1日7万個ものスイーツを作る、知られざる菓子メーカーが、コロナ禍に開発した新商品とは。

 近年のコンビニスイーツのクオリティーには目をみはる。ケーキ専門店さながらの味を200円からという低価格で提供していることにも驚く。

 そんなコンビニスイーツの開発およびOEM生産受託をしている企業の一つが、岐阜県関市のフレシュール(岐阜県関市)だ。公式サイトを見ると、大手コンビニチェーンのスイーツ棚で何度も見たことのあるプレミアムなロールケーキの写真がある。

 親会社は1932年創業の清田産業。業務用食品原材料の輸入・研究・開発や、食品原材料・食品添加物の販売、外食産業向けメニュー開発サポートを行ってきた企業の菓子部門として2004年に独立した。

 フレシュールは前述したコンビニスイーツの生産のほかに、テーマパークやコーヒーチェーンで販売される商品など外食産業向けのスイーツ開発・生産も手掛けている。1年の間に開発する新商品は約150種。1日7万個ものスイーツを作ってきた。味のクオリティーを高めながら、量産・冷蔵・冷凍技術を磨いてきたスイーツスペシャリストだ。

 彼らは新たに、冷凍ケーキセットの定期購入販売に乗り出した。その名前は「食べれる教科書」。スイーツの気配を感じさせないネーミングにおや? と首をかしげたくなるが、実はケーキが作れるようになるための教科書(レシピ本)が付属するセットだという。

●ケーキのお持ち帰り需要に目を付けた

 営業開発部部長の桑畑新志さんによれば、コロナ禍のニーズを踏まえて開発した商品なのだという。

 「外食に行きにくい時代となりました。そのためお店でデザートを食べる機会が減ってきました。しかしケーキ需要そのものは増えてきているんです。特に男性が購入する率が高くなってきました。リモートワークで仕事をする人が、甘いものを食べて気分を和らげながら仕事のモチベーションを上げるという背景があり、コンビニ、スーパーまたはパティスリー(菓子店)の売り上げが増えてきています」(桑畑さん)

 自宅でのテレワークでは安らぎが侵食されるという意見が多い。そこで、癒やしとしてスイーツが求められているという。この需要の高まりとともに注目したのが、自宅でのお菓子作りブームだ。

 2020年4月、ホットケーキミックスなどのプレミックス(調整粉)や、パン作りに使う強力粉などが全国で品薄となった。なかにはネットオークションサイトなどで高値転売するユーザーも出てきたくらい、パン作りやお菓子作りの需要も高まった。そこで良質なケーキを通信販売するだけではなく、ケーキを作る技術も学んでほしいと考えたという。

 ここには桑畑さんの、1つの体験が深く関係している。

 「20年くらい前に、会社のお金で菓子学校に行かせてもらいました。そこで初めて学んだのがスポンジケーキの作り方でした。そのときに、本当に砂糖と卵と小麦粉だけで、こんなに生地が膨らんで、おいしいケーキが作れるのかとすごく感動したんですね。作り方が分かっていれば、家でも手軽に作れることを知って、それから3人の子どもの誕生日が来るたびに自分でバースデーケーキを作ってきました。そうしたら2人目の子どもが製菓専門学校に行くことになったんですよ。ほかの子どもも、毎日僕の弁当を作ってくれています。親子の触れ合いっていうのは年とともに忘れてしまうことがありますが、家族でおいしい料理を作った、食べたという思い出はずっと残ると思うのです」(桑畑さん)

●ケーキ+αのスイーツサブスクに

 コロナ禍となって、フレシュールがEコマースを始めたことも関係している。

 「当社はもともとOEMやベンダー事業が中心でした。コロナ禍以降はお客さまの利益が非常に厳しくなるだろうという予想もあり、実際にお客さまからの受注がなくなっていく中で、自分たちで売るところを開拓していかないとならないと考えて、2021年に楽天市場に出店しました。もともと当社のオリジナル商品を作っていきたいという思いもあり、チョコレートと隠し味に八丁味噌やみりんを使った『ショコりゃあて』(ガトーショコラ)を販売してきました」(営業開発部 織部光貴さん)

 ショコりゃあてに続く、新たな商品となるのが「食べれる教科書」だ。初回は2200円、2カ月目以降は3400円で、4人分にぴったりなサイズのホールケーキが2種類と、デコレーションケーキの作り方を学べるレシピ本が送られてくる。いつでもやめることができるが、1年間レシピを実践し、その成果の写真をフレシュールにメールし続ければ卒業証書と、フレシュール楽天市場店で使えるスイーツ無料券が贈呈されるという。

 「食べ物だけの定期購入はあるけれども、付属品のあるサブスクリプションはあまりなかったんですよね。家族との時間が増えたことで、何をしたらいいか迷ったりストレスを抱えてしまうお客さまが少なからずいらっしゃったと考えました。おうち時間を使って、デコレーションケーキの知識と技術を学んでいける商品です。お子さまやご友人とレシピを見ながらスイーツを作っていただくことで、食育にもつながるのではないかなと考えました」(織部さん)

●長く、楽に学び続けられる教科書作り

 付属するレシピ本は1冊6ページ。「スポンジを焼いてみよう」(1カ月目)、「クリームの違いを知ろう」(2カ月目)、「チョコレートでケーキを飾ってみよう」(6カ月目)、「簡単そうで実は難しい!飴細工の作り方」(9カ月目)と、次第に難易度が上がっていく。

 「1冊ごとにテーマが決まっています。1冊目はケーキの土台となるスポンジケーキを焼いてみようという題名で、スポンジケーキの原材料である小麦粉に関しての読みものと、スポンジケーキを焼くためのレシピを掲載しました」(織部さん)

 1カ月6ページという文章はやや少ないのでは、と感じなくはないが、それには理由がある。子どもと一緒に作りながら読み進めるものとして作られているため、イラストによる分かりやすい解説が中心。1工程当たりの文章は2〜3行にとどめている。そのためページ数が少なくても情報密度が濃いし、長くしすぎてモチベーションが下がってしまっては意味がない。少しずつ技術を習得してもらう、そして長く買い続けてもらうための施策だ。

 メインとなるケーキも、実においしいものだった。チェリーのクランブルタルトと、桃とヨーグルトのムースケーキを試食したところ、タルトのカリっとした食感に、ゼリーやフルーツ、ムースの瑞々しさ、そして蜜が染み込んだスポンジケーキの柔らかさに驚いた。冷凍ケーキの先入観を払拭してくれるインパクトがあった。

 「季節ごとに毎月異なる、2つのスイーツをお届けします。年始はお正月のシーズンということで高級感のあるティラミスタルトと宇治抹茶ときなこのムースケーキを、8月であれば夏なので、レモンタルトとトロピカルレアチーズケーキなどをお届けすることになっております。楽しんでいただきたいというのが最大の目的なので、毎月届くスイーツがおいしくなければお客さんも納得いただけないだろうと考えています」(織部さん)

 コロナ禍の中、おいしいケーキを食べ、さらに料理を一緒に作ることによる家族とのコミュニケーションも期待できるスイーツサブスク「食べれる教科書」は、今の時代を象徴するアイテムといえるのではないだろうか。

(武者良太)