FCNTは2月7日、NTTドコモ向けに納入する5Gスマートフォン「arrows N F-51C」の製品説明会を開催した。この説明会では、arrows Nが掲げる「サステナビリティー(持続可能性)」をテーマに、同社の戦略や製品化までの背景、パートナー企業との取り組みが解説された。

●arrowsは「サステナブル性能」を新たな競争軸に

 FCNTは、2016年に富士通の携帯電話端末事業を継承する受け皿会社「富士通コネクテッドテクノロジーズ」として設立された。同社は2018年にポラリス・キャピタル・グループの傘下に入り、富士通との資本関係を完全に解消したことを機に現在の社名に改めた。なお、現在のFCNTはポラリスが設立した純粋持株会社「REINOWAホールディングス」の傘下にある。

 同社の主力事業は、旧富士通コネクテッドテクノロジーズ時代から引き続き「arrows」や「らくらくスマートフォン」を始めとする携帯電話端末に関する事業だ。今回登場するarrows Nは、2度目のリニューアルを行ったarrowsブランドの初号機となる。

 FCNTの田中典尚氏社長は「arrowsブランドでは、パートナーの方々とも協力してサステナブルな社会を実現していきたい」と語る。

 同社で製品戦略を担当する外谷一磨氏は、富士通時代からの30年間を「(搭載する機能について)『時代が早すぎる』とやゆされながらも、いろいろな挑戦を積み重ねてきた。それが“F”のDNA」と振り返る。

 この「FのDNA」に照らすと、2021年に投入したエントリーモデル「arrows We」は「コロナ禍に、デジタルなコミュニケーション手段が無いと社会が断絶してしまうという危機感から開発し、『誰一人取り残されないデジタル社会』を実現する」ために開発された製品だったという。

 そして、今回のarrows Nでは「もの作りにおけるサステナビリティ」を主題としている。工業製品であるスマートフォンは、製造の段階で大量にCO2を消費する。使い終わった後も一部はリサイクルされず「デジタルごみ」として不法投棄されている実態もある。EU(欧州連合)では環境に配慮した端末製造や部品調達の基準作りが始まっているなど、世界的にも環境に配慮する機運が広がっているという。

 そのような風潮の中、外谷氏は新しいarrowsブランドにおいて、「スマホの新たな競争軸として『サステナブル性能』を据える」ことを提案すると語る。

 arrows Nの発売後も、FCNTは今後も環境に配慮した製品設計を継続し、製品を売ることだけに特化した従来のメーカー型のビジネスモデルからの脱却を図る方針だ。製品製造から販売、アフターサポートに至るまで環境に配慮した商品展開を進め、「携帯電話市場のサーキュラーエコノミー(循環型経済)の構築を目指す」という。

 環境に配慮した製品設計は、Appleがリサイクル素材や再生エネルギー活用の継続的に取り組みを進めている他、韓国Samsung Electronicsも「Galaxy S23シリーズ」で再生素材の利用比率を高めるなど、スマホメーカー各社で取り組みが広がりつつある。

 こうした市場環境下において、FCNTは「設計から製造まで国内で完結すること」を強みとしてアピールする方針だ。

 外谷氏は「FCNTはガラパゴスとやゆされることもあるが、小ロットでもニーズに合った製品を開発できる機動力と、グループで国内に製造拠点を有するFCNTだからこそ、サプライチェーン全体で環境に配慮した製品開発モデルが作れる」と強調する。

●スローガンは「No New Plastic」

 今回のarrows Nは、NTTドコモの専売モデルとして登場する。NTTドコモでプロダクト部 部長を務める松野亘氏によると、発売のきっかけの1つは「FCNTが『サステナブルなスマホ』を提案したことだった」という。

 arrows Nの開発当初のスローガンは「No New Plastic」だったという。つまり、再生素材を含まないプラスチックをできる限り利用しないことに重きを置いていたようだ。このことを実現するために、素材選定はこだわりをもって進めたそうだ。開発に合わせて、FCNTではEUの環境基準に合わせた独自の環境基準を整備し、調達や製造から環境に配慮した製品設計を行っている。

 結果として、リサイクル素材の利用率は製品総重量の約67%に達し(電子電気部品を除く)、再生素材による約38%のカーボンフットプリントの削減を実現したという。

 また、製造工程で利用する電力は、太陽光発電への切り替えも進めている。2023年中には国内製造する端末について、製造に必要な電力の100%を再生可能エネルギーとする見込みで、結果としてCO2の排出量を約43%削減できる見通しとのことだ。

 FCNTは環境に配慮した製品作りを今後も注力していくという。2023年に投入する商品の全ラインアップで環境に配慮した素材を使用すると表明された。外谷氏は「arrowsは携帯電話業界においてサステナビリティーの指針を示す“矢”となる」と強調する。

●3回のOSバージョンアップ、4年のセキュリティ更新を保証

 arrows Nでは、耐久性の高いハードウェアを採用して長く使えるスマホを目指すと共に、販売後のサポートもより長い期間提供していくという。Android OSのバージョンアップは最大3回の提供を予定しており、セキュリティアップデートは発売から4年間の提供をうたう。機能改善に関わるアップデートも、セキュリティアップデートと同じ期間に渡り提供していく方針だ。

●タフだから長く使える

 arrowsシリーズは、防水や耐衝撃といったタフネス性能を強みとしてきた。arrows Nでは再生素材を用いつつも、耐久性能はそのまま確保し、長く使えるスマホとして仕上げている。製品の外観は飽きづらいシンプルなデザインを採用し、一見して再生素材とは思われないような質感表現を工夫したという。

 具体的には、噴水流にも耐えられるIPX5/8の防水性能、粉じんの混入を完全に防止するIP6Xの防塵(じん)性能を確保している。コンクリートへの落下テストなど、米国防総省の物資調達基準「MIL-STD-810H(MIL規格)」に定める23項目の耐久テストもクリアした。泡ハンドソープでの本体の丸洗いや、アルコール除菌にも対応する。

 パッケージは環境に配慮したFSC認証紙を採用し、資源ごみとして回収できるように畳みやすい構造としている。パッケージの印刷はバイオマスインクで行っている。

 リサイクル素材でスマホの細かい部品を設計するために、FCNTは多くの素材メーカーと協力している。説明会では、再生素材を供給したサウジ基礎産業公社(SABIC)が紹介された。

 SABICは世界最大級の石油化学メーカーで、近年は再生プラスチックの製造も積極的に行っている。arrows Nでは、SABICが製造する3種類のグレードの再生プラスチックを採用。再生プラスチックでは難しいとされる透明度の高いプラスチックや、しなやかで強度の高いプラスチックも含まれている。

 arrows Nではペットボトル由来のPBT樹脂も用いられている。この樹脂はFCNTの特注で、SABICが特許を保有するリサイクル技術を活用して製造されているそうだ。

●電池の劣化防止技術を採用

 arrows Nでは長く使えるスマートフォンを目指すべく、Quivoのバッテリー充電最適化技術を新たに採用している。

 Quivoの技術は、電池パックの状況を端末上で解析し、バッテリーをできるだけ長持ちさせるという給電方法を選ぶというもので、電気化学インピーダンス分光法(EIS)という手法が用いられている。過去にソニーが「Xperia X Performance」などで採用していた実績もある。

 FCNTによると「ヘビーな使用を想定した試験環境下で、Quivoの技術なしではバッテリーが40%まで進んでいたところ、20%に抑えることができた」という。arrows Nの電源管理ではFCNTの技術も組み合わせており、例えばバッテリー残量が満タンに近い状態で使い続ける場合でもバッテリー劣化を防げるという。

●サステナブルに暮らす情報を発信する「arrows ポータル」

 arrows Nの発売に合わせて、FCNTでは「arrows ポータル」というポータルサイトを用意し、arrows ポータルでは、エシカルなライフスタイルを発信するメディアによるニュースを発信。徒歩で移動したり、ピーク時間以外に充電したりといった、環境に配慮した活動に応じてポイントがもらえるプログラムも提供される。

 FCNTはスマホの製造だけでなく、アフターサービスも重視するという方針を打ち出している。arrows ポータル上は、環境に配慮した生活を続けるためのサービスを提供することで、新たな収益源へとつなげていきたいという。

 製品ライフサイクルの長期化が進むことから、FCNTでは新たな収益源の確保も検討している。会員プログラムの「La Members」を強化して、新たなサービスを導入する方針が示された。

 また、arrows Nを独占販売するNTTドコモも、「カボニュー」というポータルサイトを運営する。カボニューは環境に配慮した行動をRecoという指標で数値化し、日々の生活の中での環境貢献度を推定する表示するというサービス。dアカウントがあれば無料で利用できる。arrows Nを買うとカボニュー上では「環境に配慮してつくられたスマートフォンの購入」に該当するためRecoが付与される。

●Qualcommやアドビも環境への配慮をアピール

 arrows Nはプロセッサとして「Snapdragon 695 5G」を採用している。このチップは2022年発売のスマートフォンでは多く採用されているミドルハイレンジ向けの製品だ。FCNTは「サステナブル(安定的)な調達や長期サポートの実現」という観点から採用を決めたという。

 クアルコム・ジャパンの須永順子社長は、FCNTの製品体験会に寄せた動画の中で「Snapdragon 690シリーズは通常、8nmプロセスで製造されているが、arrows Nでは6nmプロセスで製造されたSnapdragon 695 5Gを採択いただいた」と言及。一段階進んだ製造プロセスを採用したことで、消費電力の削減にもつながるとした。

 アドビは、arrows シリーズのカメラ機能の「Photoshop Expressモード」の提供で協力している。今回のarrows Nでは、新たにスキャナーアプリの「Adobe Scan」とPDFリーダーの「Adobe Acrobat Reader」もプリインストールしている。同社の里村明洋CMOは、Adobe ScanやAdobe Acrobatを通して同社の「Adobe Document Cloud」を利用することで、紙の書類を用いることによる環境負荷を削減できると語る。

●arrows Nを1台買うと、アフリカのスマホ1台がリサイクルされる

 arrows Nでは、「スマホを買うとスマホ1台がリサイクルされる」というオランダのClosiong the Loopの取り組みにも協賛している。

 スマホが大量生産される一方で、使われなくなった機器の一部が「デジタルごみ」として廃棄されている課題がある。Closiong the Loop社ではアフリカで不法投棄されているスマートフォンを回収し、資源としてリサイクルする活動を行っている。

 FCNTは伊藤忠商事を通してClosiong the Loopと「廃棄保証サービス」の契約を締結。arrows Nが1台購入されるごとに、アフリカのスマホ1台分のリサイクル費用を拠出する取り組みを実施する。日本のスマホメーカーとしては初めての取り組みとなり、当初は最大5000台に限定して行うという。

 なお、ドコモはドコモオンラインショップで販売されたarrows Nの売り上げのうち、1%を環境保全活動を行う法人「世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)」の活動資金として寄付する取り組みも実施される。

●有楽町マルイの「エシカルな暮らしLab」で実機を展示

 arrows Nは、Gabが有楽町マルイ(東京都千代田区)にテナントとして出店しているセレクトショップ「エシカルな暮らしLAB」でも展示される。

 Gabの山内萌斗CEOによると、エシカルな暮らしLABは「スタッフとブランド、来店者の垣根を無くして、商品開発のために協力しあうコミュニティー型の実店舗。商品の魅力を伝えて売るだけでなく、『買わない理由』をヒアリングして製品の開発者にフィードバックする場にもなっている」という。

 店頭には廃棄されるホタテの貝殻を使ったネイルポリッシュや、リンゴの絞りかすでできた合成皮革のカバンなどが並んでいる。arrows Nを体験できるコーナーはその一角に設けられており、店頭での購入はできないが、実機を自由に触って試せる。展示は2023年8月までの半年間実施される予定だ。