団地へ通勤する人々は、路線バスや企業の送迎バス、マイカーで通勤していた。バスは渋滞で定時運行が難しく、企業は時差通勤を奨励してマイカーの集中を防いだ。ライトライン開通後はバス路線が再編されたこともあり、バス通勤が減った。企業も送迎バスを取り止めた。マイカー通勤が減れば、工業団地内の駐車場も減らせる。駐車場は非生産的設備だ。駐車場を撤去できれば、その土地に生産設備や研究設備をつくれる。

 清原地区には「ゆいの杜」というニュータウンがある。この街の住民も増加中で、周辺の工場に勤務する人だけではなく、宇都宮駅方面に通勤通学する人がいる。ライトラインにとっては工業団地とは逆方向の乗客を獲得できる。沿線の停留場付近には無料駐車場が併設されており、パークアンドライドでライトラインを利用する人がいる。需要の増加に応えるため、駐車場区画の増設が進められている。

 路線バスはライトラインを軸として再編されて、平日1日当たり148本が増便された。ただし、ライトラインの3つの停留場を起点として新設されたフィーダーバスは目標水準に達していない。宇都宮市は需要の定着に3年ほどかかると想定しているようだ。デマンドタクシーで病院や商業施設などを利用できる「地域内交通」からも、公共交通機関の乗り継ぎ利用も大幅に増加したという。

●沿線の経済効果も予想以上

 宇都宮駅東口から数えて6つ目の停留場「宇都宮大学陽東キャンパス」は、「ベルモール前」という副駅名が付いている。ベルモールは大型ショッピングモールで、付近にはシネマコンプレックスや温泉施設もある。ここもライトラインの日中や休日需要の源だ。つまり、ライトライン沿線の人々の移動生活のすべてにライトラインが対応している。

 渋滞緩和は成果が現れた。宇都宮駅とゆいの杜を結ぶ「鬼怒通り」の昼間12時間の自動車類交通量は、15年10月の観測で上下2万3534台だった。それがライトライン開業直後の23年9月には1万5604台まで下がった。減少率は3割以上だ。私が24年1月の平日に朝夕ラッシュ時のライトラインに乗車して観察したところ、渋滞は見つけられなかった。

 沿線のビジネスホテルは、今まで駅や工業団地へ走らせていた送迎バスを取りやめた。これは大きなコスト削減になったはずだ。沿線の商店なども客が増えているとのこと。マンションや住宅販売も好調とのことで、経済効果も大きいようだ。

 ライトラインでは「餃子付き1日乗車券」を販売している。餃子販売店舗で使える300円分のクーポン付きだ。私が訪れたときは対応する飲食店が1つだけで、しかも西口大通りの店だった。ライトラインに乗って行ける店ではないのか、と腑(ふ)に落ちなかったけれども、2月1日からライトライン沿線の7店舗が追加された。

 まとめると、ライトラインの建設はおおむね宇都宮市の目論見通り。新規建設路線は開業後に目標に達しない方が多いけれども、ライトラインは目標を上回るから大したものだ。むしろ休日の需要増は思いがけなかったようだ。鉄道ファンのみならず、ライトラインに乗る観光客が多かった。「餃子を食べてライトライン」が合い言葉かもしれない。

●懸念は解決、ダイヤ改正でスピードアップ

 乗客数が順調となれば、建設資金の回収計画も順調ということだ。このほかにライトラインで懸念されていたことは主に2つあった。

 1つは新たに併用軌道がつくられることに対する自動車交通の混乱だ。しかし警察署や道路管理者との連携が徹底しており、路面電車と自動車で右折信号が重ならない。郊外では電車の通過に連動する信号機が設置されている。これらは視察に訪れた路面電車のある自治体の人々がうらやましがっていると聞く。残念ながら電車と自動車の接触事故は起きているけれども、自動車側が信号や軌道の境界線を正しく認識すれば防げるものだった。

 もう1つは「すべての扉で乗降可能」という乗車方法だ。一般に路面電車や地方のバスは「後ろ乗り前降り」だ。乗車時に整理券を取って、降車時に運転士のそばの料金箱に入れる。交通系ICカードによって整理券不要になった路線もある。ところがライトラインは「交通系ICカードに限りすべての扉で乗降可能」となった。この方式が浸透するか。従来の整理券と現金の利用者が多ければダイヤが乱れることも予想される。

 しかし私が観察したところ、定期券含めて交通系ICカードの利用者が圧倒的に多くスムーズに乗降していた。わずかながら現金利用者もいたけれど、運転士が信号や停留場の発車時刻待ちの時に「いまのうちに両替をお願いします」と呼びかけており、降車で詰まることはなかった。

 現在の宇都宮駅東口〜芳賀・高根沢工業団地間の所要時間は48分だ。これは現金収受の遅延をあらかじめ想定したダイヤだった。現在は乗り方の定着やICカードの利用率の増加によって、余裕時間を短縮できた。そこで4月1日のダイヤ改正で所要時間を44分に短縮する。快速運転の所要時間は約38分を見込んでいるという。貸切運転の要望などに応えるため、26年度までに2編成を追加して19編成とする。

●西側延伸は「観光より通学環境の改革を優先」

 24年2月1日、宇都宮市は市議会全員協議会で西側延伸計画について説明した。宇都宮駅東口から少し北へ上って、JR宇都宮線と東北新幹線の間を通過し、宇都宮駅西口で降りる。その後は大通りを西へ進む。停留所数は12で、終点の「教育会館前停留場」は「宇都宮駅西口」から西へ約4キロメートルの地点になる。実はここまでが宇都宮市による計画区間だ。現在の開業区間は「優先開業区間」だった。計画区間からさらに西へ進み、大谷石で有名な大谷観光地までが「検討区間」である。

 地図を見ると、西側区間は東武宇都宮駅周辺に栃木県庁や宇都宮市役所があり、宇都宮市の中心市街であることも分かる。しかし、これ以外に東側区間のような大きな需要発生地が少ない。検討区間から察するに、大谷観光地までの観光誘客路線に見えるかもしれない。しかし、西側にこそライトラインが必要な理由がある。沿線には学校がたくさんあり、通学需要が見込まれるからだ。計画区間の終点を「教育会館前停留場」までの沿線に、15以上の高校と私立中学がある。

 私が宇都宮に1泊した翌朝、宇都宮駅西口バス乗り場は学生や生徒が長い列をつくり、屋根のない歩道橋の上まで続いていた。その日は小雪がちらつくほど寒かった。親御さんはこの状況をご存じだろうか。私は親ではないけれども、この状況は解決してあげたいと思った。

●車線が減るならいっそホコ天にしてしまえ

 宇都宮市西口駅前の大通りは車線が少ない。ここにライトラインを敷くと自動車用車線は1車線だけになってしまう。再開発計画で少しは拡幅できるとはいえ、全区間は難しい。そこで宇都宮市は大胆な計画を立てた。宇都宮駅前から宇都宮地方裁判所までの約2キロメートルをトランジットモールにするという。

 トランジットモールは「歩行者天国」のようなもの。秋葉原などで実施される歩行者天国は緊急車両以外のクルマをすべて通行止めにする。これに対してトランジットモールは公共交通機関だけ通過可能とする。欧米ではLRTと組み合わせたトランジットモールが見られ、日本でも群馬県前橋市、兵庫県姫路市などでバスの通行のみ許可するトランジットモールがある。それを宇都宮市はLRTで実現させたい。

 道路から締め出されるマイカーやバス、タクシーなどからは反発があるだろう。周辺の商店なども集客に影響する。新たな懸念であるし、反対する市民団体にとっては好材料だろう。東口側のライトライン建設には強い反対派がいた。赤字になると市民の負担が増える。自動車が渋滞するなどだった。構想から実現までは2度の市長選があり、反対を掲げる候補は落選しているけれど、そのうち1度は6000票差まで追い詰めている。

 反対派の主旨は「(ライトラインは)公共交通の体系を複雑化し、車の走行などに利便性を損なう」「『LRTを基軸とするのでなく』、路線バスで発展できる」としているので、もともとライトライン建設の政策には相容れなかった。しかし、東側の成功で反対派の懸念は払底されてしまった。しかし西側こそ宇都宮市の中心であり、トランジットモール化について、反対派は同じ主旨の公開質問状を提示していた。

●トランジットモール化構想は実証実験済み

 ただし、宇都宮市はすでに手応えをつかんでいる。06年の11月4日と5日に大通りでトランジットモールの実証実験として「大通りにぎわいまつり」を開催し、中央車線は路線バスとショッピングモール送迎バスのみ通行可とした。七五三の参拝客が多く、トランジットモール手前の渋滞は午前11時で最大1.5キロメートルになったけれども、午後にかけて収束。渋滞に関する苦情はなかったという。迂回(うかい)路を案内できたこと、トランジットモール化の告知によりバス利用が増えて自動車交通が全体的に減ったことも検証で明らかになっている。何よりも周辺の商店からは客が増えたという報告が上がっている。

 実証実験を「良い」と評価したのは、来訪者の85%、バス利用者の89%、商店主が70%、タクシー・バス事業者が60%となった。全体として「良い」が76%、「悪い」が3%、「どちらともいえない」が21%となった。今後の課題として「大通りの交通量は平日の方が多いため、平日の検証」「実施区間が長くなるため、迂回路の拡幅整備」「休日限定や時間限定の検討」が必要とのこと。

 この実証実験ではバスの通行を認めたけれども、ライトラインを走らせた場合は、バスも通過できない。特例としてバスの併用軌道進入を認めると、ライトラインの定時運行が難しい。宇都宮市でバスを運行する関東自動車は、「大通りにぎわいまつり」の実行委員であり、ライトラインを運行する宇都宮ライトレールの株主でもある。宇都宮駅前路線はドル箱のはずで、締め出されたくないだろう。

 しかし一方で、バス会社が抱える問題もある。バス運転手の不足に加えて、脱炭素社会に向けた電気バスの導入でコストが増える。大通り路線は主力幹線だけど、各方面からの運行重複による無駄も多い。ライトライン反対派による「バスで十分」は、もうすぐ破綻しそうだ。そうなると、宇都宮駅乗り入れは主力路線に絞り、ローカル路線はライトライン接続としたほうが効率的といえそうだ。

 バスの再編は熊本市が成功例だ。熊本市は複数のバス会社の路線が熊本駅を発着し、競争過多の弊害が出ていた。そこで「バス共同経営」を立ち上げ、熊本駅前発着路線を整理し、そこで余剰となったバスと運転士を不便だったローカル路線に振り向けている。熊本市の場合は複数事業者だから調整に苦労したと思うけれど、宇都宮市は関東自動車だけで路線の整理ができる。

 宇都宮市で、日本で初めてのLRT共存型トランジットモールが実現するかもしれない。宇都宮市の政策推進力と、関東自動車の協力、そして市民の理解によって「歩いて楽しい宇都宮のまち」がつくられそうだ。その先には大谷観光地への延伸があり、実現すれば観光都市としても期待できる。LRTでこれほど街は変わるのか、驚くことばかりだ。

(杉山淳一)