古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・対外投資に関する中国政府の発表は、現実と大きく乖離している。

・海外の研究機関による、中国対外投資の追跡調査が拡大。

・防衛関連の対外投資、投資が受け入れ側に与える影響について、調査が必要。

 

さて「中国の透明性報告」は中国の対外投資に光を当てる。中国が世界各地に資金や技術を投入する活動である。

この領域は中国がグローバル・パワーとしてどんな経済活動を展開しているかを示す。その経済活動には政治や軍事までがからむことも多い。

この報告はその中国の対外投資の表と裏の相違に焦点を合わせているといえよう。

その要旨は以下のようである。

【対外投資】

外直接投資(FDI)とは経済協力開発機構(OECD)の定義によると、「一国に居住する投資者が他国にある企業体などに継続的で顕著な影響を及ぼす投資をすること」だとされている。

より広範に解釈すれば、対外投資には多数の形式があり、他国に新たな工場を建設すること、既存のビジネスを拡大すること、他国の関連企業に補助金を提供すること、他国の企業の株式を取得すること、他国の企業を合併あるいは取得すること、他国に合弁企業を設置すること、などがある。

水平的な対外投資とは一般的に他国の同種の産業界に資金を投入することを指す。たとえば中国の衣料小売店がアメリカに支店を開く場合、あるいは同種の小売店をアメリカで買収する場合などである。

垂直的な対外投資とはサプライチェーンに沿って上下するような投資を指す。たとえば衣料の小売店が他の国の衣料製造企業を買収して、その製品を自己の店で売るような事例である。

中国は開発途上国のいくつかでエネルギーその他のインフラ・プロジェクトに投資してきた。その国の産業基盤を改善して、経済効率を上げ、国民の生活水準や国の経済成長を引き上げるという目的をうたう種類の対外投資だった。

中国の投資や金融の集団はその種の対外投資では他の諸国からは経済的に、あるいは物理的にもリスクが高すぎるとみなされるようなプロジェクトにも資金を投入するというケースがかなりあった。

開発途上の世界ではインフラ建設には巨額の資金が緊急に必要であり、多くの場合、中国だけがその種の資金源だという事例も多い。だがその種の中国の対外投資で受け入れ側にとって「諸刃の剣」の結果をももたらすこともある。投資の利益が受け入れ側の少数のビジネス・エリートとか指導層、あるいは中国企業側だけを潤し、一般には及ばない、という場合も多いのだ。

中国の大規模なインフラ建設プロジェクトは国際的な財政基準や技術基準を満たさず、透明性に欠けるいう点を頻繁に批判されてきた。無責任な債務慣行を推進するという批判だったが、その批判には根拠があった。

たとえば中国政府が推進する「一帯一路」構想には受け入れ側の専制国家のエリートたちが勝手に選んだプロジェクトが多いケースがあり、一般国家で選ぶときに根拠とする国際基準には合致しない場合が多々だった。

一帯一路のこうした暗闇の部分には不良債権、不履行公約、不健全経済、無益無用のプロジェクトなどが多数、隠されてきたのだ。中国の対外投資はこの種の経済的に好ましくない結果をもたらしただけでなく、戦略的にみても有害な結果を生んだ実例もある。

▲写真 「一帯一路」国際会議の翌日、握手をする中国の習近平国家主席とスリランカのラニル・ウィクラマシンハ首相(2017年5月16日) 出典:Photo by Damir Sagolj-Pool/Getty Images

中国政府は貿易や投資に関する統計を国家統計局や商務省などを通じて定期的に発表する。しかしこの種の公式経済統計は中央、各省、各地方のそれぞれのレベルで中国共産党の利益に資するように操作され、改ざんされることも多いのだ。

対外投資の統計は中国政府にとってこの種の国内経済データの操作はより難しくなる。投資先の相手国がとくに先進経済だと、中国からの投資の実態もより厳しく点検されるからだ。

だが中国政府は対外投資で新たな計画を多数、発表するが、そのなかでは延期されたり、中止となる計画もかなりある。その場合に中国側はその延期や中止を発表しないことが多いのだ。その結果、公式の統計は実態を反映しないことになる。

近年は中国の対外投資を追跡調査する民間での試みがアメリカだけでなく、他の諸国でも劇的なほど拡大してきた。中国の対外投資の統計を細かく追って、その内容や意味を分析する作業である。

こうした追跡調査の機関の急増はやはり2000年代中ごろから2018年にいたる期間の中国の対外投資の大拡大の結果だった。中国の対外投資へのこの顕著な注視はとくに2013年の一帯一路構想の発表以降にその投資の流れが地政学的な特徴をも示すようになった結果でもあった。一帯一路が動かす資源の急増は単なる経済的な意味を越える意義をも持つようになったのだ。

一帯一路は習近平主席の記念的なプロジェクトとなり、2017年には中国の憲法にも刻まれた。しかしそれ以降、一帯一路は国際的な反発を広範に受けるようになった。ここ数年ではさらに中国の対外投資全体の衰えとともに、一帯一路は劇的な後退をみせるようになった。

現在では各国のなかで数か所の著名なシンクタンクや調査研究所が中国の公式海外投資への多様な追跡調査メカニズムを機能させている。それぞれが少しずつ異なる重点や角度により調査を続けているのだ。

そうした追跡調査の一部は中国の投資があれば、世界中どこでもグローバルに追いかける。他の調査では特定のカテゴリーの中国の投資を追い、別の調査は地域別に焦点をしぼっている。

中国の対外投資を現在、調査している主要なアメリカの機関としては、「アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート(AEI)」、「ボストン大学グローバル開発政策センター」、

「スティムソン・センター」、その他がある。

中国政府が公表する自国の対外投資についてのデータは当然ながら現実との間に大きなギャップがある。とくに中国側が外国に提供するローンについては公式のデータの公表は皆無である。融資の条件などについてはなんの情報も公表されないのだ。

中国政府の対外投資のうち防衛に関連する資金の流れはとくに不透明となっている。それにくらべれば一帯一路や中国政府の海外援助はいくらかはより透明だといえる。

外部の民間の調査活動は中国の一帯一路、対外投資、融資、援助の各プロジェクトの透明性を増すことには役立ってきた。とくに海外投資は受け入れ側でより綿密な調査が行われることになる。しかしこの種の民間の調査でも中国の防衛関連の対外投資はきわめて不透明のままである。

全体としてこの種の調査は中国の対外投資に関して「なにが」と「どこで」が主体である。その投資が受け入れ側の国、さらにはその周辺地域にどんな影響を与えているか、というような点についてはほとんど注意が向けられていない。

これからはとくに中国の投資が受け入れ側の国の統治、行政機関、国民一般にどんなインパクトを与えているかの調査の必要性が高まるだろう。

(つづく。その1、その2、その3、その4)

トップ写真:第2回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムに出席した習近平国家主席(2019年4月27日) 出典:Photo by TPG/Getty Images