安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

「編集長が聞く!」

【まとめ】

・新型コロナ感染拡大が続く中で、鍵になるのはスピード感のあるワクチン接種。

・開催が迫る五輪については、判断基準を明確に示し国民に納得してもらえるように取り組んでいく。

・コロナ禍の今だからこそ、一人一人の国民の幸福を重視する『GDW興国論』への転換を目指していく。

 

■  党としてのこれまでのコロナ対策の評価

安倍: 7月末までに政府は高齢者の接種の完了を目指している中で、自衛隊の大規模接種センターも稼働し始め、だいぶ先が見えてきた感じがする。党として、これまでの動きをどう評価しているか。

下村氏: 現時点で、医療従事者への接種が累計で720万回、高齢者の接種が累計で350万回、合わせるともう1000万回を超えています。更に、それぞれの自治体も医療関係者の方々に協力要請をしながら、ワクチン接種を進めている状況です。実際、93%の自治体からは、7月末までに65歳以上の希望する方々のワクチン接種を完了できるという返事をいただいています。また自衛隊、防衛省も東京と大阪で一日合計1万5千回の接種ができるということ、更に今月の21日からは大学やあるいは業種によっても(企業で)接種できるということで、相当スピード感が増してきています。

私は党のコロナ対策推進本部長を兼任しており、またワクチンPTも作っているので、先週の月曜日には鴨下一郎先生と武見敬三先生と一緒に、ワクチン接種を地方自治体がもっと柔軟に対応し、スピード感を更に高めるように官邸に申し入れに行きました。

具体的には、65歳以上の方々の半分くらいにワクチン接種の見通しがつけば、その段階で同時並行で基礎疾患のある方や、エッセンシャルワーカーの方への接種を、自治体の判断で始めてもらって良いということです。色々な方々に対して同時並行でワクチン接種を進めていただきたいと思います。

実際に私の選挙区である板橋区でも、今月中頃から65歳以下の方々にも接種券を配布することになっています。菅総理は1日100万回の接種ができる体制を作ると言っていますが、それがさらに加速して、130~140万回くらいは接種が可能な体制が出来つつある状況です。できるだけ柔軟に前倒しで接種が進められる体制を党が政府に提言し、政府もそれに沿ってどんどん加速度を高めているので、相当スピード感もって対応できると期待しています。

安倍: その中で政府は20日まで緊急事態宣言を延長した。一部デパートなどで規制が若干緩和されているが、やはり飲食業を中心に悲鳴が上がっている。経済への影響も心配されるが、党としてはどう見ているか。

下村氏: 多くの国民の皆さんは、自粛要請に相当対応してくださっています。実際の数字で言うと、東京都の人流は緊急事態前の3月下旬に比べ、発令してからは最大昼間が5〜6割、夜間は7〜8割の減少が見られています。

ただ、感染力が強いイギリス株やインド株などの変異株が広がってきたことにより、予想以上には感染者が減っていないのは確かです。また医療逼迫が特に大阪で問題になっていますが、これについてもやはり、ワクチン接種を進めていくことが大事だと考えています。実際にイギリスやイスラエル、アメリカなどでは、40%接種が進むと集団免疫ができて、感染者が減ってきている状況があります。ワクチンをいかにスピード感を高めていけるかが重要になってきます。同時に経済対策についても、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が延長になったわけですから、追加経済対策を設けることが当然必要だと考えています。

安倍: 都の支給金も配布が遅れていて、まだ5割くらいがもらえていないと聞く。また、休業要請を守らない店も出始めている。休業要請を延々と伸ばすのは難しいのではないか。

下村氏: 要請を守らない店舗は、東京都も大阪も名前の公表、あるいはペナルティや罰金などの社会的な制裁が伴うものですし、自治体も守ってもらえるように徹底して要請をしています。感染者を減らすためには、決められたことはしっかり守っていただきたいと思います。もちろんそのための協力金等は、当然しっかりと出していきます。ただ、やはり東京都も支援が遅れているところはあるようなので、スピード感を持って、今困っている方々にできるだけ早く協力金等出すことが必要だと思います。それと合わせて、休業要請などのお願いをしていくということが大事になってくると考えています。

■ 開催時期が迫るオリンピック、パラリンピックについて

安倍: コロナ禍での東京五輪ということで、数万人とも言われる海外から来る人の影響が心配されている。ワクチンを打ってくることや、滞在中の一般国民との非接触などを選手や関係者に求めるにしても、海外から変異株が入ってくるという可能性はゼロではない。この点について党としてはどう考えているのか。

下村氏: やはりオリパラによってクラスターが出たり、感染拡大が起きたりしては大変ですから、相当厳しく対応はしていきます。まず外国人の観客は入れません。また、選手を含め関係者18万人が入国する予定だったのを、既に半分の9万人程度にまで減らしています。選手には入国する前に自分の国でPCR検査をしてもらい、日本に入ってきたらPCR検査で毎日チェックをしていただく。選手村と競技場の間も、普通の交通機関を使わずに借り上げたバスで移動してもらいます。一般の方々と接点を持たないような形で、バブル化と呼ばれる包み込みを徹底していくことが必要だと思います。

また、オリパラの1ヶ月前にあたる6月の20日頃には、感染者や重症者がこの程度だったらオリパラはこの規模で行うとか、観客をどうするのかということを、目処をつけて明らかにする必要があると思います。

安倍: 現時点では、6月の20日くらいを目処にシュミレーションをしてる段階だということですね。

下村氏: 今国内のスポーツや文化イベントでは、緊急事態宣言エリアは観客なしとしながらも、それ以外の地域では最大5000人、もしくは収容者の二分の一以下という感染対策をしながら行っています。それと同じレベルでオリパラも考えていく必要があると思います。

また、オリンピックのためではなく国民のためですけれども、ワクチン接種をどんどん進めていけば感染状況が改善していくということもあると思います。それを踏まえつつ、6月20日くらいにオリパラをどうするかということを、判断基準として示していくことが必要だと思います。

安倍: 尾身会長は変異株の流行などを踏まえ、6月20日に仮に緊急事態宣言が終わったとしてもその後にはまん延防止等重点措置などを出して、注意深く見ていく必要があると警鐘を鳴らしている。これについてはどうお考えか。

下村氏: 尾身会長は、コロナの封じ込めのために選手の自由行動は認めないことと、また会場外の感染リスクなどを示した上で、人流、接触機会を極力抑えるべきと提言しています。また、大会期間中どの程度医療に対して負荷がかかるのかを評価して、それを踏まえて開催規模を考えたらどうかということも提案しています。こういった提言を踏まえつつ、6月20日くらいにその目安を示していくという考えです。

国民からこういう数字の中でこういうレベルでやるのかという納得感を持ってもらえるように、エビデンスを明確にしながら説明すべきだと思います。

安倍: オリパラについての政府のこれまでの情報発信が弱かったようにも思える。より積極的に情報を発信していけば国民もより安心するだろう。

下村氏: そうですね。そういったメッセージはより積極的に出していくべきだと私も思います。

■  今後のワクチン行政について

安倍: 今後感染症という人類最大の敵に対して、中長期的にワクチン戦略を組んでいかなければならない。これまでの日本のワクチン行政が万全ではなかったとの指摘がある中で、国を上げての感染症対策についてはどうお考えか。

下村氏: まず日本の国内ワクチンが遅れていることについてですが、他の国はSASやMERSの流行をきっかけに、バイオテロや戦争を想定してワクチン開発に力を入れていた部分があります。他国は、コロナ前から国家の危機管理としてワクチン開発を進めていたということです。

一方で日本では、基本的に国家危機としてのバイオテロというのを想定していませんでした。また、日本国憲法に有事対応としての緊急事態条項が入っておらず、常に平時対応になってしまうことも大きいと思います。今回のコロナは明らかに有事ですが、平時対応で考えるとワクチン開発には7~8年は当然かかってしまいます。だからこういう時には、平時のワクチン開発じゃなくて有事のワクチン開発を考えなければならないと思います。

国内のワクチンや医療薬については、既に国がAMED( 国立研究開発法人日本医療研究開発機構)という機関を通じて、700億円くらいは支援をしています。やはり諸外国に比べると桁違いに研究開発に向ける予算が少ないですから、それを大幅に増やしていくことが必要だと思います。

ワクチン開発の遅れの原因としては、厚労省のトラウマも挙げられます。薬害エイズ問題や、子宮けい癌ワクチンなどの訴訟に負けてきたことから、ワクチンの認証には元々かなり慎重になっていました。

また、これからワクチン開発をしたとしても、第三相治験で開発したワクチンと偽薬を何千人という方に実際に投与して効果を検証する必要があります。既に国内のワクチン接種がある程度進みつつある中で、リスクを感じながら何千人という方々に治験に協力いただくのは難しいところがあると思います。そこで党から、WHOと連携してアジア地域の臨床研究と治験のネットワークを築き他の国にも治験協力をしてもらうことによって、一気に何千人という規模で国産ワクチンの効果を調べていくという体制の構築を政府に提案しました。まさに有事のワクチン認証です。こういう形で、できるだけ早く今までにないスキームでワクチンの承認を進めていくという考えです。

■ コロナ禍における教育

安倍: コロナの流行で大学などではオンライン授業が一年以上も続いているが、教育に対しての影響についてはどうお考えか。

下村氏: 教育への影響は大変心配しています。今月の21日からは大学でも接種を始めていただいて、オンラインと対面のハイブリット型の授業を進めてもらいたいと思います。大学側からすれば、クラスターを大学で起こさないためになるべくオンラインにしたいようですが、学生はかわいそうです。

安倍: サークルも活動を休止していて、友達が全然できないという声もあります。

下村氏: 部活やサークル活動は感染リスクが高いので、どうしてもある程度自粛してもらう必要はあるかと思います。ただ、大学には広い教室もあるわけですから、ソーシャルディスタンスをとりながら講義はできるだけ対面でやるべきだと思います。学生が大学に行く機会は、学生の精神安定上も積極的に作ってもらいたいと考えています。

安倍: 下村氏がこれまで力を入れてきたプログラミング教育が注目されている。今後の教育のデジタル化についてはどう考えているのか。

下村氏: コロナによって前倒しをして、今年の4月からは小中学生に1人1台タブレットが配布されました。今後は個別最適化教育と言って、タブレットを使いながら自分の学力に合ったレベルで勉強ができるようになります。例えば中学2年生の子が数学についていけないとなれば、つまづいたところ、例えば小学5年生まで遡ってそこから勉強ができます。逆に物足りない子は中学2年生でも高1レベルの数学もできます。

集団学習でみんなが同じことをやるというのは、それに合った子はいいけれども、それでは物足りない子、あるいはついていけない子にとっては無駄な時間になってしまいます。そのためデジタル化による個別最適化教育というのは、同じ時間勉強をするにしても相当学習効果が高くなるという意味で、教育の質の向上に加速度的につながってくると考えています。

■ GDP興国論

安倍: ストレスフルな現代社会において、下村氏が提唱しているGDW(国民総幸福度)は、重要な概念だと思われる。この「GDW興国論」(飛鳥新社)を著わした心は。

▲写真 下村博文氏 ⒸJapan In-depth編集部

下村氏: GDP(国内総生産)だけでなく、国民の幸福度世界一の国へと言うのが『GDW興国論』です。経済成長しているという事はもちろん必要ですが、それによって1人1人の国民が幸せになれないのであれば意味は無いと思うんです。前から比べると、日本は経済成長して豊かになったとは言われていますが、経済発展が叫ばれる中で国民1人1人の幸せという視点が、2の次3の次になってきたと考えています。

そこで自民党では、政府に孤独孤立担当大臣という役職を設けたり、「いわゆる「ひきこもり」の社会参画を考えるPT(座長:馳浩衆議院議員)」を作ったり、「日本well-being計画推進特命委員会」を作ったりしています。これらは全て、私が提案をして実現したものです。例えばひきこもりは、全世代を合わせると200万人を超えるとも言われています。家族の方々もそれで苦しんでいると考えれば、500万人を超える方が引きこもり等によって孤独や孤立を感じていることになります。これでは到底、幸せな国とは言えません。

だから、一人一人が幸せを感じるための社会構造であるためにはどうしたらいいかという視点を、これから政治の中心におかなければならないといけません。そういった観点から、この「GDW興国論」を書きました。GDPからGDW(Gross Domestic Well-being)への転換を大事にしながら、アフターコロナの社会を作っていきたいと思います。

■ エネルギー戦略

安倍: 今年はエネルギー基本計画が明らかにされる年であり、自民党内でも最新型原子力リプレース推進議員連盟ができて、原発や新型炉のリプレースという言葉を基本計画に入れるという声が上がっている。2050年のカーボンニュートラル、2030年までの温室効果ガス46%削減という宣言も踏まえれば、原発を基本計画に入れ込んでいくことは必要だと思うが、この点についてはどうお考えか。

下村氏: 温室効果ガスを2030年に46%削減し、2050年にゼロにするというのは、相当ハードルの高い問題設定です。しかし日本だけでなく世界が地球温暖化対策としてこの削減に取り組んでいるわけですから、真剣に取り組んでいく必要があります。

特に石炭や石油等の化石燃料は、エネルギー産業の中でCO2を最も多く排出しています。これをなくしていくために、再生可能エネルギーや、国によっては原子力発電に力を入れて行くという流れになっています。

わが国では特に再生可能エネルギー、グリーンエネルギーに力を入れていきますし、それが新たな市場としても広がると思いますが、やはりそれだけでは間に合わないという面もあります。原子力発電所の再稼働については世界で最も厳しい基準を設けておりますし、実際に地域の方々の理解を得て9基は再稼働をしているわけですから、原子力の利用が必要になるのは確かです。厳しい再稼働の基準をクリアして、なおかつ地域住民の方々の理解が得られれば、できるだけ再稼働をしていくことが必要だと考えています。原子力はCO2を発生させないわけですから、最もクリーンな電力と言えるはずです。経済とのバランスの中で、認められたものの再稼働を増やしていく努力をすることが必要になります。

▲写真 下村博文氏 ⒸJapan In-depth編集部

■ LGBT法案

安倍: LGBT法案について最近色々と騒がれているが、党としては一転慎重姿勢で党3役に任されている。この法案については、今後どういう方向に進めていくお考えか。

下村氏: LGBTにおける理解増進法案は、党内ではもう了承されており、党内手続きは既に終わっているんです。ただこの法案については、法案に含まれる「差別」という文言に対して、政府がしっかりとその解釈を説明することが前提で党内で了承されているという経緯があります。それは今後の裁判でLGBTなどについての争いがあった時に、この「差別」という文言についての解釈とそれについての国会答弁が非常に重要になってくるからです。

しかし国会があと2週間しかない中で、現在審議中の重要土地法案という閣法が6月16日の最終日に通るかどうかギリギリの状況になっています。したがって、LGBT法案について政府側の国会答弁にしっかり時間を取って審議することが日程的に非常に厳しくなっています。日程的に間に合わない中でLGBT法案を出して、成立させることができなければ、この法案は廃案になります。途中で廃案になることが日程上分かっているなら、最初からそうならないよう秋の臨時国会で出し直ししたら良いのではないかということです。

安倍: 今国会では閣法の「重要土地等調査規制法案」が優先されることになると。

下村氏: そうですね。基本的に閣法が全部通ったあとで議員立法を処理するのがルールです。LGBT法案は議員立法ですから、今国会では閣法の重要土地法案がまず最優先になります。もしこの重要土地法案の採決が早まったり、あるいは他の要因で会期延長になったりするようであればLGBT法案の審議に移れる可能性もあるので、三役で預かるということになっています。

■ 総選挙に向けて

安倍: 最近下村氏は、ウェブメディアを含め、積極的にインタビューを受け、情報発信を増やしているが、次期総裁選をにらんでという面もあるのか。

下村氏: 先日、安倍前首相がポスト菅として私を含め4人の名前を出してくれましたが、私にとっては大変光栄なことでした。今は政調会長ですから、しっかりと菅政権を支えるということに全力を尽くしていこうと思っておりますが、ポスト菅ということであれば期待に応えられるよう精進していこうと思っています。ポスト菅ですから、当然菅総理を支えた後の話ですがね。

安倍: ただ、自民党は先日の補欠選挙、再選挙で3連敗をしていることもあり逆風が吹いているようにも思えるが、今後この雰囲気は変わってくると思うか?

下村氏: 非常に厳しい状況にあると思います。支持率を上げるためには、多くの国民がワクチン接種ができる状況と、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を解除できる状態にして、その上で経済対策をしっかりやっていくことが必要だと思います。最近は政治とカネの問題もありますから、自民党は自浄作用を働かせることができると、国民にそう思ってもらえるように我々はしっかりと努力をしていきます。

(了)

**インタビューは2021年6月2日に行われました

トップ写真:下村博文氏 ⒸJapan In-depth編集部