「iPhoneにタイヤをつけたようなクルマ」と表現されるTesla。IT・ビジネス分野のライターである山崎潤一郎が、デジタルガジェットとして、そしてときには、ファミリーカーとしての視点で、この未来からやってきたクルマを連載形式で語ります。

 納車から1カ月を経過した「Tesla Model 3」は、トラブルもなく日々快適に走っています。今回は、大きく分けて2つの話題をお届けします。1つは、「2泊3日の長距離ドライブ体験記」、そして、2つ目は「陳腐化」についてです。「Teslaはデジタルガジェット」である以上、コモディティ化、陳腐化するのではないかという疑問や心配に、筆者の考えをお話しします。

●820kmの旅、エネルギーコストはたった約934円

 納車後、初めての長距離ドライブです。EVでの旅行となると、航続距離、充電環境、電費性能などにまつわる疑問や不安を投げかける向きも多いと思います。結論からいうと、まったく問題なく自分史上最小限のエネルギーコストで約820kmのクルマ旅を堪能することができました。ガソリン価格高騰の折、とても助かります。ただ、帰路、不可抗力によるプチアクシデントを経験しました。

 今回の旅は、横浜→諏訪→松本(一泊)→岐阜県白川郷→松本(一泊)→八ヶ岳→横浜と巡りました。「最小限のエネルギーコスト」で旅ができたのには、ちょっとした理由があります。

 Teslaは、大きく2種類の独自の充電施設を全国に展開しています。1つは、「スーパーチャージャー」と呼ばれる急速充電施設です。もう1つは、「デスティネーションチャージング」といい、各地のショップや宿泊施設と提携してTesla専用の普通充電設備を設置しています。

 今回、2泊した松本のホテルは、デスティネーションチャージングが可能で、一泊1000円の駐車料金を支払えば、無料で充電が可能でした。旅の2日目は、このホテルを拠点として白川郷にまで足を伸ばす計画をたてました。

 100%充電の状態で自宅を出発し残量49%でホテルに到着した後は、2泊とも、夜のうちに充電を100%まで回復させたことで経路充電は不要でした。そのため実質的な電気代は往路51%消費分の約934円で済んだ計算です。前車であれば、ガソリン代だけで1万4000円コースでした。

 0から100%充電した場合の電気代について補足しておきます。Teslaは、バッテリー容量を正式に公表していません。ただ、Model 3 ロングレンジの場合、概ね75kWh程度と言われています。我が家の電気代は、昼と深夜では異なり、きっちり、昼だけ、深夜だけと分けて充電しているわけではないので、ざっくりと75kWhに26円/kWhを乗じて2000円弱となります。

 また、バッテリーの劣化を心配する人もいるかと思いますが、Teslaジャパンでは、車両のバッテリーおよびドライブユニットの保証期間として「8年または19万2000kmいずれか先に達するまで、 70%のバッテリー容量を保証」と明記しています。

 Teslaでは、「2020インパクト レポート」において、「Model S/Xの走行距離あたりバッテリー容量維持率」という部分で過去の実績データから、20万マイル(約32万km)走行後も約90%の容量を維持していると報告しています。

●できの悪いナビゲーションに苦笑

 今回の旅で印象的だったこと、気がついたことが、大きく4つあります。(1)Teslaのエネルギー消費予測は信用できる、(2)秀逸な運転支援機能「オートパイロット」で疲れ知らず、(3)山道の上り下りで電費が差し引きゼロの不思議、(4)ナビゲーションが時々愚か過ぎる案内をする、の4点です。

(1)エネルギー消費予測

 ナビを設定した後、タッチスクリーンから「エネルギーアプリ」を起動して「走行データ」を開くと、目的地までの距離と電力消費の関係が右肩下がりのグラフで表示されます。この予測は信用できます。安心して走ることができました。それどころか、高速道路では控えめに時速80Kmを維持していれば、このグラフよりも(燃費ならぬ)電費を節約可能なことも分かりました。

(2)オートパイロット

 「オートパイロット」という名称から自動運転を連想しますが、これはクルーズコントロール、レーンアシスト、オートステアリング機能が一体化した運転支援機能です。高速道路では、常にこれを利用していました。流れに合わせて車線の真ん中をキープしながら走ってくれます。疲労軽減に寄与してくれました。オートパイロットの詳細については、別の機会にじっくりとご紹介します。

(3)山道で電費が差し引きゼロの不思議

 EVは、上り坂では著しく電気を消費します。その一方で、下り坂では減らないどころかモーターが発電機になるので、電気が回収されます。上って下るとおおむね平地を走行した場合と似たような電力消費に落ち着きます。

(4)できの悪いナビゲーション

 さすがにここは狭くて通れない、といったところを案内されたかと思うと、立体交差を直進すればいい部分を、側道経由の直進を案内されたりと、マヌケな道案内にしばしばあきれます。また、地名の読み上げが音訓ごちゃ混ぜで、何が言いたいのか分からず苦笑します。まあ、2012年9月にiOSの「マップ」アプリがナビに対応したときも、尻手黒川道路を「しりてくろかわみちろ」、中原街道を「なかげんまちみち」と発音しており、その後改善されたので、Teslaのナビも今後、改善されることを期待しましょう。

●帰路、ドコモの通信障害でナビに支障

 10月14日、NTTドコモでネットワーク輻輳(ふくそう)による通信障害が発生したのは皆さんもご存じでしょう。Teslaの通信は、ドコモのネットワークを利用しているようで、筆者も旅の帰路、中央道を走行中に障害に巻き込まれました。スクリーンのアンテナピクトに斜め線が入り、地図表示が消えてしまいました。ただ、面白いことに地図は消えても、ルート表示は生きており、自車位置を示す赤い三角もルート上を移動していました。

 結局、帰宅するまで地図を使うことはできませんでした。通信が不通ならスマートフォンのカーナビアプリも使うことはできないでしょうから、これが不案内な土地であればお手上げといったところです。内蔵メモリに地図コンテンツを格納している従来型のカーナビならば、こういう心配は不要です。

 今回の旅は、行きたい観光地にTesla充電に対応したホテルがあったので充電計画も簡単で、旅を問題なく終えることができました。しかし、さらなる長距離旅や目的地で充電ができない、といった場合にはより綿密な充電計画が必要になるでしょう。

 11月末には、90歳で昨年他界した父親の一年祭という神事(仏教でいう法事)があり、岡山の実家までTeslaで出掛ける予定です。片道約650kmなので、経路充電も必要ですし、現地では用事で動き回る必要があります。当然ながら、実家には充電コンセントはありません。果たして、諸般とどこおりなく任務遂行が可能なのか今からどきどきしています。その顛末はこの連載でご報告する予定です。

●従来のクルマと陳腐化のレベルは同じ

 Teslaを購入する以前、EVは今後急速に進化するので、製品としての陳腐化、コモディティ化を覚悟した方がいい、と意見されたことがあります。本連載でも「走るガジェット」と題しています。そうなると、PCやスマートフォンと同様に旧モデルの陳腐化が激しいのではないかという指摘です。クルマでいうと、下取り価格の下落が激しいということになります。

 この疑問について、筆者の現状の見解は「従来のクルマと大きな違いはない」です。従前筆者が所有していたのは2008年式のメルセデス・ベンツC250でした。ディーラーは、車検や点検のたびに、最新のAクラスやCクラスを代車として貸してくれました。一度などは、SLKという屋根が自動で開閉するスポーツカーを貸してくれたこともありました。

 代車を運転するたびに毎回感じるのは、ものすごい勢いで進化しているな、という点でした。特に運転支援とインフォテインメント機能の進化には目を見張るものがありました。あれはAクラスだったでしょうか「ハイ、メルセデス」というと、iOSのSiriよろしく、返事をしてくれたのには驚きました。また、Cクラスの運転支援機能は、今から思うとTesla Model 3に匹敵する性能だったように思います。つまり、筆者の2008年式C250の陳腐化が年を追うごとに進んでいくのを代車と通じて痛切に感じていたわけです。

 エレクトロニクスが関連する領域は、今後も進化の歩みを止めることはないでしょう。そして、その先には、自動運転の時代もやってきます。これだけ進化が早いと、従来のクルマにしても急速に陳腐化するのではないでしょうか。ただ、Teslaの場合、システムのOTA(Over The Air、無線)アップデートが可能な分、OTA非対応のクルマより陳腐化の速度は遅くなる可能性があります。

●Model 3は、ポルシェを超えた?

 では、走りなど、クルマとしての基本性能の部分はどうでしょうか。筆者はクルマについては素人なので、基本性能や極限の能力について評価することはできません。ただ、この分野でもTeslaだから、EVだからという理由で、陳腐化が従来車より相対的に早いという理由を見つけることはできません。

 Tesla Model 3は、クルマとしての基本性能は、かなり優秀だと聞きます。高名な自動車評論家である清水和夫氏は、YouTube動画「頑固一徹学校 第20回『EV嫌いがテスラにぶったまげた!!』」の中で、Model 3について次のようにコメントしています。

 「Model 3は単なるEVではなく、シャシー性能もポルシェを超えたかもしれない」「メルセデス、BMW、ポルシェ、レクサスなど、世界のトップエンジニアリングが集結してこの車体を作ったように感じた」「(Teslaは)IT企業という理由で、ものづくりに懐疑的な見方をする向きもあるが、このModel 3には当てはまらない」「EVだからすごいのではなく、クルマとしての完成度が高い」(筆者による意訳あり)

 べた褒めです。経験豊かな自動車評論家が太鼓判を押しているのですから、Model 3は、この先もクルマとしての基本性能の陳腐化を気にすることなく安心して乗ることができるのではないでしょうか?

●2020年代後半、バッテリーコストは半分になる?

 Tesla Model 3は、2021年2月に大幅に値下げされました。例えば、ロングレンジ版は655万2000円から499万円(税込)へと一気に156万円以上値下がりしました。これこそ陳腐化の証左だろ、とお叱りを受けそうですが、これは陳腐化とは意味合いが異なると思っています。ましてや後述するバッテリーコストの下落が理由でもないと思います。

 以下は筆者の推測です。値下げの最大の理由は、最新の上海工場が本格稼働したことによる合理化や納入部品のコストダウンが大きいのではないかと考えています。生産技術においても最先端を追求するTeslaのことですから、デジタルツインの手法で工場の徹底した合理化を実現し、全体最適化を実施した結果だと見ています。

 米国生産時代のフリーモント工場は、GMとトヨタの合弁企業の建物を買収したものだったので、全体最適化にも限界があったのだと推測できます。工場の合理化が値下げの理由であるなら、陳腐化とは意味合いが異なります。それに、値下げ後もModel 3の中古車の価格は大きく変化していないようです。

 もう1つ、陳腐化懸念があるとしたら、バッテリーコストの値下がりです。トヨタ自動車は、2021年9月7日、電池・カーボンニュートラルに関する説明会を開き、2020年代後半には、バッテリーコストの30%削減と電費の30%改善の合わせ技で、電動車のバッテリーに関連するコストにおいて実質的に約50%削減を実現すると発表しました。

 これをそのまま、筆者のTesla Model 3に当てはめるとどうなるでしょうか。一説には、EVのバッテリーコストは、車両価格の30〜40%だそうです。仮に40%だとすると税抜き価格約463万円のうちバッテリーコストは、約185万円となります。これの七掛けが約130万円なので、2020年代後半のModel 3は、税抜き価格が約408万円です。そして、航続距離が30%改善するので、現状の580kmが、約750km以上となるわけです。

 あくまでも筆者のModel 3を題材にした仮説ですが、今よりも約55万円安く買えて、しかも航続距離が1.3倍になれば、確かに陳腐化したといえます。とはいえ、今から7〜9年後の話なので、Model 3に限らず、クルマとしての下取り価格は、そもそも論で取るに足らないレベルになっているはずなので陳腐化を心配をするだけ時間の無駄ですね。

●バッテリー価格は上昇すると見るのが自然

 その一方で、自動車経済評論家の池田直渡氏は、今後バッテリー価格は上昇すると断じています。「EVの行く手に待ち受ける試練(前編)」で、原材料価格の高騰やバッテリー工場の先行投資などで「バッテリー価格は上昇すると見るのが自然である。少なくとも下がる要因はどこにも見当たらない」と述べています。

 池田氏の言う通りであれば、バッテリーが要因による陳腐化の心配は杞憂に終わり、むしろ今の価格で購入できたのはラッキーということになります。ちなみに、現在、Model 3は値上がり傾向にあります。

 以上の理由で、Teslaの陳腐化、つまり、ガジェット的クルマだからという理由で下取り価格が通常の下落水準から大きく乖離してしまう心配はないというのが筆者の見解です。では、次回をお楽しみに!

●著者プロフィール

山崎潤一郎

音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla