NTTドコモは4月1日から、コンテンツサービスの料金に対しポイントを還元する「爆アゲ セレクション」を導入する。ドコモ自身がサービスの契約窓口のような形になるため、ユーザー側は支払いを一本化することが可能。サービスを提供する事業者にとっては、販路の拡大につながる。また、コンテンツを取り扱うドコモ自身のメリットも大きく、“三方よし”の仕組みといえる。

 一方で、こうした取り組みは、キャリアの中では後発になる。料金プランとコンテンツサービスをバンドルした「パックプラン」はauが先行しており、ソフトバンクにもドコモの爆アゲ セレクションに近い仕組みがある。こうした先行事例と比較すると、爆アゲ セレクションに足りない要素も見えてくる。

●コンテンツサービスの料金が最大20%還元、セット契約がお得に

 爆アゲ セレクションとは、ドコモを介してコンテンツサービスを契約することで、dポイントの還元を受けられる仕組みを指す。サービス開始は4月1日から。これまでドコモは、スポーツ映像配信サービスのDAZNとタッグを組んだ「DAZN for docomo」や、ディズニーの映像配信を行う「Disney+」を展開してきたが、この枠組みを他のコンテンツサービスにも広げつつ、ポイントの還元を行ってその結び付きを強固にする。

 新たに加わるのは、映像配信サービスでは世界最大手となる「Netflix」や、Googleが擁するYouTubeの有料版「YouTube Premium」。ドコモ自身が手掛けるdTVも、4月12日に「Lemino」へとリニューアルし、その有料版である「Leminoプレミアム」が爆アゲ セレクションのラインアップに加わる。サービス開始当初は、動画系のコンテンツを中心に5つのサービスをそろえた格好だ。現在取り扱いのないNetflixは4月5日から、YouTube Premiumは4月下旬以降に対象になる予定だ。

 ポイント還元率は10〜20%で、サービスや契約している料金プランによって異なる。例えば、Disney+やDAZN for docomoは20%なのに対し、Leminoプレミアムは10%。もともとの料金が3700円(税込み、以下同)と高額なDAZN for docomoの場合、1カ月だけで673ポイントもの還元を受けられる計算になる。990円のDisney+も180ポイントで、お得感は高い。dポイントはd払いなどのサービスを通じて日々の決済にも利用できるため、実質的な割引に近い。

 いずれも、「ギガホ(5Gを含む)」や「ahamo」といった、中・大容量プランを契約していることが条件だ。ただし、Netflixのみ少々特殊で、段階制の小容量プラン「ギガライト」などを契約している場合でも、ポイント還元率は下がるが爆アゲ セレクションの対象になる。例えば、Netflixスタンダード(1490円)は通常だと20%還元だが、料金プランがギガホやahamo以外でも10%のポイントを得ることが可能だ。

 また、ギガホやahamo以外の料金プランでも、「ドコモ光」の契約があれば、ポイント還元率は下がらない。モバイルの料金プラン以外で固定回線を条件にしているのはNetflixだけで、やや複雑になってはいるが、基本的には中・大容量の料金プランを契約しているユーザー向けといえる。映像の視聴経路までは問われないが、想定しているのは、やはりモバイル回線で動画などのサービスを楽しむ若い世代のユーザーだ。

●中・大容量プランへのアップセルによるARPUの底上げや解約抑止が狙いか

 ギガホやahamoといった中・大容量プランが条件になっていることからも分かるように、ドコモの狙いは、こうした料金プランをより拡大するところにあるといえそうだ。ドコモの執行役員 営業本部長の野田浩人氏は、「年々データ容量は増加傾向にあり、中・大容量のお客さまもどんどん増えている」としつつ、「データはデジタルエンタテイメントのためにご利用いただいている」と語った。逆にいえば、こうしたサービスの契約者が増えれば、中・大容量プランを拡大する余地も拡大する。

 MWC Barcelonaで取材に応じたドコモの代表取締役社長、井伊基之氏も若い世代は「映像コンテンツへのアクセスが伸びている」と指摘しつつ、「そこで大容量が使えないと話にならない」と語る。「映像コンテンツの進展が、データの使用量を増やしている」というのが井伊氏の考えだ。井伊氏が念頭に置いていたのは、どちらかと言うと広告モデルで運営するYouTubeの無料コンテンツだが、有料サービスの裾野を広げることも重要になる。dポイントの還元をトリガーにすることで、その一翼をドコモが担えるというわけだ。

 サービスを提供する事業者にとっては、販路の拡大を見込める。店舗数の削減方針を打ち出しているが、ドコモショップは現状で約2300店舗と数が多く、リアルな場でその魅力を訴求できるのは魅力といえる。新たにドコモが取り扱うことになったNetflixのビジネス・デベロップメント部門 ディレクターの下井昌人氏も、今回の取り組みについて「『爆アゲ セレクション』を通して、Netflixをより多くの視聴者の皆さまにNetflix作品をお届けすることを目指す」とコメントしている。

 また直接的には語られていないが、コンテンツなど、通信以外のサービスがセットになると、副次的な効果として解約率の低下にもつながる。光回線や電気といった非通信のサービスをプッシュしているのは、こうした効果もあるからだ。実際、通信の料金プランとコンテンツサービスをいち早くバンドルしたKDDIは、「Netflixパック」の解約率が通信を単独で提供する通常の料金プランよりも低いことにたびたび言及している。

 auのパックプランは、データ容量が無制限の「使い放題MAX」とNetflixのようなコンテンツサービスが完全に一体になっているため、それらを自由に選択できる爆アゲ セレクションに同程度の効果があるのかは未知数だ。一方で、ユーザー視点では、通信回線の解約と同時にポイント還元を受けられなくなるのはデメリットになる。解約後にコンテンツサービスを個別に契約し直すのも、やや手間がかかる。その意味で、爆アゲ セレクションも解約率低減には一定の効果がありそうだ。

●コンテンツバンドルは後発のドコモ、ラインアップの拡充と独自性が鍵

 こうしたサービスは、日本だけの専売特許ではなく、グローバルでもキャリアの主な業務になりつつある。エリクソンは、2022年11月に発表した「エリクソンモビリティレポート」で、コンテンツのセット販売が世界各国のキャリアでトレンドになっていることを報告。同レポートを解説したエリクソン・ジャパンのCTO、藤岡雅宣氏も「コンテンツアグリゲーターとして、バンドル販売が主流になっている」と語っている。

 実際、ドコモはコンテンツサービスのセット販売では後発だ。先に挙げたKDDIは2018年からNetflixパックを展開しており、約5年の間にバンドルするコンテンツを拡大してきた。今ではNetflixだけでなく、「Apple Music」や「Amazonプライム」「GeForce NOW」といった海外のサービスまで含めた「使い放題MAX 5G ALL STARパック」に加え、国内の放送局が運営する動画配信サービスをまとめた「使い放題MAX 5G テレビパック」まで用意している。

 ソフトバンクも、2021年に開始した回線契約者向けのサービス「ソフトバンクプレミアム」に、「エンタメ特典」がある。エンタメ特典は、対象サービスを契約すると、その10〜20%をPayPayボーナスとして受け取れるというもの。仕組みだけでなく、還元率も爆アゲ セレクションに近い。当初はNetflixやDAZN、「ABEMA」など計6サービスで始まったエンタメ特典だが、その後GeForce NOWや「SPOTV NOW」や「ベースボールLIVE」が加わり、現在では8サービスまでラインアップが拡大している。

 ソフトバンクのエンタメ特典は、対象の料金プランが「メリハリ無制限」だけでなく、段階制プランの「ミニフィットプラン+」や、ケータイからの移行の受け皿となる「スマホデビュープラン+」まで含まれている。その意味で、料金プランのアップセルより、キャリア決済の利用促進や回線の解約抑止の方が主目的といえそうだが、いずれにしても、コンテンツサービスとのセット提供をドコモより早く手掛けているのは確かだ。

 KDDIやソフトバンクは先行している分、コンテンツの幅が広い。それらと比べてしまうと、ドコモの爆アゲ セレクションは、どうしてもラインアップが手薄に見えてしまう。サービス開始当初のためか、現時点では映像系サービスにフォーカスしているため、他社のように音楽のストリーミングサービスはYouTube Premiumだけにとどまっている。KDDIやソフトバンクはGeForce NOWを用意しているが、爆アゲ セレクションにはゲームも存在しない。

 爆アゲ セレクションに用意された今の5サービスはあくまで「第1弾の5つ」(野田氏)で、今後もコンテンツは拡大していく方針だ。ただ、ドコモは後発であるがゆえに、その対応は急務といえる。Disney+やLeminoといった、ドコモにしかないサービスが選択肢に入っているのは魅力だが、このような独自性ももっと出していく必要がありそうだ。