清谷信一(防衛ジャーナリスト)

「清谷信一の防衛問題の真相」

【まとめ】

・装輪ATVが世界の軍隊で多用されるようになった。南西諸島でも有用。

・ATVの殆どのコンポーネントは市場調達でき、途上国でも開発可能。

・国内で軍用開発・輸出も可能。ただ、運用には法整備が必要に。

 

装輪ATV(All Terrain Vehicle:全地形対応車)とは、通常の車両よりも遥かに幅広い地形を踏破できる車両だ。この種の車両が世界的に軍隊で多用されるようになっている。

自衛隊でもようやくこの種の車両が導入されて、本年陸上自衛隊の総合火力演習でも登場した。

納入されたのは民生品のMULE PRO-FXT(EPS)をベースにしたもので、陸自に新たに導入されたMV-22オスプレイ用搭載車輌の試験用として調達、現在試験中である。(参照:2020年5月26日『陸自、MV-22搭載用ATV評価中』)

ただディーゼルエンジン仕様があるのにわざわざガソリンエンジンを選択している。これはガソリンエンジンの方が軽量、静粛で出力が高いという理由だろうが、ガソリンは爆発物であり、被弾時の損害が大きくなる。それがオスプレイ搭載時に起これば大惨事だ。また燃料は自衛隊車両の多くが使用しているディーゼル用の軽油が使えない。このため兵站でも不利だ。ガソリンエンジンを採用するのは当事者意識が欠けている。

ATVは極めて高い不整地走行能力を有する軽車両で、多くは幅広の低圧タイアを装備している。当初は米国で牧場での馬の代わりに使用されたり、スポーツ目的に使用されていたのだが軽量で、不整地の走行能力が高いという特性に軍隊も目を付けた。最初に導入したのは恐らく米軍の特殊部隊で90年の湾岸戦争でも偵察やパトロールなどで実戦に民間型が使用された。

80年代から一部の軍隊の特殊部隊でFAV(Fast Attack Vehicle)と呼ばれる一種のバギーを使用してきた。これは市販のバギーと違って車高が低く、オープントップで12.7ミリ機銃や対戦車ミサイルなどの武装を装着できるロールバーを装備したものだ。基本的に砂漠などでの急襲作戦などを想定された装備である。

米国のシュノハウス社のFAV(商品名)がその嚆矢であり、湾岸戦争での活躍もあり、より大型のALSV(Advanced Light Strike Vehicle)が開発された。また英国のロングライン社もコブラを開発し、英空挺部隊・特殊部隊に採用され、フランスのGiat社(現ネクセター)も米国のアウレコ社からライセンスを取得してこれを元にVRAを開発した。

ATVとFAVの違いは、前者が主に不整地の走行能力を重視しているのに対して、後者は速度と武装を重視していることだ。だが湾岸戦争後は両者の特徴をあわせ持った軍用のATVが開発されることが増えている。

先述のようにATVは攻撃能力や速度よりも不整地踏破性が重要視されている。それはランドローバーなどの通常の4×4やFAVの行動が難しい沼沢地や豪雪地帯、山岳部などでの使用が想定されているからだ。また偵察やパトロールなどの任務に使用されるにしても、長距離の偵察などの使用に耐えるようなペイロードが要求される場合もある。

一般に初期の民間用のATVは跨座式シートを有し、棒形ハンドルで操縦されるタイプが多かったが、軍用では並列複座型のモデルが多くなっている。また貨物を積載したトレーラーを牽引することを前提としたモデルも多く、偵察やパトロール以外に前線での物資の輸送や補給、火器などの装備のプラットフォームなどとして使用されるケースが増えている。誤解を恐れずに言えば昔の軍隊の駄馬、ロバのような役割が期待されている。

ATVには大きな低圧タイアと浮揚性の車体を備えて、水上航行が可能なものもある。80年代に登場した英国のスパキャット社の社名ともなったスパキャットは、これは84年に英軍にATMP(All Terrain Mobility Platform)として採用され、55輌が調達された。主たる配備先は空挺連隊、空中機動旅団、海兵隊だ。

▲写真 スパキャット社が開発したATMP 出典:Supacat

ATMPは軽量で水に浮く、水上航行が可能な車体に6個の31×15.5×15幅の低圧タイアを装備している。エンジンはフォルクス・ワーゲンの78馬力のターボ・ディーゼルだ。運転席のハンドルはバイクのような横一文字の形をしている。通常の4×4車輌にくらべて接地圧は極めて小さく、斜度100パーセントの坂も登ることができる。最大速度は路上で時速64キロとなっている。兵員を輸送する場合、運転手を含め最大10名が搭乗できる。

ペイーロードは1,000キロであるが、走行性能を犠牲にするならば1,640キロまでの貨物を搭載できる。また最大2トンキロの牽引力がある。専用のトレーラーFLPT(Fork Lift Pallet Trailer)は1.7トンの貨物を搭載できる。例えば英空挺部隊の砲兵隊では車体及びFLPTに弾薬を搭載して、さらに105ミリ軽砲(L118又はL119)を牽引して運用してきた。また貨物の積み卸し用に専用のクレーンを搭載すればクレーン車として使用することもできる。南アの空挺車輌、ゲッコーはこの流れを汲む車輌と言ってよいだろう。

急襲用に開発されたFAVは一般に航続距離が短く、防御力もなく、乗員の疲労も大きいので短距離での急襲作戦以外に使えず、使い勝手が意外に悪いことが認識されてきた。このためスパキャット社のジャッカルやイベコ・ディフェンス社のLAVの特殊部隊型、ジャンケル社のアブ・サヤフなど、通常の軽4×4車輛をベースにしたオープントップの車輌、前回紹介した南アフリカの特殊部隊車輌、ホーネットなどのような車輌にその地位を奪われてほぼ消滅している。

これらの車輌はオープントップでも装甲車だったり、ソフトスキンでも装甲の装着が可能だったりするし、ペイーロードが大きく長期の作戦行動が可能でより多彩な武装が可能となっている。このため汎用性が高い。

またATVにも特殊部隊の襲撃などの任務にも使えるような、高速で武装が可能なタイプも出現している。つまりFAVの急襲能力などは特殊部隊用のパトロール車輌とATVに引き継がれ、絶滅したと言ってよいだろう。

米国のATVメーカー、ポラリス社の軍事部門であるポラリス・ディフェンス・ビークルの軍用ATVは米軍を始め、多くの軍隊に使用されている。USSOCOM(United States Special Operations COMmand :米特殊作戦軍)では同社のMV850、MRZR2、MRZR4などが採用されている。

▲写真 MV850 出典:POLARIS GOVERNMENT & DEFENCE

MV850は跨座式シートを使用しており、乾燥重量は443.6キロで、77馬力のガソリンエンジンを使用している。最大速度は時速83キロだ。前部に91kg、後部ラックに181kgの貨物を登載でき、最大680.4 キロのトレーラーなどを牽引できる。ステアリングが電子式で操作性が高い。またタイアは自社開発したATV用のチューブレスタイアを採用している。これは側面から見るとハニカム構造になっており、これによって車体の重量を支え、またクッション性を確保している。同社によると12.7ミリ機銃弾を被弾しても走行が可能という。近年はこの種のハニカム構造のタイアの採用が増えている。

▲写真 アメリカ特殊作戦車で使用されているMRZR2 出典:ポラリス・ディフェンス・ビークル

MRZR2は並列複座式のATVで730.7キロ、88馬力のガソリンエンジンを使用している。前部に226.8キロ、後部カーゴスペースに453.6キロの貨物を登載できる。後部カーゴスペースには二名までのシートを装着することができる。最大680.4 キロのトレーラーなどを牽引できる。最大速度は時速96キロである。

▲写真 LT-ATV variant of the MRZR-4 出典:U.S. Army / Wikimedia Commons(Public domain)

MRZR4はこれの4名型で、重量が867.3キロで、後部のペイーロードは680.4キロとなっており、二人用シートまたはストレッチャーを2床登載できる。エンジンやコンポーネントは殆ど同じものを採用している。同社ではディーゼル・エンジンを搭載したレンジャー・ディーゼルなど、多くのモデルが開発されている。

英国のESP(Enhanced Protection Systems)UK社の軽量バギー、スプリンガーはアフガニスタンで使用するために戦時臨時採用として英陸軍用にLSV(Light Strike Vehicle)として09年に調達が決定された。スプリンガーはドライ・ウエイトが850キロで、1,400ccのディーゼル・エンジンを搭載している。乗員は1名ないし2名で後部の荷台には1.4トンの貨物が搭載でき、2.7トンの牽引力がある。ルーフにはIDE(即席爆弾)ジャマーが、助手席には7.62ミリ機銃のピントル・マウントが装備されている。

▲写真 英軍が戦時緊急調達したスプリンガー 撮影:筆者

英国防省は同様にUORとしてヤマハのATV、グリズリーとトレーラーを採用した。これはそれまで使用されていたホンダ450のリプ後継用で、421ccエンジンを搭載した民間用グリズリーATV(All  Terrain Vehicle)450IRSを改良したものに、ロジック社のSMT171bトレーラーを組み合わせたシステムだ。ヤマハUKとトレーラーのロジックUKが主契約で、ロッシュ、ブラットレイ・ダブルロックの両社がサブコントラクターとなった。これらは小隊・分隊レベルで、60ミリ迫撃砲や弾薬の運搬に使用される。09年に200セットが5万ポンド(約7.5億円)で発注された。

▲写真 ヤマハ・グリズリー450IRS 出典:YAMAHA

因みに民間用のATVは我が国のバイクメーカーである川崎重工やホンダ、ヤマハ、スズキなどがあり、海外では多く販売されているが、国内では道路運送車両法などの法規規制の関係から、殆ど普及していない。

ATVはエンジンやサスペンションなど、殆どのコンポーネントが世界の市場で入手可能である。このため町の自動車整備工場レベルの設備でも開発や生産が可能だ。このため途上国でも開発に乗り出している。また日本製を含めた民間用ATVに改造を施して軍用にすることも難しくない。

ヨルダンの国営兵器工廠KADDBはヨルダン軍の要求によって軽戦術車輛、LTATV(軽戦術汎地形車輛)を開発した。これはドライ重量が850キロ、ペイーロードが250キロで、750キロのトレーラーなどを牽引できる。エンジンは27.2馬力のディーゼル・エンジンを使用しており、最高速度は60キロ、登坂力が60パーセント、航続距離が250キロとなっている。駆動は4×2と4×4の切り替えが可能だ。

後部は通常は荷台として使用するが、シートを装備すれば4名の兵員が搭乗できる。ナビゲーター・シートには機銃用のピントル・マウントが装備可能だ。特殊部隊用だが、歩兵部隊の兵站車輛などとしても提案されている。UAE(アラブ首長国連邦)やサウジアラビアなどでも独自のATVが開発されている。

▲写真 ヨルダンのKADDBが開発したLTATV(軽戦術汎地形車輛) 撮影:筆者

このように軍用ATVといっても多様なタイプが存在し、搭載量も大きく異なる。また駆動方式も内燃機関だけではなく電動も存在する。USSOCOMでは一部で電動式のATVを使用しているが、静粛性の面では大きな強みを持つが再充電に時間がかかり、また充電器などのインフラも必要なことから、使用可能な環境は限定的だろう。

ポラリス・ディフェンス社は電動TV、EV LSVを発表しているが、この種のATVは米軍が石油由来の燃料の削減に取り組んでおり、そのために基地内などで使用されるケースが増えている。EV LSVは30馬力のモーターを搭載し、最大速度は時速40.2 キロと低速に抑えられている。基地内での業務はこの程度で充分であるという。完全4輪駆動で、走行距離は80.4キロ、充電時間は8時間となっている。運転席と助手席に二人が搭乗し、後部のカーゴボックスのペイーロードは226.8キロで、567キロのトレーラーなどを牽引することができる。

現在世界的にカーボンニュートラルの動きが強まっており、軍用車両のEV化も今後格段に進む可能性もある。

軍用ATVは我が国の空挺部隊や特殊部隊、水陸機動団でも有用だろう。事実水機団では採用されている。ATVはまず軽量であり、C-130などの輸送機ならば、かなりの数が運べる。またオスプレイの機内に収容することも可能だ。無論大型輸送ヘリCH-47でも同様だ。機内に収容できれば、空気抵抗も少ないために懸吊輸送に較べてヘリやオスプレイの速度や航続距離の低下が少ない。更に軽量なので小型の汎用ヘリで懸吊空輸も可能だ。

米海軍は特殊部隊用としてオスプレイ登載可能な、ボーイング社のファントムワークスがMSIディフェンス・ソリューションズ社と開発した戦闘支援車輌、ファントム・バジャーの試験を行っている。ファントム・バジャーはオスプレイ登載に特化した4×4車輌で、やや大きめだがATVのカテゴリーに入るだろう。サイズはオスプレイのカーゴスペースに一輌が丁度入るサイズで、240馬力の汎用燃料対応の民生エンジンを使用し、ペイーロードは1.36トン。最大速度は時速128キロで、航続距離は724キロ、旋回半径は7.62メートルである。座席後部はモジュラー式で、特殊部隊の偵察、野戦救急車、ウエポン・プラットフォームなどの任務に対応できる。多くの民生コンポーネントを使用してコストを下げている。

▲写真 米海軍によるボーイング・ファントム・バジャーのV-22オスプレイ搭載試験(2014年4月8日 米・セントルイス) 出典:BOEING

ATVは落下傘降下した空挺部隊の集合や重装備の回収、小型火砲や迫撃砲、各種の弾薬や食料などの運搬などにも威力を発揮する。特に南西諸島では舗装道路が少ないので、不整地走行能力が高いATVは非常に有用だろう。不整地踏破性が高いのでビーチやリーフなどでも、スタックする可能性が少ない。ただ、エンジンが水に浸かってもいいようにシールして、シュノーケルを装備する必要がある。

フランスの建設機械・車輌メーカーのUNACのRIDER(Rapid Intervention Droppable Equipment Raiders)はフランス陸軍に採用された空挺強襲用ATVだ。RIDERは全長2.60m、全幅1.60m、全高1.90mで最大戦闘重量は1.90t、輸送機からパラシュートによる空中投下が可能となっている。パワートレインは出力26kwのディーゼルエンジンで、最大550kgのトレーラーの牽引能力を持つ。武装は助手席のピントル・マウント及びロールバー上部に機銃を各1挺搭載できる。

▲写真 RIDER 撮影:筆者

水陸両用部隊にとっても同様に便利だ。車体が小さいので揚陸艇にも搭載し易いし、事実上のヘリ空母であるいずも級DDHなどからヘリで輸送するのも容易だ。戦時になればヘリの数はいくらあっても足りない。ことに大型ヘリは尚更だ。だがATVならば近い将来導入される予定の4トンクラスのUH-X(将来汎用ヘリ)でも懸吊空輸が可能だ。ヘリコプターの輸送力を有効に使うことができる。

またATVを自走迫撃砲にすることも可能だ。ATVの荷台に特殊作戦群が既に採用し、水陸両用戦闘団も採用する60ミリ迫撃砲をターンテーブルに搭載すれば容易に自走迫撃砲に転用できる。その場合牽引トレーラーに弾薬も搭載できるので、完全に自己完結したシステムになる。水陸両用戦闘団は3個普通科連隊を主力とし、各連隊には9門の60ミリ迫撃砲が配備される予定だ。だが人力に頼った場合、携行できる弾薬の量は極めて限られるし、迅速な陣地変換もできない。

ATVの自走迫撃砲を採用すれば水陸両用普通科連隊の火力を大きく向上させることが可能だ。ロシアのブレヴェスニクはATV(全地形対応車輌)に搭載する、口径82mmの2B24迫撃砲システムを2017年に発表している。2B24の射程距離は3-O-26 HE弾頭型の3V36砲弾で6km、3-O-12 HE弾頭型の3V12砲弾で4km、発射速度は毎分20発となっている。

▲写真 ロシアのブレヴェスニクはATV(全地形対応車輌)に搭載する、口径82mmの2B24迫撃砲システム 撮影:筆者

6×6のATVは最大速度は80km/h、最大航続距離は200kmで、砲弾搭載量は3V36砲弾で36発、3V12砲弾で36発となっている。近年西側諸国では小口径迫撃砲の運用にATVを使用する傾向があり、本システムはそのトレンドに沿った製品といえるだろう。

ATVには装甲車も登場している。イスラエルのカーモア・インテグレィテッド・ビークル・ソリューションのマンティスは、4×4のATV装甲車だ。全長5.0m、全幅2.3m、全高2.2m、最大戦闘重量6〜8tと発表されている。戦闘重量6tの場合の防御力は、NATOの共通防御規格「STANAG4569」で車体の全周がレベル3、耐地雷防御がレベル1.7tの場合は全周防御がレベル3で耐地雷防御がレベル2.8tの場合は全周防御がレベル4で、耐地雷防御がレベル2a/3bとされている。また車体の形状に合わせて凹凸をつけた軽量のカモフラージュ素材も用意されている。

▲写真 マンティス 撮影:筆者

操縦席は車体中央にレイアウトされ、3方が防弾ガラスに囲まれており、極めて良好な視界を確保している。その後ろ左右に2つタンデムのシートがレイアウトされ、計5名が搭乗できる。乗員は座席レイアウトによって最大9名まで拡張できる。車内容積は6㎥で、後部に貨物を搭載できるピックアップ型とオープントップ型も提案されている。

また指揮通信車として活用することも可能だし、指揮・通信能力の向上に貢献するだろう。またポラリス・ディフェンス社ではATVをC4IRのプラットフォームとして使用することも提案している。

さらにATVはUGV(無人車両)のプラットフォームとして採用が進んでいる。この場合、ハイブリッドや電動型が多いようだ。

我が国でも民間型ATVをベースに軍用ATVを開発するのはさほど難しくはないだろう。幸いにして我が国には民間向けのATVメーカーが存在する。その際必要ならばノウハウを有した海外の軍用ATVメーカーに開発支援を依頼するものいいだろう。ただ運用の前提としては、国内法の整備も同時に行う必要ある。自衛隊向けのATVは通常の交通法規には縛られないと既存の法律の文言に追加するだけでよい。また諸外国にこれを輸出するということも可能だろう。

トップ写真:アメリカ海軍特殊部隊「SEALS」が使用している全地形対応車DPV 出典:U.S. Navy / Wikimedia Commons (Public domain)