釣り人に年間120万円を支給する――釣りSNSアプリ「ANGLERS」を運営するアングラーズ(東京都町田市)が発表した、釣り人向けスポンサーシップ制度が話題を呼んだ。これは、同社の公認釣り人「アングラーズマイスター」として、アプリ内で釣り活動の投稿や、雑誌など釣り関係のメディアの取材対応、釣りマナーの普及活動などを行う人を募集する取り組みだ。

 その活動資金として支給する120万円の用途は釣りに関係することなら自由であり、支援金の他にも、地域別のガイドや釣り船の紹介など、釣りに関する各種サポートを同社から提供する。8月12日から9月12日まで行った募集には、約1万4000件の応募があったという。

 今回の募集では、20人程度をアングラーズマイスターに選定すると発表している。このような自社の広告塔を一般応募で募るのも珍しく、さらに一度に20人を採用し、一人当たり年間120万円の支援金を支給するのは極めて異例だ。なぜこのような企画を立ち上げたのか。同社の若槻嘉亮CEOは「釣りの多様性を発信したかった」と話す。

●魚種や地域性で釣り方に違い 「陸上競技とよく似ている」

 若槻CEOによれば、釣りと陸上競技はよく似ているという。「同じ陸上競技でも100m走や200m走、やり投げ、砲丸など種目ごとに必要な筋肉や技術が異なると思う。それと同じで、一口に釣りと言っても魚種や地域性などの掛け算で違いが出る」

 それは逆に言えば「自分がやっていない釣りには、興味関心を抱かない人が多い」ということでもある。「ブラックバス釣りやマグロ釣りなど、いろいろな形の釣りがあるからこそ、できるだけ多くの釣りを網羅し、セグメント別により多く情報発信できる人数を設定した」と、大量採用の理由を明かした。

 「オリンピックをやることでスポーツをやる人がいるように、釣りをする人をもっと増やしたい。私たちは釣りSNSアプリを提供し、情報基盤を担っているため、釣り人が盛り上がるほど、アプリも活性化し、エコシステムも大きくできると考えている」

●ヒントを得たのはファッション業界 「素人こそ業界を盛り上げる」

 アングラーズは、ZOZO前社長の前澤友作氏が個人資産で運営する「前澤ファンド」から2020年に出資を受けている。その縁もあり、ZOZOが運営するファッションコーディネートアプリ「WEAR」内の仕組み、「WEARISTA」をこの企画の参考にしたという。

 WEARではさまざまなユーザーの服のコーディネートを閲覧できるが、その中でもWEAR公認のアカウントになるのがWEARISTAだ。ファッションのお手本になる例として、芸能人やインフルエンサーが主に選定されている。

 若槻CEOが特に感心したのは、「WEARISTAがファッション業界の登竜門になっている点」だという。「世代やジャンルを問わず、個人の発信力を高められる仕組みがファッション業界にはあり、それは釣り業界でも必要な仕組みだと感じた。素人が盛り上がってこそ、業界は成長していく」と考えを話す。

 総数約1万4000件の応募には、釣り業界ではすでに有名人といえる人たちの他に、毎週釣りに行く人や釣り業界を良くしたいと考える一般人からも、多くの応募があった。予想を超える反響があり、審査には時間がかかるものの、年内にはアングラーズマイスターの選定を終え、活動を始めたいという。

●素人へのスポンサードのリスクと、先の展望

 一方、次の課題も見えつつある。「釣りをしてお金をもらえるというのは、その腕や熱意を認められたという形になると思う。そこで天狗になり、“やんちゃになってしまう方”もこのような制度では一定数いると聞く」

 今回のアングラーズマイスター制度には、運営元のアングラーズ以外にも、釣り具メーカーや釣り情報メディアなど、複数の企業も協賛に入っている。それらの企業ロゴを、選ばれたアングラーズマイスターたちは背負うことになるのだが、それにもかかわらず、釣り場への荒らし行為や禁止事項を彼らがしてしまえば協賛企業の信頼は失われ、この企画は失敗になる。

 「企業の信用がなくなるのはもちろんだが、何よりもアングラーズマイスター個人がきっとたたかれてしまう。それを避けるべく、応募者をしっかりと審査し、私たちと同じ考えを持つ人たちを選ばなくてはならない」と若槻CEOは話す。

 「今回の企画では1年の期限を設定しているが、成果次第では第2弾の実施も検討したい。それこそ釣り業界の登竜門として、アングラーズマイスターを見たときに憧れを持ってもらえるか。自分たちだけで盛り上がらずに他の人をどのくらい多く巻き込めるかが、成功のカギになると思っている」