9月19日未明に配信が始まった「iPadOS 17」には、カメラの映像をUSB経由でやりとりする規格「USB Video Class」(UVC)のサポートが新機能として含まれている。USB Type-C搭載のiPadと“UVCに対応したHDMI to USBのキャプチャーデバイス”を活用すれば、iPadをHDMI入力の外付けディスプレイとして使えるようになる。
iPadのディスプレイをより汎用的に使いたいと考える人にとって非常に夢のある大きなアップデートだ。しかし、実際の使い勝手や表示の遅延など気になる部分も多い。記者の手元にもiPad Proと適したキャプチャーデバイスがあるので実際に試してみた。
●Appleが想定している本来の使い方
UVCのサポートは本来、サードパーティー製の外付けWebカメラやビデオスイッチャーなどをiPadに接続して高画質なビデオ通話やマルチアングルカメラなどに活用することが想定されている。実際にiPadOS 17にアップデートしたiPadに一般的なWebカメラを接続すると、FaceTimeなどのアプリで接続したWebカメラの映像に切り替えられるようになる。
他にもUVCに対応した最近のカメラ(ソニーα7 IV、シグマSIGMA fpなど)を接続すれば、カメラの外部モニターとしても使えるだろう。
米Appleによれば、対応するのはUSB Type-Cポートを搭載したiPadとなっているため、以下のモデルが該当する。
・iPad Pro 12.9インチ(第3世代)以降
・iPad Pro 11インチ(第1世代)以降
・iPad(第10世代)以降
・iPad Air(第4世代)以降
・iPad mini(第6世代)以降
●適したキャプチャーデバイスは?
今回は上記の機能を応用し、UVCでHDMIの映像をUSB側に渡せるキャプチャーデバイスを活用することで、「iPadをHDMI入力の外付けディスプレイ化しよう」という算段だ。
ただ、このUVCに対応したキャプチャーデバイスについて、定番商品というものが少ない。有名ブランドでいえばElgato「Cam Link 4K」やアイ・オー・データ「GV-HUVC/4KV」などがあるが(動作保証するものではない)、以下で価格を確認すれば分かる通り、「何となく試したい」という人には不向きだろう。
一方で、他の商品はないのかと「HDMI キャプチャ UVC USB」といったキーワードでECサイトなどを検索してみると、実はノーブランド製品が非常に多く出回っている製品ジャンルであることが分かる。
ノーブランド製品は「『1080p/60fps』『4K/30fps』による入力に対応」といったスペックをうたっていても、実際はその性能が出なかったりする“ハズレ商品”の場合も少なくない。価格が数千円以下と非常に安価で魅力的だが、もし購入する場合はレビューなど先駆者の評判をよく確認してからがいいだろう。記者はノーブランド品の中でも「MS2130チップ」搭載モデルを選んでいるが、動作保証はできないので詳細は割愛する。
●実際に試してみた
用意したものは次の通りだ。
・M1 iPad Pro 11インチ(2021)
・ノーブランドのHDMI to USBのキャプチャーデバイス(+USB Type-Cハブ)
・HDMI出力を試すNintendo Switch、Windows PC、Chromecast with Google TV
・外部ディスプレイ用途に適したアプリ(EasyC@M)
特に難しい準備はなく、それぞれを接続するだけだ。記者が持っていたノーブランドのHDMI to USBキャプチャーデバイスはUSB Standard-Aのため、USB Type-Cに変換するハブをかませている。
接続したら、UVCで入力された映像を表示するアプリを起動する。「FaceTime」アプリなどでも確認できるが、現在はiPadを外部ディスプレイとして使うことを想定したUVCビュワーアプリが続々と登場している。記者が確認したものでは「Camo Studio Streams & Video」「EasyC@M(有料250円)」「PadDisplay(現在はβ版のためTestFlightの環境が必要)」などがある。今回はEasyC@Mでテストしている。
●映像の遅延はどの程度ある?
iPadを外部ディスプレイとして使う手段はこれまでもあったが、いずれも表示の遅延が気になるユーザーが多かったはずだ。今回は簡易的にミリ秒まで表示できる時計を一般的なPCディスプレイとiPadでミラーリング表示してカメラで撮影することで、どの程度の差があるのか確かめてみた。
結論から言えば、PCのディスプレイとUVC経由で表示しているiPadでは平均で34ミリ秒程度の遅延を確認できた。
これは競技性の高いシビアなゲームではギリギリアウト、操作が忙しくないゲームや動画鑑賞、PC作業などでは快適に使えるというレベルだ。記者はアクション性の高い障害物競走ゲームの「Fall Guys」を試しにプレイしてみたが、問題なく楽しく遊べると感じた。これは人それぞれだろう。
●著作権保護された映像は表示できる?(Netflix、Amazonプライム・ビデオ)
HDMIにはDRM(デジタル著作権管理)やHDCP(著作権保護技術)という不正利用防止の仕組みが備わっている。これらに対応していないディスプレイにHDMI接続すると、著作権のある映像コンテンツを表示できない場合がある。
Windows PCのHDMIポートから拡張ディスプレイとして接続してみたところ、Webブラウザで開いたNetflix、Amazonプライム・ビデオいずれも表示に問題はなかった。また、意味があるのかはさておき「Chromecast with Google TV」を接続した場合も問題なく映像が表示された。
●iPadの使い方が広がるアップデートだが、使いこなしが必要
記者はこれまで「タブレットは高品質なディスプレイを搭載しているのに、もっと汎用(はんよう)的に使えないのはもったいない」と長年感じていた。今回のUVCサポートは、この思いを解消する、非常にわくわくとするアップデートだ。
実はiPad以外に目を向けると、一部のAndroidデバイスがUVCをサポートしており、同様の使い方ができる。しかし、それだけのためにAndroidデバイスに乗り換えるかというと、少し厳しいものがある。タブレット市場で大きなシェアを誇るiPadが対応したことは大きなインパクトがある。
ただし、使い勝手の部分でいくつかの課題もある。
1つ目はHDMI to USBキャプチャーデバイスの入手性が良くないことだ。現時点では自身で評判を調べて正常に動作する製品を探す必要がある。今後、iPad対応をうたう商品を周辺機器メーカーが企画してくれるかもしれない。
2つ目はバッテリーの問題だ。iPadは接続したアクセサリーに電源供給も行うため、バッテリー消費が増える。今回もNintendo Switchなどを接続してテストしていたところ、バッテリーの減りが目に見えて早くなった。どこでも長時間表示し続けられるモバイルディスプレイとは考えない方がいいだろう。
ならば電源を接続すればいいのだが、iPadにはUSB Type-Cポートが1つしかない。給電しつつアクセサリーを使う場合は、USB Type-Cポートを計2つに増やせる「Magic Keyboard」などを活用する必要がある。あるいは給電も可能なUSB Type-Cハブがあればいいが、こちらも実際に使えるか検証が必要だ。
3つ目は常設するディスプレイ代わりにはもったいないということだ。HDMI入力できるディスプレイとしてデスクなどに常設する用途も考えられるが、それは通常のタブレット用途とは異なる使い方になる。iPadを常設ディスプレイとして長時間使うと、画面バックライトの劣化やバッテリーの劣化が早まる可能性が高い。
それが原因でiPadの買い換えサイクルが早まった場合、コストパフォーマンス的にいかがなものか。その点をふまえると、用途によっては最初から常設に向いたディスプレイやモバイルディスプレイなど専用機を使った方がいいケースもあるはずだ。
──このように、まだまだユーザー側で使い方を工夫する点はあるが、その部分まで楽しめる人ならチャレンジする価値がある。