NTTドコモは、2024年10月3日にdポイントクラブを改定する。まず、2つ星に上がるための基準を大きく緩和し、3カ月で50ポイントまで引き下げる。もう1つが、ランクに応じたポイント付与率の変更だ。d払いでのポイント還元率が上がり、トータルではよりdポイントがたまりやすくなる。一方で、旧料金プラン向けに実施していた「長期利用ありがとう特典」は終了する。

 変更されるポイント付与率の中身を見ていくと、dポイントからd払いへの動きが見て取れる。単にdポイントをためるだけでなく、決済も併用するユーザーをより優遇する流れだ。dポイントを軸に、d払いを拡大していく狙いも透けて見える。ここでは、10月に控えたポイントクラブの改定から分かるドコモの戦略を解説していきたい。

●2つ星へのランクアップを容易にしてハードルを下げる

 dポイントクラブにランク制を導入したのは、2022年のこと。モバイル回線の契約年数に関係なく、シンプルにdポイントの獲得状況に応じて付与率を変える考え方を取り入れている。dポイントを積極的にためるユーザーほど、よりポイントがたまりやすくなるようにしたというわけだ。具体的には、3カ月ごとのポイント獲得数に応じて1〜5つ星までのランクが決まり、それに応じて最大2.5倍までポイント付与率が上がる。

 付与率が最大2.5倍になる5つ星に上がるには、3カ月で5000ポイントためなければならず、なかなかハードルは高い一方、600ポイントで上がれる3つ星でも、ポイント付与率は2倍になる。このランク制があるおかげで、dポイントは他の共通ポイントと比べても“たまりやすい”印象がある。

 実際、ユーザーからの評価も高く、「ポイントがたまりやすい」「ランクで付与率が上がるのでモチベーションになる」といった声が寄せられているという。この声は数字にも表れており、2023年には会員数が1億を突破。加盟店数は11万超と、楽天ポイントやPontaポイント、Vポイントを大きく引き離している。

 一方で、ドコモには「『もっと手軽にお得にためたい』『dポイント加盟店だけでなくためたい』といった声が寄せられていた」(NTTドコモ スマートライフカンパニー コンシューママーケティング部 部長 伊藤邦宏氏)。また、具体的な比率は非公開ながら、1つ星から5つ星のユーザー分布は、「低いランクほどユーザー数が多いのは確か」(同)だという。

 こうした状況やユーザーの声に応えるため、ドコモは10月にランク制の仕組みを維持しつつ、そのポイント付与率を変更する。大きく分けて改定内容は2つある。1つ目が、2つ星の対象になるユーザーを拡大することだ。現状では、100ポイントになっている2つ星の条件を、その半分である50ポイントまで引き下げる。もう1つはd払いの付与率を上げるという施策の導入だ。

●d払いにランク特典を加算、一方でdポイント特典は……

 前者の2つ星の基準緩和は、アクティブユーザーの拡大に寄与する施策といえる。現状の100ポイントをためるには、付与率0.5%の加盟店で、2万円分の買い物が必要になる。1カ月あたり、約6666円。そこまで高い基準ではないものの、積極的にポイントをためていなければ達成できない可能性はある。特に回線契約のないユーザーの場合、定期的にたまるポイントがないため、難度はより高くなる。

 この2つ星達成の基準が、半分の50ポイントに下がる。これによって、必要な買い物も半分の1万円で済む。1カ月で3333円。選択している料金プランにもよるが、ドコモ回線を契約しているユーザーであれば、それだけで達成できそうな金額だ。伊藤氏も、「日頃のお買い物だけで2つ星に上がり、お得を体験していただけるようにすることを重要視した」と語る。

 一方で、3つ星以上の基準は変わらず、5つ星に上がるのは3カ月で5000ポイントと、なかなかのハードルだ。ドコモ回線を利用しつつ、ドコモ光やドコモでんきといったサービスを利用し、かつdカードGOLDでの支払いをすれば達成はしやすくなるものの、そうでなければ比較的大きな買い物が必要になる。

 2つ目の施策は、d払いでの決済に対するポイント付与率を向上させることだ。現状のd払いでは、残高やdカード、携帯電話料金合算払いで支払った場合、決済額の約0.5%分のdポイントが付与される。この還元率は、おおむね他社と同じ。実際、ソフトバンクのPayPayも、KDDIのau PAYも、基本の還元率は0.5%に設定している。

 これに対し、dポイントクラブの新しいランク制では、3つ星以上の場合、d払いの付与率がアップする。向上する付与率は、3つ星が0.1%、4つ星が0.5%、5つ星が1%だ。例えば、付与率0.5%の店舗でdポイントをため、dカード設定をしたd払いで支払うと、3つ星の場合2.6%、4つ星の場合3%、5つ星で4%の還元を受けられる計算になる。

 また、携帯電話料金に充当したdポイントにポイントがつく「料金充当特典」も加わる。こちらも3つ星以上が対象。3つ星は1%、4つ星は2%、5つ星に関しては5%と大盤振る舞いだ。ためたdポイントを加盟店ではなく、ドコモ自身で消費するというのはある意味原点回帰だが、ここはドコモが強化している部分。“実質料金”を安く抑えられるポイ活プランの導入なども、その一環といえる。

●dポイントとd払いをリバランスか、ただしユーザーによっては改悪に

 5つ星の還元率4%が目立って見える10月からのランク制度だが、dポイント単体で見ると、ランクごとの還元率は下がっている。1つ星、2つ星は現状維持だが、3つ星は2倍から1.5倍、4つ星も2倍から1.5倍、5つ星も2.5倍から2倍と、それぞれ0.5%ずつ獲得できるポイントは減ってしまう。基本の還元率が0.5%の加盟店では、0.25%分付与率が下がると考えていいだろう。倍率が下がる格好のため、もとの還元率が高い加盟店を利用する場合ほど影響を受けやすい。

 dポイントをためつつ、現金や他社の決済サービスを利用していたユーザーにとっては、事実上の“改悪”になる。例えば筆者の場合、ローソンではdポイントカードを提示しつつ、基本はau PAYで決済している。共通ポイントに関してはdポイントクラブが4つ星で2倍になる一方、au PAYで支払えばPontaポイントだけでなく、povo2.0のギガ活もできるからだ。

 決済サービスをd払いに変えれば特典が0.5%上乗せになるが、それでもようやく現状維持といったところ。3つ星のユーザーに関しては、dポイントとd払いを併用しても還元率は下がってしまうことになる。現状より付与率が上がるのは、基本的に4つ星と5つ星のユーザーだけだ。2つの改定内容を合わせて見ると、dポイントの裾野を広げつつ、dポイントやd払いのヘビーユーザーをより優遇する改定といえる。

 こうした仕組みを見ていくと、ドコモがdポイントとd払いのバランスを見直し、後者により重きを置き始めていることが分かる。伊藤氏も、「加盟店においての倍率は、一部の上位ランクは下がる」としつつ、「d払い特典という新たな特典を加えた」と語る。実際、「上位ランクの方々はキャッシュレス決済を使っていることが多く、d払いの利用も特に多い」(同)という。

 一方で、dポイントユーザーの裾野は、2つ星への上がりやすさや、2つ星に上がるだけで還元率が1.5倍になることで広げていく戦術だ。伊藤氏も「日頃のお買い物だけで2つ星に上がれて、お得を体験していただけることを重視した」としながら、「ヘビーな方々とは違った意味合いでお得を体験していただきたい」と語る。

 一連の改定からは、ドコモがdポイント経済圏の連携をより重視し始めていることがうかがえる。共通ポイントであるdポイントに、料金プランや決済サービスのd払いがより密接にひも付けられるようになったというわけだ。秋には「eximoポイ活」の導入も予定されており、dポイント経済圏を重視する構図がより鮮明になりそうだ。