1990年代から2000年代にかけて、レンタルビデオ・DVDチェーンとして勢力を拡大してきたTSUTAYA。しかし動画配信サービスの台頭を前に2010年代から店舗数が減少し、レンタルサービスを提供する約600店舗は現在、厳しい状態にある。

 一方、出版不況にもかかわらず書店事業は成長を見せている。2011年から展開する「蔦屋書店」は、今や書店の枠を超え、人気のレジャースポットになっている。近年ではシェアラウンジ事業も手がけており、本記事ではこうした時代とともに変化してきたTSUTAYAの軌跡を追っていく。

●横ばいのレンタル市場で成長できたワケ

 TSUTAYAのルーツは、増田宗昭氏が1983年に大阪・枚方市で創業した「蔦屋書店」にある。DVDはおろか、まだCDも広く流通していなかった当時、レコードとビデオをレンタルする書店としてオープンした。

 その後、1985年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)として法人化し、FCでの拡大路線を歩み始める。1994年からは書籍販売事業として「TSUTAYA BOOK NETWORK」を展開、書籍販売を行うTSUTAYA店舗を増やし始めた。詳細は後述するが、同事業はレンタル事業に置き換わる収入源として、TSUTAYAを助けることになる重要なものだ。

 1999年には渋谷スクランブル交差点のランドマークといえる旗艦店「SHIBUYA TSUTAYA」をオープン、翌2000年には東証マザーズへと上場を果たした。「Tポイント」のサービスを始めたのは2003年で、会員の数は2007年に2000万人、2008年に3000万人と著しく成長していった。

 CCCの売上高を追っていくと2002年3月期は約1072億円だったが、2006年3月期には2000億円を突破。そこから2200億円前後で横ばいが続いたものの、2000年代の後半はCCCにおける“第1次ピーク”といえるだろう。

 レンタルビデオ・DVD市場自体は1990年代から横ばいだった中で、TSUTAYAやGEOが成長できたのは、大手ならではの資本力やブランド力を生かして規模を拡大できたからだといえる。チェーンの規模が大きいほど、人気の作品を把握して加盟店に共有しながら陳列の最適化などを図れる。一方、そのメリットを持たない個人店や小規模業者は、両チェーンが勢いを増していくのと反比例に、姿を消していった。

●動画配信市場の台頭で店舗が縮小 独自サービスも消滅

 第1次ピーク後の2010年3月期には、売上高は2000億円を下回った。子会社を非連結化した影響もあるが、主戦場だったレンタル市場が成熟期から衰退期にあり、直営店の売却やレンタル単価の減少も業績に影響した。

 CCCにとって2010年代は、新たに台頭してきた動画配信市場への対応に苦慮した時代といえるだろう。以前も似たようなサービスはあったが、特にネット環境の整備やスマホの普及が市場拡大につながった。2012年には「U-NEXT」が従来のPCや専用テレビに加えてスマホ・タブレットにも対応するようになり、2015年にはNetflixが日本に上陸。

 その間、TSUTAYAはピーク時の2012年に約1470店舗を展開していた店舗網の縮小を余儀なくされ、閉店や一部店舗でのレンタルサービス終了を進めていった。ここ1年でも、およそ100店舗を閉鎖した。現在、TSUTAYAは約800店舗(9割がフランチャイズ店)であり、そのうち約600店舗でCDやDVDのレンタルサービスを提供している。

 ただ、TSUTAYAは動画配信サービスの台頭に手をこまねいていたわけではない。例えば、独自の動画配信サービスとして2008年に「TSUTAYA TV」を開始した。コンテンツ数などで競合に勝てなかったのか、2022年にはdTVへと移管したものの、dTVも2023年6月に終了、現在は後継の「Lemino」としてサービスを展開している。

●カフェ併設型が好評 出版不況でも売り上げは絶好調

 他方、書店事業は成長し続けた。前述の通り1994年にTSUTAYA BOOK NETWORK事業を始めており、書籍・雑誌販売を行う店舗数は2001年で250だったが、2016年には800を超えた。売上高も2001年の349億円から年々増加し続け、2020年には過去最高の1427億円となった。なお公開されている直近の売上高は21年の1376億円と、20年よりはやや落ち込んでいる。2012年には雑誌・書籍販売で紀伊国屋書店を抑え、国内の書店でトップとなっている。

 需要が減少したレンタルDVD・CDのコーナーを、書籍にして業態転換を果たしているのである。一部店舗ではスターバックスやタリーズなどを併設し、ドリンクを買えば席で購入前の本を読めるようにしている。

 こうしたカフェ併設型の店舗は通常の書店と異なり、ライフスタイル提案型のスタイルとなっている。例えば、雑誌のコーナーが広く、料理や旅行など、レジャーごとに本を配置。雑貨の取り扱いも多く、料理本コーナーでは実際の鍋や食器類などを置いていることもある。敷地面積にしては書籍数が少ないため、一部読書愛好家の間で批判されることもあるが、インテリア重視で、つい寄ってみたくなる内装を意識しているため、人気も根強い。

 出版不況に苦しむ書店業界だが、そんな状況でもTSUTAYAが成長できた背景には、こうしたカフェ併設型店舗の好調があると考えられる。近年では他の書店チェーンでもカフェを併設したり、雑貨コーナーを置いたりするなど、TSUTAYAを意識した設計を見かける。

●「書店」ではなく本を軸にしたレジャー施設を展開

 TSUTAYAが手掛ける書店の代表格であり原型は、2011年に東京・代官山で1号店をオープンした「蔦屋書店」にある。スタバを併設し、ライフスタイル提案型書店として本とともにさまざまな雑貨やアクセサリーを販売する店舗だ。

 旅行本コーナーには実際に旅行会社が窓口を置くこともある。本の陳列も特徴的だ。一例として、通常の書店では新書専用のコーナーを設けるが、蔦屋書店では新書を各コーナーに分散し、ハードカバー本と同じ棚に並べている。「目的買い」ではなく、ドン・キホーテやヴィレッジバンガードのように商品を発見する偶然性を楽しむための店舗という狙いが見える。

 また、代官山店は書店を含む敷地全体が「T-SITE」として、ベーカリーや雑貨店の他、クリニックも内包している。ラウンジにはバーカウンターもあり、従来の書店らしからぬアルコールも楽しめる空間となっている。

 現在、CCCはこのような形式の蔦屋書店を国内で21店舗展開している。2015年にオープンした東京・二子玉川の「蔦屋家電」も同様にライフスタイル型の店舗だが、その名の通り家電のコーナーを設けているのが特徴だ。3万円以上するバルミューダのトースターなど、ハイブランドの家電を取りそろえる。

 2016年に、同社発祥地である枚方にオープンした「枚方T-SITE」は8階建てのガラス張りのビルに、吹き抜けのある高い本棚が印象的だ。蔦屋書店の他にもアパレルや化粧品店、銀行や保険ショップなどがあり、デパートのような構造になっている。8階にはレストラン街もある。

 蔦屋書店には本の購入だけでなく、単に遊び目的で立ち寄る消費者も多く、書店というよりも、本をインテリアにしたレジャー施設といえる。CCCはスターバックスとライセンス契約を結んでおり、全国の併設型店舗ではカフェもCCCの収入源となる仕組みだ。T-SITE内のアパレル店や飲食店からはテナント料も得ているのだろう。

●冷凍食品やアルコールを楽しめる「高級コワーキングスペース」

 蔦屋書店に似た事業として、CCCは図書館事業にも参入している。2013年に、その第1号として佐賀県の武雄市図書館の指定管理者となった。通常の図書館のように基本は貸出サービスを提供するが、併設する蔦屋書店では本も買える。スタバも館内にあり、指定エリアでは購入したコーヒーも飲める。

 こうした図書館は他にも、神奈川県海老名市や山口県周南市など、全国各地で展開している。2015年当時は、古い本やタイの風俗情報に関する本が並んでいるなど選書が炎上したが、現在では下火になっているようだ。

 他にも、2019年からコワーキングスペース事業として「SHARE LOUNGE」を展開。各地の蔦屋書店や、TSUTAYA BOOKSTOREに併設する形で店舗数を増やしている。都内にある六本木 蔦屋書店の場合、ソフトドリンク飲み放題込みの基本料金は1時間1650円、1日利用で4950円だ。月額のフルタイムプランでは5万5000円と、高級コワーキングスペースに位置付けられるだろう。

 このように、従来のレンタルから多角化を進めたCCCは2011年以降に規模を拡大。「カメラのキタムラ」などの子会社化も進め、売上高(連結)は2011年3月期の約1699億円から、2019年3月期は3607億円にまで膨らんだ。会社規模として第2次ピークを迎えたことになる。

 現在は株式非公開のため業績への貢献度は不明だが、2008年に3000万人を超えたT会員数は2014年に5000万人、2019年には7000万人を突破しており、この間におけるTポイント事業の成長も同社の規模拡大に貢献していると見られる。

●事業のスリム化で第3次ピークへの備えを進める

 近年は事業をスリム化する動きも見せている。2021年にはキタムラ・ホールディングス(HD)の株式を一部譲渡して、子会社から持分法適用会社へと変更した。また、2022年にはCCCグループで映像や出版物の企画制作を担うカルチュア・エンタテインメントに対して、凸版印刷や日販グループHDなどを引受先とする第三者割当増資を実施。CCCが70%以上有していた、同社に対する議決権比率は3割にまで低下している。こうしたスリム化により、CCCの23年3月期連結売上高は約1086億円となり、第2次ピークの3分の1となった。

 2023年10月には、中核事業であるTSUTAYAのフランチャイズ事業を、CCCと日販GHDの合弁会社であるMPD社に継承。MPDの社名をカルチュア・エクスペリエンスに変更した。同社に対する出資比率は以前より日販グループHDが51%、CCCが49%という構図だ。つまり、フランチャイズ事業に対する寄与度を下げたことになる。

 今後は日販グループHDの大手出版取次としてのノウハウを生かし、流通面からFC店の再生を図る。ちなみにTポイントも4月からSMBCグループのVポイントと統合し、名称もVポイントに統一している。TSUTAYA本体が縮小する中でTポイントの強みが薄れ、各社の離脱も進んでいたさなかでのできごとだった。2019年にはファミリーマートがTポイント以外も扱う「マルチポイント」サービスを開始し、電子マネーの台頭も追い打ちをかけた。

 CCCが近年進めてきたスリム化には、収益性のある事業を手元に残し、資金を確保する狙いがあると見られる。その目的は事業再編ではないだろうか。レンタルビデオから新しいタイプの書店を発展させ、コワーキングスペース事業にも参入するなど時代とともに変化してきたCCC。今後どのような新規事業を展開するのか、第3次ピークに向けた変革に注目だ。

●著者プロフィール:山口伸

経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。