家庭用掃除機市場において急成長しているのが、コードレススティック型の掃除機だ。

 インターネット調査を中心にリサーチ結果を提供しているマイボイスコムが2021年8月に行った掃除機調査によると、所有している掃除機のタイプは紙パック式のキャニスター型が43.6%と最も多いが、続いてスティック掃除機が40.4%と2位に入った(複数回答)。

 しかしキャニスター型の所有比率が調査ごとに下がっているのに対し、スティック型は急成長している。23年の現在、スティック型掃除機がすでにトップだと考えてもよさそうだ。そこで今回は多くの家庭に普及しているスティック掃除機の最新トレンドについて解説する。

●サイクロン型中心のいま、新たに紙パック式が登場

 現在、新しく掃除機を購入しようしようと考えたとき、一番の候補に挙がるのがスティック掃除機だ。この流れをつくったのがダイソン。11年発売の「ダイソン デジタルスリム DC35 マルチフロア」が、紙パック式のキャスター型掃除機が主流だった日本市場を塗り替えていった。

 ダイソンが市場をけん引したことに加えて、スティック掃除機はボディがコンパクトな点やバッテリー駆動のため強力なモーターを搭載しにくい点などから、集じん方式に紙パック式は採用されにくく、多くのメーカーがサイクロン式を採用している。

 そんな中、22年末にちょっと面白い製品が登場した。それが日立グローバルライフソリューションズの紙パック式コードレススティッククリーナー「かるパックスティック PKV-BK3K(以下、かるパック)」(実勢価格6万7120円)だ。

 かるパックは集じん容量0.4Lの紙パック式スティック掃除機だ。紙パック式掃除機は吸い込んだごみが紙パックにたまってくると、ごみが目詰りして風路をふさぐため、吸引力が低下しやすいという弱点がある。AC電源で駆動するキャニスター掃除機はハイパワーのモーターを搭載することで吸引力の低下を防げるが、バッテリー駆動のスティック掃除機では、それが難しかった。

 そこでかるパックでは紙パックにごみがたまっても空気がスムーズに流れる「パワー長もち流路」を開発。ごみがたまってきたら紙パックの上下に空気を流すことで、吸引力の低下を防ぎ、パック容量の最後までごみの吸引ができるのだ。

 紙パック式掃除機のメリットには、ごみ捨て時にゴミが舞い上がりにくい、ごみを目にすることがない、ごみをたっぷりまとめて捨てられるなどがある。ランニングコストとして紙パック代がかかるが、かるパックの場合、1袋に約2カ月分のごみがためられる。専用の紙パックは6枚入りで約1000円なので、1カ月のランニングコストは166円と安い。

 昨年12月の発売以降、かるパックは注目を集めており、家電価格情報サイト、カカクコムの「コードレス掃除機 人気売れ筋ランキング」で2位に入るなど、ユーザーからの評価も非常に高い。今後、紙パック式のスティック掃除機が増え、新しいトレンドになる可能性は非常に大きいのだ。

●ロボット掃除機のダストステーションがスティックにも

 スティック掃除機には、紙パック式の復活だけでなく、もう一つの変化の流れが来ている。それが充電台でごみを集めるダストステーション付きのモデルが増えていることだ。

 そもそもスティック掃除機はスリムで軽量な本体を実現するため、ダストボックスが小さいという欠点があり、こまめにゴミ捨てを行なわなければならなかった。

 そこでダストステーションだ。掃除後に充電台に戻すと、本体内部のごみを自動で吸引して集めてくれるので、スティック側のダストボックスはその都度空になる。日々のゴミ捨てが不要になるというわけだ。

 パナソニックが21年に発売した「セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K」(実勢価格7万2800円)は充電台とダストボックスを兼ねたクリーンドックが付属。ごみを吸引してためておける。ゴミをためる必要がなくなった本体は、非常にスリムなデザインも実現。クリーンドックには紙パックを内蔵しており、約50日分のごみをまとめて捨てることができる。

 また米国を拠点とする掃除機ブランドであるシャークからも、自動ゴミ収集ドックが付属するスティック掃除機が登場。22年9月に「EVOPOWER SYSTEM iQ+」(実勢価格7万9750円)を発売したあと、今年2月にはより低価格で購入できるスタンダードモデル「EVOPOWER SYSTEM STD+ CS150JAE」(実勢価格4万9500円)も発売した。

 もともと「EVOPOWER SYSTEM」シリーズは本体がスリムな点が特徴だったが、その分ダストボックスも小さくなってしまうのが欠点だった。自動ゴミ収集ドックが付属したことでこの弱点がなくなったというわけだ。

 この充電台を兼ねたダストステーションがごみを自動収集する仕組みは、すでにロボット掃除機では多くのモデルが採用しており、今後はスティック掃除機においてもスタンダードになっていく可能性が高そうだ。

●ごみを吸引しながら“スチーム”で拭き掃除

 さらにスティック掃除機市場では、まったく新しいタイプのモデルが注目を集めている。それがアンカー・ジャパンの「マッハ V1 Ultra」(実勢予定価格11万9900円)だ。

 マッハ V1 Ultraはごみの吸引に加えて、同時に水拭きが可能。内部でオゾン水を生成して床を除菌したり、風を吹き付けて急速に乾燥させることもできる。さらに110度のスチームを生成できるため、床にこびりついた汚れなども高温スチームで除去できる点が特徴なのだ。

 マッハ V1 Ultraは、クラウドファンディングサイトのMakuakeにて8000万円以上の支援を集めるなど次世代のスティック掃除機として話題を集めている。構造上、本体サイズは大きく、重量も5.7kgと重いため、軽量タイプのスティック掃除機とは一線を画す存在ではあるが、拭き掃除対応はロボット掃除機でも広がっている機能だ。

 さらにスチームやオゾン水による除菌機能まで搭載するとなれば、市場における存在感は非常に大きい。4月にクラウドファンディングによる先行発売分が出荷される予定だが、その後の一般発売時にはより多くの注目が集まるだろう。

 キャニスター型掃除機から主役の座を奪い取ったスティック掃除機。近年のモデルは吸引力やバッテリー駆動時間が向上したことで使い勝手も大幅にアップし、まさに掃除機市場の主役といえる家電になった。

 しかしまだまだ進化、改善の余地はある。軽量化と、吸引力、バッテリー駆動時間という、相反する要素のバランスはまだまだ高められる。今回紹介したダストステーションの搭載は、それらを実現するための機能でもあるのだ。

 さらにスタンダードなスティック掃除機の完成度が高まり、市場が拡大しているからこそ、ちょっと変わった機能やこれまでにない新しい機能を備えたモデルが登場できる余地も生まれている。そういった余地を開拓した製品が、新しいトレンドを生み出していくとも言えるだろう。

(コヤマタカヒロ)