●Mac miniなら“最安値”も“高い性能”も選べる

 2023年1月に、M2 Pro/M2 Maxを搭載した新型「MacBook Pro」と、M2/M2 Proを採用した「Mac mini」が相次いで発表されたが、この発表でMac miniが何とも面白い位置付けの製品に化けてしまった。

・「Mac mini」がM2/M2 Proチップを搭載してモデルチェンジ

 さてここで、1つ問題を出したい。

 今、2022年からの円安の影響でMac全モデルが少し割高に感じられる中、最も手頃な価格で購入できるのはどのモデルかご存じだろうか。

 そう。Mac miniのM2モデルだ。ディスプレイ、キーボードやマウスなどが別売とはいえ、現行Macで唯一10万円を切る、直販価格で8万4800円(税込み、以下同様)を実現している。それでいて、搭載するプロセッサは2022年以降で最新となるM2を備える。

 今回ビックリしたのは、このMac miniの上位モデルだ。搭載するM2 Proの性能を、おなじみの性能計測アプリ「Geekbench」でテストしたところ、「Mac Studio」などに採用されているM1 Maxをも上回るプロセッサ性能を備えていることが分かったからだ。

 もちろん、Mac Studioが搭載するM1 MaxやM1 Ultraは、ユニファイドメモリもMac miniでは選べない64GBや128GBの構成があり、4Kや8Kの高画質映像の編集、3Dソフトで作られたリアルかつ複雑なシーンの描画でこそ発揮されるもので、単純にプロセッサ性能だけを比較するGeekbenchでは、その真価は分からない。

 とはいえプロセッサが速いと、それだけで多くのアプリの利用が快適になり、これまでのPCではできなかった新たなチャレンジを、いろいろとしたくなるのも事実だ。

 ちなみに今回、M1 Maxを上回るプロセッサ性能を叩き出した評価機は、Appleのオンラインショップで提供されている標準構成ではなく、プロセッサを最上位の12コアCPU/19コアGPU/16コアNeural Engine版M2 Proにカスタムし、メモリも32GBに、ストレージも2TBに増量したモデルで、価格は36万6800円の構成になっている(それでもMac Studioの上位モデルと比較すると、かなり手頃に見えてしまう)。

 とはいえ読者の多くは、プロセッサの速さにあまり興味がないかもしれない。何せ、Apple M1以降のMacは十分過ぎるくらいに動作が速くて、高画質の映像編集や3Dモデルの作成、高度な演算でもしない限り、プロセッサ性能を存分に生かすことができないと感じている人も多いだろうからだ。

 しかし2022年、状況は一変した。描画AIや対話ができるAIなどが大きな話題になり、一気にAIの時代が一般化してきた。

 話題のAIサービスの多くは、Webブラウザやメッセージアプリを通して使う仕様だが、描画AI技術「Stable Diffusion」はオープンソース化され、それと同時にiPhoneやMac上で動作させるアプリ版がいくつか登場した。筆者もそのタイミングですぐに試したが、最初は遅くて使い物にならなかった。今は少し動作が改善したというので使ってみたが、それでも1枚の絵を描くのにM1搭載のMacBook Airだと約50秒ほどかかる。

 ところが、同じことをM2搭載MacBook Airで試したところ、少し早くて41秒ほどで仕上がる。では、評価中のM2 Pro搭載Mac miniはというと、何とM1搭載MacBook Airのほぼ半分の約25秒で描き終えてしまった。

 描画AIを試したことがある人なら分かると思うが、質の高い絵を得るには何度も命令を修正しながら試行錯誤する必要がある。その点、M2 Proなら同じ時間でM1の2倍の試行錯誤を行えることになる。

 AIの活用は描画AIだけではない。アドビも同社の制作系アプリに次々とAIを活用した自動化機能を取り入れているし、気がつけばApp Storeでも描画AIから写真レタッチ、写真の色付けや高画質化などさまざまな機能を提供するAI仕掛けのアプリが増えており、これらの多くは従来のアプリではできなかった高度な機能を提供してくれる。

 その分、プロセッサにかかる負荷も大きい。これから新たなAI系アプリがどんどん増える中で、プロセッサ性能はビデオや3Dをやる人以外にも重要な選択基準に再びなり始めている。

 そういった流れを受けて、Mac miniは2023年のMacのスタンダードともいえるM2プロセッサから、単純処理ではM1 Maxを上回る性能を発揮するM2 Proまで、幅広い選択肢を用意しているのは大きな魅力といえる。

●デスクトップPCならではの選択肢の広さ

 つい最近、PCを触り始めた人はあまりピンとこないかもしれないが、20年ほど前まではパソコンユーザーのほとんどはデスクトップPCを使っていた。まだまだノートPCの開発に必要な小型化の技術がコスト高で、デスクトップPCの方が性能もよく、スペックに対して割安感があったからだ。

 コンシューマー向けでは早くからノートPCの比率が増えていたが、法人向けでも徐々にノートPCの比率が高まり、コロナ禍になってノートPCの普及が一気に加速した。

 しかし、そのような時代になっても、改めてMac miniがデスクトップPCならではの良さを教えてくれる。Mac miniは、Apple製品としてはかなり異質で、スティーブ・ジョブズ氏も2005年に最初のMac miniを発表して以後、しばらくはこの製品を「遊び(Hobby)」で作っていると語っていた。

 Appleは自社製品の品質について非常にこだわりがある会社で、iPhone/iPad/Macのどの製品を買っても、画面上の色の再現性にしてもスピーカーからの音の再現性にしても、常に一定以上の水準を満たしている。よく、Apple製品は「高い」と言われるのは、その水準を下回る形では製品を作らないからだ。

 しかし、Mac miniだけは例外で、内蔵しているモノラルのスピーカーは決して音が良いとは言えず、品質の低いディスプレイを接続すればMacらしからぬ色味での表示になることもある。安価なキーボードやマウスを接続して、およそMacとは思えない入力のしづらさや、操作のしづらさを体験することもあるだろう。

 そういう部分も含めて、(Mac mini本体を除けば)まるでWindowsの自作PCのように自己責任で幅広い選択肢から選べるのだ。少しでも出費を節約したい人ならば、ディスプレイを買わずにHDMI出力を使ってTVやプロジェクターに繋いで使うこともできる。

 だからといって、Appleがこの製品に関しては品質管理をしていないわけではなく、純正のディスプレイ、純正のキーボードやマウス、トラックパッドを併用すれば、ちゃんとAppleらしい体験を楽しむこともできる。

 別売のApple Studio Displayを接続すれば、空間オーディオの音を楽しんだり、ビデオ会議中に動き回るユーザーを常に画面の中央に収めるセンターフレーム機能も利用できたりする。

 Touch ID用の指紋センサーを内蔵したMagic Keyboardを用意すれば、指紋認証でロック画面解除やアプリの購入を承認できるし、Magic Trackpadを使えば、ただカーソルを動かしてクリックするだけでなく、2本指/3本指ジェスチャーで画面を左右にスワイプしたり、Mission ControlやLaunchpadといった使い勝手を向上させる機能を呼び出したりと、MacBook同様の快適な操作性を体験できる。

 iMacやMacBookシリーズのような、一体型製品がApple体験の王道だとしたら、キーボードやディスプレイを選べるデスクトップモデルは周辺機器を純正で固めた王道体験から、一部または全部を他の製品に置き換えることで、王道から外れたカスタム体験を選ぶことも可能だ。

 それは、もしかしたらApple製品よりもさらに解像度が高く、高画質なディスプレイかもしれないし、大きさや操作方法などが身体の特徴に合った入力機器かもしれない。あるいはコスト削減で、とりあえず動けばいいと家に余っている古いデバイスかもしれないし、あえてディスプレイではなく、プロジェクターといったちょっと変わった構成かもしれない。

 この膨大な使用構成の柔軟性、そして最安値モデルからMac Studioに迫る性能のモデルまで選べる振れ幅の広さ、これこそが今、改めて注目したくなるMac miniの魅力だ。

 一度、このMac miniと一緒にディスプレイやキーボードなどもそろえてしまえば、今後も最新アプリの要求にプロセッサが応えられなくなる3〜5年くらいのサイクルごとにMac mini本体だけを買い替え、同じキーボードやディスプレイで使い続けるというスタイルもありだろう。

 ちなみに、ノートPCしか使ったことのない人には、また別の魅力を語っておくべきかもしれない。そう、外付けの大型ディスプレイは、ノートPCのディスプレイと比べて画面が高い位置にあるため、作業中に首を下に向け続ける必要がなくなる。

 今、もしあなたが慢性の肩や首の凝りに悩まされているとしたら、その原因は1日中、スマートフォンやノートPCの画面を見下ろして下ばかり見ていたことが結びついている可能性がそれなりにある。

 ノートPC内蔵の画面ではなく、外付けのディスプレイを利用することは、こういった身体への負担を軽減し、仕事の効率を上げる側面がある。そんなデスクトップ作業への切り替えを試してみたい人にとっても、手頃な価格で導入できるMac miniは魅力的な選択肢の1つになるはずだ。