2021年秋に登場する新OSが一斉に発表されたWWDC21。詳細は、OSのリリース後に改めて触れることにして、前回のWWDCレポート記事では発表から見えてきた近未来のライフスタイルについて俯瞰(ふかん)した。ちょっとウケの良い「便利」ではなく、生活の質をしっかり根本から向上させる機能に、優良企業らしい姿勢を読み取ったのは筆者だけではないだろう

→・「AppleがWWDC21で示した巨大プラットフォーマーの責務」

 この2本目の記事では、Appleが提供しようとしているこういった価値が、実際にスクリーン上でどのように表現されているのか、秋以降のOSで広がる新しい情報体験を「流麗な操作」「音の有効活用」「ARの融合」「インテリジェンス」、そして「美しさ」という5つの視点で振り返ってみたい。

●流麗な操作:継ぎ目なく流れるように操作する

 プロセッサから情報機器、OS、アプリ、そしてクラウドサービスまで、その全てを自ら開発し、1つの継ぎ目のない「体験」に織りあげるのがAppleの物作りだ。継ぎ目や引っかかりを感じさせないように、妥協しない洗練を重ねている点でも他社との差別化要因になっている。

 今回のWWDCでは、MacやiPadといった複数のAppleデバイスを同時に使うために、新たに「Universal Control」という操作法が発表された。

 Macの隣にiPadや別のMacを置く。その状態でMacの画面上のカーソルを左右どちらかの端の外へと動かすと、そのカーソルが隣に置いた別のMacまたはiPadの画面に現れ、その機器を操作できる。1つのトラックパッドやマウスとキーボードで、複数のApple製品を扱えるのだ。

 例えば、携帯性に優れたMacBook Airと大画面と迫力の音響が楽しめるiMac、あるいはApple Pencilで手描きができるiPadなど複数の機器を使う人の作業が大きく変わりそうだ。iPad上で描いていた絵をドラッグ操作でMacの画面に移動といったことができる、Appleらしい直感的な設計になっている。

 機器間の継ぎ目がない連携と言えば、もう1つ無視できないのが「MacにAirPlay」という機能だ。iPhone、iPadさらにはMacで表示されている画面や再生している音楽を、その部屋にある一番画面が大きいMac、一番音質の良いMacを使って表示/再生する機能だ。

 会議中にiPhoneで用意していた資料を、ミーティング相手のMacBookの画面にAirPlayして投影したり、iPhoneで再生している音楽をどうせならとスピーカー品質で定評があるiMacに飛ばしたりといったことができる。

 流麗と言えば、もう1つ思いつくのが新しいSafariだ。Safariは、おそらく登場以来、最大規模の操作の見直しが行われた。Mac版でもブラウザの上に並んでいたさまざまなアイコンが全てなくなり、「アドレスと検索」を入力するエリア内の「…」という項目内に整理/集約されている。

 また、開いていたタブ(同じウインドウ内で同時に開いている複数のWebページ)を、例えば「リサーチ」「旅行計画」「趣味」など名前をつけたグループに分けて保存/再現できる「タブ・グループ」という機能が用意された。

 しかし、何といっても大きく変わったのがiPhone版の操作画面で、「アドレスと検索」バーを指が届きやすいように画面の下に移動したのだ。新しいSafariではWebページは常に全画面表示が基本となる。画面の一番下に、現在表示中のWebページのアドレスがグレーのバーで表示される。別のWebページを開きたくなったら、ここをタッチするとアドレスバーが現れるので、URLを打ち込んだり、声で入力したり、お気に入りのメニューから選んだりできる。

 いや、それだけではない。このアドレスバーがツマミになっていて、ここを左右にドラッグしてタブを切り替えることもできるのだ。

 Mac、iPad、iPhoneのいずれでも極めて使う頻度が高いSafari。このすっかり慣れた操作画面も果敢に見直して進化を促すあたり実にAppleらしいといえよう。

●音の有効活用:音声インタフェースと立体音響が体験を刷新する

 今回のWWDCでは、音に関する話題が目立った。Apple Musicの空間オーディオ対応が発表された直後から利用できるようになったため、これまで聞いたことのない立定的な音楽リスニング体験がソーシャルメディアでも大きな話題となった。

 Macの最新機種やiPhone、iPad、さらにはAirPodシリーズや、一部の他社製ヘッドフォンで体験できる空間オーディオ(Apple TVでも対応ヘッドフォンを使うことで体験できる)は、このWWDCで技術仕様(API)が公開され、今後、さまざまな他社製アプリでも活用されるようになる。

 映画や音楽ならともかく、アプリで立体音響といってもピンと来ない人もいるかもしれないが、例えばどんなことが可能になるかという事例をApple自身が形にしている。

 新しいFaceTimeによるビデオ通話だ。複数人のビデオ通話だが、これまでのビデオ会議用アプリでは、参加者の声がスピーカーから普通に聞こえてくるだけだったが、秋以降の新OSのFaceTimeでは、話者が画面上の右に表示されていれば右側から声が聞こえ、左側に表示されていれば左から声が聞こえるといったように音の表現が立体的になるようだ。これがビデオ通話の体験をどのように変えるかは実際に体験してみないことには分からないが、確実に体験の質が向上することは今からでも想像がつく。

 さらに新しいFaceTimeでは、背景音を消し相手の話し声だけがクリアに届くように「声を分離」することができる。

 面白いのは同様の機能がAirPods Pro単体にも実装されることだ。これを使って例えばにぎやかな場所での会話で、相手の声が聞き取りづらい時にAirPodsがバックグラウンドのノイズを消して、相手の声だけをしっかりと耳に届けてくれる。

 秋以降のApple製OSでは、このように音表現のリッチさが増しているが、音に関する進化はこれだけではない。実は秋以降の最新OSで、Appleは声を使った機器とのやりとりを意識的に増やしている印象がある。

 こちらもAirPodsの事例だが、スーパーに着いたタイミングで買い物リストを読み上げてくれたり、iPhone対応のセキュリティカメラに置き配された宅急便が写ると、それを声で知らせてくれたりといったことも実現する。

 既に紹介したようにSafariのアドレスバーにも目当てのWebサイトを声で指定する機能が追加されているが、それに加えて新たにApple TVやHomeKit仕様のスマート家電も、インテリジェントスピーカーのHomePodを使って音声で操作ができるようになる。

 これまでHomePodシリーズでできる日本語の音声操作は限られていたが、2021年の後半にアップデートを行って音声操作が増え、声質を聞いて誰が話しているかを区別して個別対応する機能が加わる。

 つまり、HomePod miniのSiri機能で明日の予定を追加すると、その予定が他の家族ではなく自分のiPhoneやMacの予定に登録されたり、音楽を再生するように指示を出すとその人の好みに合わせた曲が再生されたりする。さらにSiriを使って、例えば「ご飯ができた」や「早く出かける支度をして」といった声の伝言を、離れた部屋にいる家族にも届けることができるようになる。

●ARの融合:ARの活用がより日常的に

 秋以降のiPhoneとiPadでは、現実の風景にコンピューター映像を融合させたAR(拡張現実)を活用する画面も増えそうだ。

 例えば三差路や五差路といった複雑な場所で、どっちの方向に進んだらいいか分からない時、新しいApple Mapでは周囲の建物をカメラでスキャンして正確な方角を割り出し、通りの上に通り名を表示したり、目的地へのルートを表示したりといったことが可能になる。これは2020年に発表されたARkit 4という技術でARオブジェクトを指定した緯度経度で表示する技術を使って実現している。

 残念ながらまだ米国のいくつかの主要都市でしか利用できないが、今回、米国外の都市として初めてロンドンが追加された。来年以降、東京や大阪など日本の都市も追加されることを期待したい。

 自分の街がこの機能に対応してくれると、例えば街中の決まった場所に案内や伝言、バーチャルなパブリックアートを置くことが可能になり、ARを日常生活の中で活用するシーンが一気に増えそうだ。

 AR関連の発表で、もう1つ見逃せないのが「Object Capture」という技術だ。これはネット販売をしたい商品や、バーチャル展示をしたいアート作品を周囲360度からグルリと撮影することで、それをAR表示が可能な3Dオブジェクトに変換してくれる技術である。

 残念ながらユーザーがすぐに使える形では搭載されていないが、開発者がこうした機能を簡単にアプリに組み込めるようになるため、OSリリース後、比較的すぐにたくさんのアプリが出てくるはずだ。

 同様の機能を既に独自に実現していた「Qlone 3D」というアプリが、iOS 15のリリース後にこのObject Captureへの対応を表明しているので、このアプリが最初に試せるかもしれない。

 3Dオブジェクト化した商品は、Eコマースサイトやバーチャル展覧会のWebサイトに掲載すれば、WebサイトをiPhoneで訪問した人が自分の部屋に実物大で表示して楽しむことができる。

 一般ユーザーでも比較的簡単にARコンテンツをつくれる、このような技術が出てくることで2022年以降はARがこれまで以上に身近になってくるかもしれない。

 今回のWWDCでは、Appleのデザイン部門のメンバーが空間とのインタラクションをどうデザインしたら良いかを教えているセッションもあり、方向感覚の分かるU1チップを搭載したiPhoneでAirDropやAirTagの機能をどのようにデザインしたかを語っている(“Design for spatial interaction”)。

●インテリジェンス:認識するカメラ 進化した検索

 Appleのインテリジェンス技術といえば、真っ先に思いつくのがSiriだろう。だが、WWDCの基調講演ではSiriの登場は少なかった。HomePodを使った家電のコントロールや、より自然な英語発声、プライバシー保護のために多くの処理をネット接続がない状況でもiPhone本体内でこなせるようになったこと、通知に邪魔されず作業に集中するための「集中モード」で緊急性を要する通知を見分けて知らせてくれる部分で触れられたくらいだ。

 一方で、画像認識やSpotlightに関しては多くの発表があった。最も衝撃的なのは「Live Text」という技術だろう。会議が終わった後に、ホワイトボードに手書きされたアイデアを撮影すると、手書き文字が自動的に文字として認識され、選択後、文字情報としてメールなどにコピー&ペーストできる。

 撮影したお店の看板に電話番号が書いてあれば、そこをタップして電話をかけることもできる。

 もちろん、撮影済みの写真を、写真内に写っていた単語を使って検索といったことも可能だ。

 残念ながら最初は英語など7カ国語しかないが、対応言語の1つに中国語がある。漢字の認識ができるのであれば、日本語への対応もさほど時間がかからないのではないかと期待をしてしまう。

 ちなみに、例えば犬の写真をタップすると自動的に犬種を認識して説明を表示したり、花を撮影すればその種類が分かったりと、被写体に関しての詳しい情報を表示する機能も搭載される。

 認識できるジャンルは多岐に渡っており、アート、本、自然、ペットや有名観光名所などを含むランドマークなども認識し、キーワードを使って該当写真を検索することもできる。

 この写真検索の機能は、「写真」アプリを起動しなくてもiOSのホーム画面の検索窓からも直接検索できるようになる。つまりキーワードや地名を打ち込むと、すぐに該当する人物、風景、物の写真が検索結果として表示されるのだ。対応する7言語であれば、写真中の文字情報も検索できるので、撮影したレシピや領収書、手書きメモなどもすぐに見つけられる。

 Spotlightで、もう1つうれしい進化が知人の検索だ。仕事仲間や友達などの名前を入力して検索をすると、連絡先に登録した情報が表示され、即座に電話、メッセージ送信などができるのはもちろん、相手が位置情報を共有していれば地図で位置情報を表示してくれるし、相手に自分の位置情報を(一時的に)共有したければ、その操作もワンタッチで行える。

 さらには最近、メッセージアプリなどで最後の会話の内容や、共有した写真、カレンダーに登録された一緒に参加する予定やメモなど、その人に関する情報を全てまとめて表示してくれる。

 ちなみにSpotlightでは、日本語にも対応しているかは現時点では不明だが、有名人やTV番組、映画などの情報も表示されるようになるという。

 ここまでiPhone標準の検索機能が強化されると、今後はインターネット検索の頻度が少し下がりそうだ。

●美しさ:見ているだけで楽しくなる進化した地図アプリ

 テクノロジー系企業の発表では、「〜で便利になる」「〜ができるようになる」と利便性ばかりを訴える発表が多い。そんな中にあって、Appleは自社が手間をかけて洗練させた機器であったり、ソフトウェアの画面であったりを、堂々と「美しい」といって胸を張れる数少ない企業の1つだろう。

 テクノロジー業界では「要件さえ満たせば美醜は関係ない」という考えを持つ人が少なくない。だが、誰でも何度かは「見た目の美しいデザインコンセプト」などを見て、それだけでワクワクして心が躍った経験を持ったことがあるのではないだろうか。

 美しさは未来への希望を与え、気持ちをポジティブに変えてくれる。これを決して軽視してはいけない要素であることは、自分と向き合う時間の増えたコロナ禍で多くの人が感じたのではないだろうか。

 今回のWWDCでは、特にiOSやmacOSの基本画面で大きく変わった部分はないが、既に述べたようにSafariの画面デザインに対して登場以来、最大規模の見直しが行われた。

 Webブラウザは1990年代の登場以来、他社製も含めて全てウインドウの上にアドレスバーがあり、その左右にさまざまな機能を提供するボタンが並ぶツールバーを構成するというのが常識だった。しかし、Appleは今回、この常識を見直し、ブラウザの全ての機能をアドレスバーの中に集約した。Web画面の上は並列に並んだアドレスバーと、タブの一覧だけというスッキリした画面構成に変えてしまった。

 これによってWeb体験がどのように変わるかは実際に使い込んでみないと分からないが、これがWebページとの付き合い方を変える大きな一歩であることは間違いない。

 秋以降の新OS、美醜という観点で言えばもう1つ無視できないのが、大幅に進化した「マップ」アプリだろう。

 新しい地図アプリは、どんどんズームアウトを繰り返すと、地球全体を見渡せる状態になる。GoogleのGoogle Earthを少し思わせるが、Appleだけあってその地球の描写に独特の美しさがある。さらにサンフランシスコ市内の名所などにズームしていくと、それらがリアルな立体で表現されている。そればかりか、コイトタワーと呼ばれる丘の上に建つ有名な塔があるが、そこにズームしていくと丘の起伏がリアルに再現されるのだ。

 そしてナイトモードに切り替えると、一部の名所や建物の中から光が灯る。

 昔、大きな本屋さんには地図のコーナーがあって正確さを追求した地図もあれば、美しさを追求した地図なども並んでいた。美しい地図は眺めているだけで、本物の旅とはまた違ったワクワク感をもたらしてくれていたものだが、新しい「マップ」にはどこかそんなワクワク感がある。

 シリコンバレーの山間の風景などを見ると、山林には木も描かれている。しかも、広葉樹の林か針葉樹の林かによって表示される木も変わってくる。実はこれらの機能は、Look Around機能のために走らせた車で収集した写真を元に自動で集計し認識して再現しているらしい。1本1本の木の位置まで完璧に正確というわけではないが、可能な範囲で正確さを追求しているようだ。

 新しいマップでは、もう1つ道路交通のマップも大幅にアップデートされ、高速道路の車線や交差点などのディテールが美しいグラフィックで描写される。

 もっとも、残念ながらこれもまずは米英のいくつかの都市だけで、日本の地図に反映されるのは少し先になりそうだ。

 では、新しく美しく進化したマップアプリ、日本で恩恵が受けられる機能はどんなものがあるかというと、一部で地形の起伏などの描写は実装されるようで日本百名山などは正確な描写の対象になっているようだ。

 地下鉄などの出口は1カ所1カ所人力で位置確認をして正確な情報にし、電車を使った経路案内では、目的地にたどり着くのにどの出口を使ったらいいかや、その出口にたどり着くには電車の何両目に乗ったらいいかといった情報が表示されるようになるようだ。またお店などの情報を表示するプレースカードなどのデザインも刷新される。

 こつこつと改善を重ね、いつの間にか他社が追求できない状況を作ってしまうのがAppleだ。秋に登場の新OSでは、多くの人が改めてApple製マップに注目するきっかけになりそうだ。