京都大学は5月21日、死亡個体と交尾するサルの様子を記録したと発表した。野生の霊長類で同様の行為を記録したのは、初めてという。研究チームは「動物の死生観を理解するうえで非常に貴重なデータだ」と説明している。

 死亡個体との交尾を確認したのは、タイ王国に生息するベニガオザル。ベニガオザルは赤い顔が特徴で、インドや中国、タイ、ベトナム、マレーシアなどアジア地域に局所的に生息している。生息域が局所的であり、切り立った崖の多い岩山を好むために、科学的な調査が難しく、これまで野生での生態研究が全く行われていなかった謎の多いサルだという。

 研究チームは2015年から野生のベニガオザルの観察調査を続けている。23年1月の調査中、死んだオトナのメスの個体を偶然発見したある個体が交尾行動を始め、その様子の記録に成功した。その後3日間観察を続けたところ、計3頭のオスが死んだメスの個体と交尾行動をする事例を4例記録できたという。

 研究チームは「オスが死亡個体と交尾をおこなった理由を明らかにすることはできない」とした上で「ベニガオザルの通常の交尾行動の際の行動手順と差がないこと、時期が乾季で交尾が頻発しやすい時期であったこと、交尾したオスたちは交尾機会の獲得が難しい社会的順位の低いオスたちであったことなどから、メスが単に無抵抗で横たわっているという状況がオスの交尾行動を誘発した可能性が考えられる」と分析する。

 「死後3日目の腐敗が進んだ死亡個体に対しても交尾行動が行われたことから、どうやらベニガオザルには『無抵抗で横たわっているという状況』が『死んでいる』状態であることと結び付かない、つまり死の概念がないのではないか、という考察に至った」(研究チーム)

 この記録を踏まえ、研究チームは「少なくともベニガオザルにおいては、仲間が『死んでいる』という状態を理解することは難しいのではないかという結論を示唆する、霊長類の死生観に迫る極めて貴重なデータだ」と結論付けている。ただし、これだけではベニガオザルに死の概念がないことは断言できないといい、今後も研究を続けて、動物の死生観について解明を進めていく方針という。

 なお研究チームは「この研究は、ヒトで見られる『屍姦』を肯定するものではなく、またその生物学的進化起源についての示唆を与えるものでもない」と注記している。

 この研究成果は、国際学術誌「Scientific Reports」に5月13日付で掲載された。