KDDIとソフトバンクは、お互いの回線をいざというときのバックアップ回線として活用する「副回線サービス」を発表した。KDDIは、3月29日にサービスを開始しており、現在、同社のサイトや電話で申し込みを受け付けている。ソフトバンクは、KDDIよりやや遅れて4月12日に同名の副回線サービスをスタートする。ソフトバンクは、ソフトバンクショップで申し込む形だ。
料金はKDDI、ソフトバンクともに429円(税込み、以下同)。KDDIはソフトバンクの、ソフトバンクはauの回線を使うが、速度はコンシューマー向けの場合、300kbpsに制限される。データ容量は500MBだ。両社が導入する副回線サービスは、2022年7月に発生したKDDIの通信障害を受け、開発されたもの。“保険のようなオプション”として、2022年から検討が進められてきた経緯がある。普段は競合となるキャリアが互いに手を取り合ったことでも、話題を集めていた。
そんな副回線サービスを、筆者も受付開始の初日に申し込んでみた。eSIMを設定するための書類が届くのに最長で1週間かかるため、同時にKDDIから副回線サービスを設定済みの端末も借り、実際にサービスを試している。ここでは、その申し込み方法や利用方法をお届けするとともに、使い勝手や注意点などもレポートしていきたい。
●まずは副回線サービスの仕様を確認、設定には注意点も
今回、副回線サービスはiPhone 13 Proで使用した。主回線はauの物理SIM、副回線はソフトバンクのeSIMという構成だ。副回線サービスといっても、あくまでユーザーの契約先がKDDIになるだけで、eSIMプロファイル自体はソフトバンクのもの。iPhone側に表示されるキャリア名などもソフトバンクと表示される。多くのスマートフォンは、それぞれの回線に識別用のラベルをつけられるが、分かりやすいよう「副回線」を選択しておくといい。
iPhoneは、SIMカードやeSIMの種類によって、設定メニューを出し分けている。副回線サービスのソフトバンク回線も、ソフトバンクと認識されており、5Gの設定項目も表示される。ただし、同サービスで接続できるのは3Gと4Gのみで、5Gには非対応だ。iPhone 14シリーズでOSがiOS 16.4になっている場合、5G SAを指す「5Gスタンドアロン」というスイッチも表示される可能性がある。少々細かい話だが、ネットワーク側で副回線サービスの仕様になるよう、制御をかけていることがうかがえる。
実際、副回線サービスをオンにして、ネットワークを切り替えてみた。iPhoneでDSDS(デュアルSIM/デュアルスタンバイ)を活用している人にはおなじみだが、設定メニューを「モバイル通信」→「モバイルデータ通信」と進むと、どちらの回線でデータ通信するかを選択できる。副回線に切り替えたいときには、ここで「副回線(またはユーザーが決めたラベル)」をタップすればいい。
注意したいのは、ここで「モバイルデータ通信の切替を許可」をオフにしておくことだ。KDDIでは、意図せずデータ通信するSIMカードが切り替わった結果、いざというときに副回線が使えなくってしまわないよう、この設定はオフにすることを推奨しているという。300kbpsで通信できるのは500MBと少ないため、いざというときのために取っておくのが正解といえる。
また、間違って電話をかけるなどして想定外の料金がかからないよう、通常は副回線自体をオフにしておくことも勧めているという。ただし、この点はユーザーが副回線サービスを、どう捉えて契約するかにもよる。通信障害や災害に備えつつ、もう1つの電話番号を持ちたいというときには、常時オンにしておいた方が使い勝手がよくなる。毎月料金がかかるサービスのため、寝かしたままにしておくのは少々もったいない。
さて、実際の通信速度はどうか。ソフトバンク回線にデータ通信を切り替え、スピードテストを行った。アプリの「Speedtest.net」で、楽天モバイルサーバにつなぎ、速度を計測した。300kbpsに制限がかかっているかどうかを確認するため、同じ場所で「Galaxy Z Fold4」を使い、ソフトバンクのスループットも合わせてチェックしている。結果は以下の通り。通常のソフトバンク回線は5Gにつながり、約180Mbpsと高速だったが、副回線サービスはきっちり0.27Mbps。うたい文句よりはやや遅いが、ほぼ300kbpsに制限されている。もちろん、5Gにはつながらない。
●300kbpsはどの程度の速度なのか、スループットやWebの表示速度を確認
300kbpsという速度を聞いても、何ができるか、ピンとこない人もいるはずだ。そこで、いくつかの利用シーンを想定し、作業が完了するまでの時間を測定してみた。まずは、ITmedia Mobileのトップページ(スマートフォン版)にアクセス。Google検索の画面から、ITmedia Mobileに飛び、表示が完了するまでの時間を測った。その時間は、およそ1分10秒。テキストの見出しは10秒ぐらいで読み込み終わったが、サムネイルの画像表示に時間がかかった。
次に、決済サービスの代表例として、PayPayを試した。こちらは、わずか2秒でバーコードが表示され、使い勝手は速度制限がない場合とほとんど変わらない。ただし、これはバーコードを表示し、決済をすることに限った話。例えば、PayPayクーポンを開くと、なかなか画面が切り替わらない。表示後も、お店ごとのアイコンやサムネイルをゆっくり読み込んでいく。決済履歴の確認にも時間がかかった。支払いだけならスムーズだが、その他のことをする際には待たされることがある。
プレスリリースには、行政手続きも挙げられていたため、マイナンバーカードを使ってマイナポータルにもアクセスしてみた。マイナポータルのアプリを開き、ページの読み込みが終わるまでは約4秒。ここまでは早かったが、「ログイン」ボタンをタップし、利用者証明用証明書のパスワードを入力する画面を開こうとしたところ、一度目はタイムアウトでエラーが表示されてしまった。2回目もエラー。3回目のチャレンジでパスワードの入力はできたが、表示までに30秒もかかった。
マイナンバー読み取り自体はNFCを使うため、通常と変わらなかったが、ログイン後のマイナポータルを表示する際にも、1分30秒ほど待たされている。通信障害や災害でまったくアクセスできなくなってしまうよりはマシだが、お世辞にも快適とは言いがたい体験だった。タイムアウトでエラーが出てしまうのもいただけない。ここは、300kbpsという速度がネックになっているようだ。
最後に、推奨されてはいないが、YouTubeの動画も見てみた。表示したのは、auのオフィシャルアカウントにあった「ココロ、オドルほうで。」というテレビCMのフルバージョン。サムネイルをタップしてから、10秒も待たずに再生が始まり、すぐに動画を見ることができた一方で、画質は非常に悪い。YouTubeは、回線状況に合わせて画質を自動で調整するためで、このときは「144p」に設定されていた。動画が止まるようなことはなかったが、細部はほぼ見えない。
ただ、緊急時にニュースを見たいというニーズはあるだろう。特に普段から動画で情報を取っているユーザーには、まったくつながらないよりはマシといえる。音声はクリアに聞こえたため、必要十分な情報は得られそうだ。逆に言えば、映画のような映像作品を楽しむような用途には向かない。500MBとデータ容量も少ないため、やはり日常生活を送るうえで、本当に必要なことをするだけにとどめておいた方がいい。
●電話は従量の通話料に注意、申し込みプロセスには課題も
データ通信だけでなく、音声通話やSMSに対応しているのも副回線サービスの特徴だ。普段利用している主回線が何らかの事情で不通になってしまった場合に、連絡を取ることができる。iPhoneの場合、デュアルSIMの状態で電話アプリを開くと、どちらの回線で発信するかを選択可能になる。また、設定の「モバイル通信」→「デフォルトの音声回線」で、主回線と副回線のどちらをデフォルトにするかの選択も可能だ。
試しに電話もかけてみたが、ごくごく当たり前のようにつながる。ただし、電話を受けた側が副回線の電話番号を登録していないと、単に電話番号が表示されるだけで、誰からかかってきたのかが分からない。逆に言えば、その電話番号を知らない相手は、電話をかけることすらできない。通信障害や災害で普段利用している回線が不通になってしまうと、電話を逃してしまう恐れはあるというわけだ。
これを避けるためには、あらかじめ副回線の電話番号を電話帳に登録してもらうしかない。家族や恋人、友人、同僚といったよく電話をする相手には、副回線サービスを契約したことや、その電話番号を伝えておくといいだろう。スマートフォンの電話帳には、複数の電話番号を登録でき、それぞれにラベルをつけることも可能だ。副回線であることを明示しておけば、万が一のとき、どちらに発信すればいいかが分かりやすくなる。また、SMSも送受信ともに利用できた。
注意したいのは、発着信履歴から電話をする場合。副回線に着信した電話に折り返そうとすると、副回線からの発信になってしまう。発信履歴をタップした際も同様で、直近で利用した回線で再発信される。副回線サービスはその仕様上、音声通話定額には非対応。30秒22円の通話料がかかる。うっかり定額の範囲内だと思って長電話してしまうと、請求額が跳ね上がってしまうため、どちらの回線で電話しているかは、よく確認しておくようにしたい。主回線の状況が改善したら、副回線は回線ごとオフにするのも手だ。
実際に使ってみると、300kbpsでも意外と必要なことはできてしまうことが分かる。ただ、先に挙げたように、一部のサービスは、利用にかなりの時間がかかる。通信障害でまったく利用できないよりはマシだが、快適に利用できるとは言いがたい。これが500kbpsや1Mbpsなど、もう少し高速だったら結果が変わっていた可能性も高い。例えば、法人向けのサービスは550円と料金が高い一方で、データ容量は1GBと大きく、速度制限も1Mbpsに緩和されている。実用度はこちらの方が高く、個人でこれを契約したい人もいるはずだ。
改善の余地は、手続きのプロセスにもある。KDDIの場合、オンラインと電話での申し込みに限定されており、ショップの対応は検討中だという。筆者はオンラインで申し込み済みだが、au IDでログインしたうえで、氏名や住所などを入力しなければならず、それが少々煩雑だった。回線契約を伴うため、省略できないプロセスではあるものの、姓名の間に“全角”スペースを入力しないと弾かれてしまうなど、仕様がこなれていない印象を受けた。本来、副回線サービスを必要とする人にとって、ややハードルが高くなってしまうだけに、今後の改善に期待したい。