「脱炭素化」を巡る覇権争いが加速している。2兆ドル規模のインフラ整備計画をぶち上げた米バイデン政権は、トランプ政権時代の空白を取り戻そうと脱炭素化のアクセルを踏む。他方、習近平国家主席が率いる中国は、2030年の温室効果ガス排出量ピークアウトと2060年のカーボンニュートラルを宣言するなど、気候変動対策の主導権を握ろうと目論む。

 その中で、「2050年のカーボンニュートラル化」目標を法制化したEUは、経済面で米中に劣後する現状をグリーンビジネスのルール形成で覆そうとしている。脱炭素化を軸にした「環境地政学」の戦いは始まったばかりだ。この連載では、脱炭素化や環境地政学を巡る米欧中の動きと、日本の現状について論じていく。第3回はルール形成巧者であるEUが仕掛ける「EUタクソノミー」について。このままでは、敗北を喫したハイブリッド車の悪夢が再び訪れかねない。

●地政学としての気候変動(1):COP26に向けて加速する「脱炭素覇権」を巡る米欧中の暗闘(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65150)
●地政学としての気候変動(2):落ち目の欧州が起死回生を狙う「国境炭素調整」は成就するか?(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65423)

(大久保明日奈:オウルズコンサルティンググループ プリンシパル)

 欧州は脱炭素の覇権競争において米中を圧倒し、追随を許さない構えだ。欧州の本気度は投資資金のコントロールにまで踏み込んだことに表れている。

 欧州が掲げるグリーン成長実現のためには、産業構造の転換とともに莫大な資金が必要だ。現に、EUはグリーン成長の政策パッケージ「欧州グリーンディール」遂行のために、今後10年間で少なくとも1兆ユーロ(133兆円)を投資する「グリーンディール投資計画」を策定した。しかし、大規模な投資はパブリックセクターの手に負えるものではなく、民間の資金がグリーン市場に流入することが欠かせない。その秘策が、2022年から運用される「EUタクソノミ―」である。

 タクソノミーは「分類法」と訳される。では、EUタクソノミーは何を分類するのか。今までは何が「グリーン」であるか明確な定義がないまま、ビジネスや金融商品が分類されてきた。EUタクソノミーは、グリーンな経済活動の分類を示し、グリーンビジネスへの投資が増えるように金融市場を再設計することを目指す。

 この動きは2018年に公表された「EUサステナブルファイナンス行動計画」に遡る。「サステナブル投資に向けた資金フローの再構築」「リスク管理におけるサステナビリティの主流化」「透明性向上と長期志向の育成」を目的としたもので、目玉施策としてEUタクソノミーの確立が掲げられていた。金融市場をもコントロールし、環境起点の成長で米中に先行することを欧州は目論んでいるのだ。

 それでは、EUタクソノミーを具体的に見ていこう。