KDDIは、4月以降、首都圏で「Sub6」の5Gエリアを大きく拡大する。Sub6とは、5G専用に割り当てられた6GHz帯以下の周波数帯。KDDIは、3.7GHz帯と4.0GHz帯の計200MHz幅を保有しており、大容量で高速な通信が可能になる。KDDIによると、そのエリアの広さはおよそ2倍まで拡大するという。では、なぜこのようなこと可能なのか。この取り組みからは、同社の5Gにおけるネットワーク戦略が透けて見える。

●Sub6の出力拡大で首都圏のエリアを拡大するKDDI、3社で異なる5Gのネットワーク戦略

 KDDIはこれまで、首都圏ではSub6のエリアを意図的に狭めていた。KDDIに割り当てられた3.7GHz帯や4.0GHz帯は、スカパーJSATの衛星通信と干渉するためだ。衛星は、地球局との通信にCバンドを利用しており、この帯域がSub6の一部と重なっている。出力を上げてしまった場合、干渉で通信ができなくなってしまっていた。同じ周波数帯は、もともと衛星が活用していたため、キャリア各社は干渉回避策を取ることが割り当ての条件になっていた。これは、同じ3.7GHz帯を割り当てられた、ドコモやソフトバンクも同じだ。

 KDDIの執行役員 技術統括本部 技術企画本部長の前田大輔氏は、「衛星の地球局の周辺対象エリアの全基地局からの出力がどこまでなら基準を満たすかを設定し、そこに満たないように出力を下げたり、チルト角を下げたりすることで運用してきた」と語る。基地局そのものは設置していたが、電波が飛びすぎないよう、あえてエリアを狭めていたというわけだ。抑制している出力は場所によってまちまちだが、「最大で20db、通常の100分の1まで抑制している基地局もある」(同)という。

 一方で、ドコモは衛星との干渉影響が少ない4.5GHz帯をメインに据え、首都圏での出力を上げていた。この周波数帯はドコモだけのもので、同社にとって強みになっていたが、海外で同じ周波数帯を使う国や地域が少なく、対応端末が限定されるのが難点だった。これに対し、ソフトバンクは3.7GHz帯の基地局展開をやや抑えつつ、どちらかといえば、4Gから転用した3.4GHz帯で5Gのエリアを確保している。

 3.4GHz帯の帯域幅は3.7GHz帯や4.0GHz帯と比べると狭いが、3.5GHz帯と合わせると80MHz幅を確保でき、一般的な4Gよりは大容量。ソフトバンクも3.7GHz帯の基地局は展開しているが、ドコモやKDDIと比べると、開設計画時点からその数は少ない。干渉影響が排除できなかった3.7GHz帯より、容量の大きな4Gから転用した3.4GHz帯をメインに据えていたというわけだ。速さと容量のバランスを取った展開方法だったといえる。

 これに対し、KDDIはもともと3.7GHz帯を大きく拡大する計画を打ち出していた。総務省に提出した開設計画では、他社を大きく上回る3万4267局の基地局数を申請。この周波数帯を5Gの“本命”と見なして、着々とその数を増やしてきた。年度末の3月に向け、このペースをさらに上げている。現在は「追い込みに入っている」(同)段階で、「今のところ(総務省に提出した)計画を達成する形で進めている」という。

 これまでは、同社にとっての5G導入期。その方針は、「まずエリアを広げるために4Gで使っていた周波数を転用する」(同)ことで、先に5Gのエリアの拡大に注力してきた。また、特に駅や鉄道沿線、商業施設などの生活動線を優先。広い5Gエリアと、ピンポイントながら容量の大きなSub6のエリアを使い分けてきた。

●干渉条件緩和で首都圏はメッシュ数が2倍に 既に関西では実績も

 4月から、この状況が大きく変わる。

 衛星干渉の条件が緩和されるためだ。前田氏は「高い周波数帯は屋内浸透も含めて厳しいので、まずは4Gの周波数を先行させてきたが、干渉条件緩和の後は、いよいよSub6のポテンシャルを最大化していける」と自信をのぞかせる。

 「5Gのサービス開始当初から、衛星事業者とは干渉条件の緩和について議論してきた。ようやく、23年度末にそれが緩和される」(同)。先に挙げたように、もともとKDDIは、他社より多い3.7GHz帯、4.0GHz帯の基地局を設置してきた。その上で、抑制していた出力を上げれば、Sub6エリアのカバー率を一気に広げることができる。地道に積み上げてきた成果が、ついに発揮されるというわけだ。

 首都圏において、その広さは2倍にも及ぶ。より細かく言えば、この2倍は100メートル四方に区切ったメッシュの数が、約2倍に増加することを意味する。前田氏によると、「出力向上前は2.1万ぐらいだったメッシュの数が、出力向上後は4.3万ぐらいまで広がる」といい、その広さのイメージは「山手線の内側はほとんどをSub6のエリアとして塗り切れて、そこから外にも広がる」という。

 実際、既に衛星との干渉条件が緩和され、Sub6の出力を上げられている関西圏では、エリア拡大の実績を出しているという。エリアマップを見ると、確かに関西圏は1つの都市だけでなく、帯状にSub6のエリアが広がっている。神奈川県や千葉県がスポット的に点在しているとのは対照的だ。KDDIの代表取締役社長CEOの高橋誠氏は、「関西での実績があり、Sub6のエリアがドンと広がった。これによってSub6の5Gの品質が大きく上がり、何とか他社の上に立てる」と自信をのぞかせる。

 このように、衛星干渉の影響で出力を抑えていた地域は他にもあるが、「そこはおおむね解決していき、残る大所が首都圏の地球局との条件緩和だった」(前田氏)。KDDIをはじめとしたキャリアにとっては、「満を持して」(同)のエリア拡大といえる。衛星干渉については、代表取締役 社長執行役員兼CEO 宮川潤一氏も「出力を上げることでエリアが広がるのはわれわれもまったく同じ構造」と語っている。ただし、もともと基地局数が多い分、その影響度合いはKDDIの方が大きい。

 一方で、出力を上げれば、基地局ごとにエリア化できる半径が広がり、エリアの“円周”も伸びる。こうしたエリアの“端”では、通信品質が低下しやすい。特にNSA(ノン・スタンドアロン)の5Gは、いったん4Gに接続する必要がある関係で、システムが複雑。セル端で弱い5Gをつかんだまま4Gにフォールバックせず、いわゆる「パケ止まり」が発生することもある。

 ドコモもかつて、パケ止まりに悩まされ、5Gの電波をより早いタイミングで切り離して4Gにフォールバックするチューニングを導入。ユーザーに端末側で5Gをオフにする設定を案内するなど、苦肉の策に追われた経緯がある。KDDIも、その設定には苦労したというが、パケ止まりが起こらないよう、設計を最適化してきた。結果として、KDDIの調査によると、KDDIやソフトバンク(と思われるキャリア)はその数値を非常に低く抑えられている。Sub6の出力を上げることで、その体感品質に悪影響を与えてしまうおそれはないのだろうか。

●パケ止まりは出力拡大後も防止、カギとなる検知・対策のサイクル

 ここで生きてくるのが、4Gの周波数を転用した5Gだ。KDDIは、いわゆるプラチナバンドも使い、5Gのエリアを広げてきたため、首都圏でも面での展開ができている。前田氏によると、「しきい値に気を付け、広げたからといって無理にSub6を使いすぎないような設定にする」という。

 いったん5Gの接続を解除してから4Gに切り替えるより、5Gという枠組みの中で通信する周波数を変更する方がシステム的にはシンプルだ。また、Sub6の面積が広がれば円周は広がるが、「逆に隣のSub6と重なる面積も広がって、それぞれが補えるようになる」(同)。チューニングをするのは大前提だが、Sub6の出力拡大は5Gの通信品質向上に寄与する可能性は高い。

 体感品質をしっかり向上できている背景には、綿密なデータ分析がある。KDDIは、「4G時代から端末からの通信品質データや、SNSの声を収集している」(同)。具体的には、端末とサーバ間のレスポンスを記録した通信ログを、位置情報をひも付けて記録。端末からの情報を基地局のトラフィック情報と合わせることで、品質対策を打つべき場所がスポット単位で分かる。その「検知と対策をいかに高速で回すか」(同)を徹底してきた。

 先に挙げたパケ止まりの少なさは、その成果だ。同様の手法はソフトバンクも採用しており、同社傘下のAgoopが収集したデータを活用している。一方のドコモは、こうしたデータの収集や分析で出遅れていたこともあり、パケ止まりやパケ詰まりが起こるエリアを完全には特定できていない。「d払い」でバーコードが表示されるまでの時間を測定しているが、これも1月に始めたばかり。本格的な分析に昇華させるには、まだ時間がかかる。

 このデータ分析が、回りまわって各キャリアの品質差になっている印象を受ける。実際、KDDIが挙げたパケ詰まり発生率の資料では、KDDIだけでなく、ソフトバンクも数値は優秀。KDDIとの差はわずか0.1%で、誤差といえる範囲だ。逆に、ソフトバンクが2023年9月の説明会で挙げていたネットワークの遅延をまとめた資料では、KDDIの数値も低く、ドコモや楽天モバイルとは明確な差分があった。

 2社に共通しているのは、スループットや遅延の値といった個別の数値ではなく、それらを組み合わせて独自の体感品質を定義していること。ドコモが、品質向上の指標をスループットでしか表現できなかったのと対照的だ。とはいえ、トラフィックは日々増加しており、電波もビルなどの地形に影響を受けて変化する。ネットワークが生き物といわれるゆえんだ。前田氏が語っていた「体感品質の向上を、終わりなき努力として続ける」重要性は、今後もさらに増していくことになりそうだ。