宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#20」

2021年5月17-23日

【まとめ】

・洪準杓議員「李在明知事が大統領になれば文大統領は1年以内に監獄へ」と発言。

・洪準杓議員は保守政治家。2017年5月大統領選挙で文在寅氏に大敗。

・李在明知事は左派政治家で文在寅大統領と犬猿の仲。文大統領にとって「最も危険な候補」。

 

冒頭から私事で恐縮だが、今週筆者が最も安堵したのは、17日昼頃、自衛隊が運営する東京大規模接種センターのオンライン予約に成功したことだ。たかがワクチン、されどワクチン、高齢者にとって早く打てるに越したことはない。申込開始当初は待たされたが、結果的には30分ぐらいで予約が取れた。正直、拍子抜けしたほどだ。

予約には杉並区が発行した「新型コロナワクチン接種クーポン券」が必要だが、予想以上にスムーズだった。やっぱり緊急時には自衛隊が頼りになる。それにしても「接種クーポン券」とは理解に苦しむ。クーポンとは確かフランス語で「利札」のこと、今では切り離しできる金券、割引券などを指すが、それって、ちょっと違うだろうが・・・。

それはさておき、海外ニュースで最も驚いたのは先週末韓国中央日報が報じた「洪準杓議員、『李在明(京畿道)知事が大統領になれば文大統領は1年以内に監獄へ』と発言」という記事だ。この話はある程度の背景情報、特に、名前が出てくる洪準杓議員と李在明知事を知らないと理解し辛いかもしれない。という訳で、少しばかり調べてみた。

まず、洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員だが、彼は元検察官の保守政治家で、ハンナラ党の代表などを務めた後、2017年5月の大統領選挙に自由韓国党の候補として出馬したものの、「共に民主党」の対立候補である文在寅氏に大敗している。

一方、李在明(イ・ジェミョン)知事は韓国の弁護士、市民活動家の左派政治家だが、文在寅大統領とは犬猿の仲。内外メディアは李知事を「韓国のトランプ」と呼び、そのポピュリスト的・強権的姿勢を韓国の保守派は「韓国のチャベス」「韓国版ドゥテルテ」などと呼ぶそうだ。要するに、文在寅氏より更に強硬左派の御仁。どっちもどっちだ。

その李在明氏について洪準杓氏が、「文大統領にとって李知事は最も危険な候補」であり、「文大統領は李知事以外に信頼できる人をどうつくるかを考えているはず」で、「李知事が大統領になれば文大統領は1年以内に監獄に行く可能性がある」とまで言っている。文在寅大統領を含め、この3人は一筋縄ではいかない政治家のようだ。

さて、一筋縄ではいかないというなら、イスラエルのネタニヤフ首相も同類だ。報道によれば、先週末バイデン大統領はネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長とそれぞれ電話会談を行ったという。だが、この程度の米国からの働き掛けに素直に応じるネタニヤフ首相ではない。

▲写真 イスラエル ネタニヤフ首相(エルサレム2021年3月24日) 出典:Amir Levy/Getty Images

バイデン政権は、「イスラエルとパレスチナ武装勢力の衝突が激化する中、米国が緊張緩和に向け中東諸国と協議中であることを説明し、双方に自制を促した」そうだが、ちょっと甘いなぁ。エルサレムやガザで起きている事件は、単なるイスラエル・ハマス紛争ではなく、ネタニヤフ首相生き残りのための国内政治の一環だからだ。

過去2年間でイスラエルでは4回総選挙が行われたが、ネタニヤフ政権は安定するどころか、同首相失脚の瀬戸際にある。当然、ネタニヤフ首相はいつもの切り札を切る。「対パレスチナ強硬策」により議会内「超保守派」勢力の支持を取り付ける手品、この見え透いたマジックが再び始まった。そう考える方がより現実に近いだろう。

可哀想なのは、イランに依存するハマスと、当事者能力を欠くアッバースPLOしか選択肢を持たない、パレスチナ人たち。彼らには有能で責任感ある指導者がいないのだ。他のアラブ諸国も、見て見ぬふり。過去20年間でパレスチナ問題は「アラブの大義」ではなくなりつつあるのか。1970年代のPLOを知る者にとっては隔世の感がある。

〇アジア

日米韓3カ国が6月中旬のG7サミットで首脳会談を開く方向で調整に入った、と報じられた。米国主導の動きだろうが、3カ国の首脳会談は2017年以来。「馬を水辺につれていけても水を飲ませることはできない」という諺があるが、今回馬になるのは韓国か、それとも日本か。いずれにせよ、デリケートな扱いが不可欠である。

〇欧州・ロシア

マイクロ波による攻撃が原因ともいわれるハバナ症候群が、キューバ・中国だけでなく、ヨーロッパ・ロシア・アジアなどの世界各地に赴任する米政府職員の間でも広がり、被害者は全体で130人以上だという。ロシア諜報機関GRUの犯行である可能性が高いとも報じられたが、本当にそうなのか。また、日本は大丈夫なのか、気になる。

〇中東

エルサレムやガザではパレスチナ人とイスラエル治安部隊の大規模な衝突が続いているが、ここで報道が「止まっている」のが「イラン核合意」に関する米イラン交渉である。この種の交渉は「騒がしいほど実態は思ったように進まず、静かであるほど実質的な議論が起きている」可能性もあるので、要注意。朗報を待ちたい。

〇南北アメリカ

「次期駐日大使に指名」と報じられたエマニュエル前シカゴ市長をめぐり、与党・民主党の急進左派勢力が「大使に不適格」と反対姿勢を強めているらしい。民主党内の急進左派の動きは前から気になっていたが、同前市長はオバマ政権の首席補佐官でもあった政治のプロ中のプロ。党内では評判が悪いのだろう。どうなることやら。

〇インド亜大陸

インドに対する米中の「ワクチン外交」が佳境に入りつつある。外交も良いが、先ずは1日30万人というインドの悲劇的な感染者数を何とかしないと・・・。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:韓国 文在寅大統領(ソウル2021年5月10日) 出典:South Korean Presidential Blue House via Getty Images