「Experiments with Google」は、Googleが人工知能(AI)や拡張現実(AR)といった最新技術の可能性を示すために、実験的な応用例を紹介するショーケースだ。膨大なコンテンツを公開しており、その多くはスマートフォンやPCで試せる。

 この連載では、多種多様な応用例の中から興味深いものをピックアップ。実際に遊んだ体験レポートを通して、裏側にあるテクノロジーや、技術の活用方法とその目的を解説してきた。

 これまでコンテンツを試しつつ解説をしてきたが、今回は少し趣向を変えてみようと思う。肩の力を抜いて読んでもらえたらうれしい。

●勤労感謝の日は、普段頑張っている自分をねぎらおう

 本日、11月23日は勤労感謝の日に当たる。「勤労を尊び、生産を祝い、国民が互いに感謝し合う」ことを狙った国民の祝日だ。普段頑張っている自分をねぎらってもよし、今日も働いている人に感謝するもよし、それぞれの方法で感謝しよう。休める人は仕事を忘れて気分転換するのがいいかもしれない。

 そこで連載25回目の今回は、気分を落ち着かせてリラックスするのに役立つコンテンツを紹介したい。それがWebアプリ「In Rhythm With Nature」だ。

便利な時代だからこそ疲れていくビジネスパーソン

 現代の職場は、あらゆる場面でICT(情報通信技術)を活用することで距離や時間の制約から解放された。離れている相手といつでもオンラインで会話できるし、地球の裏側と瞬時に情報をやりとりできる。とても便利な時代だ。

 一方で昭和の職場を振り返ると、書類一つ届けるのに郵便で何日も掛かったり、試作プログラムのデータをROMに焼いてハンドキャリーしたりしていた。そんな作業も、いまでは即座に済むので無駄な待ち時間はなくなった。

 しかし、そうした待ち時間があったからこそ、適度に休息を挟めて仕事に集中できたのかもしれない。現代のビジネスパーソンは移動中にも仕事や情報収集に熱心で一息付く時間が減っただけでなく、もしかしたら休日なのに仕事関係の電子メールがスマートフォンに届くかもしれない。仕事で疲れ切る人が多いのも当然だ。

デジタルウェルビーイングで健康に In Rhythm With Natureでサポート

 こうした精神的に疲労する状況に対して、心や身体の健康を保ったりワークライフバランスを改善して生活の質(QOL)を高めたりする「ウェルビーイング」という考え方が提唱されている。マインドフルネスなど一種の瞑想を活用しよう、という考え方も、同じ流れだ。

 そしてスマホの健全な使い方や、ICTから離れるデジタルデトックスといったICT関連の取り組みをデジタルウェルビーイングという。

 前置きが少し長くなってしまったが、今回紹介するIn Rhythm With Natureはデジタルウェルビーイングの実現を掲げたものだ。Googleでウェルビーイングに取り組む組織「Google Wellbeing Lab」などが開発した。自然のリズムと自身を同期して、気持ちを落ち着かせられる。仕事の合間に使えばリラックスして新鮮な気分になれるかもしれない。

●自然のリズムと自身を同期させる モチーフは花時計

 In Rhythm With Natureはスマホでも動くWebアプリなので簡単に使える。ただし、大きな画面の方が没入感を得やすく集中できるので、タブレットやPCで動かすことを勧める。あと周囲の音を遮るほうが効果的なので、できればイヤフォンの使用を推奨する。

 このコンテンツのコンセプトは「自然のリズムと自分を同期させる」という内容だが、具体的にはどうするのだろう。In Rhythm With Natureを実行すると、画面上の花がゆっくり開いたり閉じたりする。これに合わせて息を吐いたり吸ったりして、心を落ち着かせるのだ。

 このIn Rhythm With Natureのデザインは「カール・リンネの花時計」(Carl Linnaeus Flower Clock)がモチーフになっている。リンネは18世紀のスウェーデンで活躍した植物学者だ。科学史においては、動植物の分類に使う学名を「属名」「種名」の組み合わせで決める「二名法」の確立者として知られる。分類学の父と呼ばれ、肖像がスウェーデンの紙幣になった偉人だ。

 彼が考案したカール・リンネの花時計は、特定の植物が1日のある時刻に花を開く、という特性に着目した自然の時計だ。円形に並べて植えられた花のうち、どの花が開いているか、どの花が閉じているかなどを見て時刻を知る。

 実際には季節や天候の影響を受けやすいので、時計としての実用性は低い。しかし庭園の装飾としては魅力的で、その変化を1日中眺めてみたいと思う人も多いだろう。

●美しい花を愛でる幸せ そして呼吸を整えていく

 In Rhythm With Natureは起動する時刻によって13種類ある植物のどれかを表示する。違う植物が良ければ、画面下部の左右にあるボタンをクリックすれば植物を切り替えられる。とはいえ、思いがけない美しい花と偶然出会う楽しみを受け入れるのも一興だ。

 植物が表示されると、ゆったりとした音楽や鳥のさえずり、風の音が聞こえる。そして花が揺れ、チョウやハチが舞い、カタツムリが這う様子を見られる。暖かい日差しが注ぐどこかの草原で、寝転んで花を眺めている気分だ。この映像を見るだけで、気持ちが落ち着いてくる。

 この画面は、植物を眺める以外のこともできる。PCのマウスを花や葉の上へ動かすと、弱々しく揺れるのだ。本物の草花に優しく触れるようで、いつまでも飽きない。

 それでは、自然と自分のリズムを同期させていこう。画面下部の中央にある、座禅を組んでいるようなボタンをクリックすると花が拡大される。そして花が開くときに「Breathe in」(息を吸って)、閉じるときに「Breathe out」(息を吐いて)と表示されるので、そのタイミングに合わせてゆっくり呼吸しよう。

 呼吸の指示は数回繰り返されると表示されなくなる。その後は花が開いては閉じ、閉じては開くだけ。それに合わせ、落ち着いて呼吸を繰り返せばいい。目は花に、耳は流れる音に集中して呼吸していけば、次第に穏やかな気持ちになるはずだ。

 仕事の合間に使えば途切れた集中力を復活できそうだ。夜寝る前に神経を静めて寝付きを良くするといった使い方も有効かもしれない。作業中、デュアルモニターにIn Rhythm With Natureを写しておくだけでもリラックスできそうだ。

●自然を見てリラックス 風景のビデオやVRでも効果があるらしい

 In Rhythm With NatureはExperiments with Googleの中でも新しいコンテンツで、2022年に公開された。メンタルヘルスに対する意識向上などが目的の「世界メンタルヘルスデー」(毎年10月10日)に合わせ、デジタル技術をメンタルヘルス改善に役立てようと公開に至ったものだ。

 自然と縁遠い生活をしている現代人だが、やはり人間は自然に触れることが欠かせないらしい。その効果は大きく、豊かな自然に囲まれていると気分が良くなり、心配事が減り、活動的になり、対人関係も改善するという。しかもその効果は本物の自然でなく、同Labによると風景のビデオを見たり、仮想現実(VR)空間に入ったりしても得られるそうだ。

 開発したGoogle Wellbeing Labは、その効果を手軽にWebアプリで得られるようにIn Rhythm With Natureを作った。GoogleといえばICT時代を代表する企業であり、テクノロジーの使用を控えるよう呼びかけることは意外に思える。

 しかし実際にはウェルビーイングにつながる機能をスマートフォンやスマートウォッチに搭載するなど、積極的にデジタルウェルビーングやデジタルデトックスに取り組んでいる。スマートフォンやSNSへの過剰な依存は間違いなく不健康だ。健康的な生活を送るには、技術とほどほどの距離感を保って適切に使うのが良いだろう。

 Experiments with Googleにも、ウェルビーイングをテーマにしたコンテンツがいくつかある。Googleがこうしたデジタルデトックスに取り組むことは、逆説的で興味深い。機会を見つけて、近いうちに本連載でも紹介したい。