4月10日に開催されたアドビのイベント「フォントの日」では、日本語バリアブルフォントとカラーフォントが、大きな驚きを持って迎えられた。イベントに先立って行った、アドビのフォント担当者へのオンラインインタビューで、Adobe Fontsでこれらの新機能をどのように広めていくつもりなのか、聞いた。イベント当日の模様は、「フォントの日」で驚かされた、草を生やすカラーフォントと日本語バリアブルフォントの記事を参考にしていただきたい。

・岩本崇氏(アドビ フィールドプロダクトマネージャー)

・山本太郎氏(アドビ Japan R&D、日本語タイポグラフィ、シニアマネージャー)

・聞き手:菊池美範

―― Creative Cloud無料メンバーシップで利用できるフォントと有料メンバーシップとで、利用できるフォントの数や利用方法にどんな違いがありますか。

岩本 私たちはプロのクリエイターの方々だけではなく、ビジネスパーソンと呼ばれる方々にも積極的にAdobe Fontsを使っていただきたいと思っております。

 有料メンバーシップと無料メンバーシップでは使用できるフォントの数に違いがありますが、フォントをサービスとして使う機能そのものについては同じものです。有料メンバーの方々は436の日本語フォント、無料メンバーの方々は138の日本語フォントが使用できます。新たにご参加いただいたメーカーさんと、これまでご参加いただいていたメーカーさんの追加書体も合わせると、これまでの有料メンバー245フォント、無料メンバー35フォントに比べて大幅に増えております。特に無料メンバーのお客さまにとってはメリットが大きいので、これは使わないともったいないのではないか、というところまできたと思っております。

 無料、有料にかかわらずメンバーの方はCreative Cloud Desktopというアプリをインストールしていただきます。これがフォント管理ツールとなり、OSに不可視ファイルとしてユーザーのPCにインストールされます。フォントを指定して変更ができるアプリケーションであればどんなものでも利用できますので、プレゼンテーションやビジネス文書に大いにご活用いただけるのではないでしょうか。より伝わる、説得力のあるプレゼンテーションや提案文書が無料で実現できます。

 クリエイティブプロフェッショナルの方々にとっては、436の日本語フォントでも十分な数だとは思っておりません。しかし、これからデザインをスタートされる方、社内でコミュニケーター的な役割を担われる方にはお役に立つと思っておりますし、プロフェッショナルの方にはクリエイティブでフォントを使うための土台になると願っております。

―― Adobe Type制作チームによる貂明朝のカラーフォントは実際にどんなシーンで使われることを想像されていますか。

山本 これまでは、モノクロ2値で文章を読むために使うことを主目的にしているのがフォントの役割だと思われていましたが、貂明朝についてはグリフの中にカラーを入れることができるようになったことで、フォントの機能にカラーを実装することが可能になりました。貂明朝のキャラクターとして含まれている動物のかわいさをカラーで表現できるし、オリジナリティーも出せるという面があります。干支の12種類がカラーイラストとして含まれているので、年賀状をフォントだけで作成できますし、雲やお天気マークなどをピクトグラム的なイラストとして使うこともできます。天候や時候の挨拶で文書のワンポイントとして使うという用途も考えられます。

 カラーフォントは従来の出版や印刷で使われてきたフォントとは意味が異なり、パーソナルな用途で家族や友人とやりとりするというシーンが増えていけば、もっと感情をビジュアルで表現できるようになり、それが今後もっと重要になってくるのではないかと思います。

 フォントがこれまで紙に印刷することを主目的にしたものから、携帯端末でのコミュニケーションやデジタルサイネージ、Webでのダイナミックな変化をするタイポグラフィーに変わりつつある時代に、これまで印刷の文字では表現できなかった領域に踏み込んで、表現の幅を広げることが必要です。私たちがまだ知らない表現について開拓していく分野がまだあるということです。カラーグリフについてはSVGの技術を使っているのですが、これをうまく応用して発展させていきたいです。

―― カラーフォントやバリアブルフォントは印刷、Web、電子書籍での表示でどのような表現の可能性が広がりますか。また、ユーザーにおけるメリットはどのようにお考えでしょうか。

山本 バリアブルフォントについても、ダイナミックなタイポグラフィーという点でメリットがあります。例えばスマートフォンとタブレットではそれぞれに最適化されたフォントの太さが行間・行長で異なる表示をするといった、レスポンシブなフォントが求められています。バリアブルフォントはこれらの要求を満たす方法の一つとなるもので、さらに幅広い表現ができます。写植時代に行われていたアナログの技も含めて、1つのフォントでドラマチックに変化するデザイン、ユーザーが置かれた明るさや空間の環境にあわせた表示をできるという可能性も考えられます。

 どのような可能性が広がっているかという点に関しては、私たちよりもユーザーの方々が可能性を提案し、広げていただけるのではないでしょうか。

―― カラーフォントやバリアブルフォントを使う上での注意点や制限はどのようなものがありますか。

山本 日本語についてはカラーフォントもバリアブルフォントも始まったばかりなので、今後の改良点も出てくるでしょう。カラーフォントは現状RGBのみの対応で、CMYKには対応していないことが印刷の上では制約事項となっています。アプリケーションの対応もまだ少ないので、今後対応が進むことを期待しています。この点もダイナミックに変化するフォントの使い方をユーザーの方々が進められていくでしょう。

―― Adobe Fontsにフォントを提供しているパートナー企業が増えましたが、どのような経緯でパートナーシップを組まれているのでしょうか。また、Adobe Fontsをプラットフォームにして多数のパートナーさんに参加していただくメリットは、ユーザー/メーカー双方にとってどのようなものがありますか。

岩本 おかげさまでパートナーが増えたことに感謝しております。フォントのバリエーションを増やしてほしいというユーザーのご意見に応えることが大事なので、メーカーさんにご参加をお願いした結果が現在に至っております。これはツールを提供するメーカーとして一つの役目だと思っております。

 お預かりしているフォントはラインアップのごく一部ですので、メーカーから見るとプロモーション的な場として活用し、優れたデザインやファミリーがもっとたくさんあるという訴求ができることもメリットだと思います。ユーザーにとっては新たなフォントとの出会いが、パートナーにとってはビジネスにつながっていくという流れができつつあります。

山本 デザイナーの定義も以前と比べて変わってきています。以前からのユーザーである印刷系の方々だけでなく、映像系の方々にとってもストレスなく使えます。さらに多くのフォントを使いたい場合は、メーカーが用意している製品ページから追加購入されることで、フォントによる表現の幅を広げる機会も増えるでしょう。

―― 「フォントの日」をワールドワイドのイベントに発展させて、世界各地のフォントメーカーやユーザーの参加を促す計画はありますか。

岩本 フォントを愛好されるユーザーの方はワールドワイドでいらっしゃいますが、日本のユーザーはとくにフォントへの思いが強く、上手に使われているように思います。今回のイベントでも日本語圏以外の方にも楽しんでいただけるように英語のハッシュタグを用意してイベントを告知したり、日本国外のユーザーにもより関心を持っていただけるような発信を続けていきたいと思っています。

 Webフォントとして使えるAdobe Fontsは映像表現での活用でも安心して使えるのもメリットです。印刷やグラフィックスだけでなく、どんどん広い分野で活用していただきたいと願っています。

山本 インターナショナルなフォントの使用についても改善の努力をしているところです。デジタルでのコミュニケーションが国際化する中で、アドビとしてはフォント製品の細かい使い勝手までインターナショナライゼーションを進めるつもりです。