《綴織當麻曼陀羅》が見逃せない

「早来迎」がひとつの目玉といえるが、本展にはもうひとつ絶対に見逃せないお宝がある。浄土経典『観無量寿経』を織り出した縦横4メートルにおよぶ国宝《綴織當麻曼陀羅》だ。古代から浄土信仰の聖地であった奈良・當麻寺の秘仏本尊で、奈良県外で公開されるのは今回が初めて。制作されたのは中国・唐、もしくは奈良時代・8世紀。この時代に緑、朱、茶、黄などに染めた絹糸や金糸を使い、一寸(3.3センチ)幅に60本の経糸という精密な織で、微細な線描や色調を表現した例は他にない。

 国宝《綴織當麻曼陀羅》は制作年代が古く全体が黒ずんいるため、何が描かれているか判別が難しい箇所もある。本作の写しである《当麻曼陀羅図》を合わせて見るといいだろう。

東京会場限定の見どころも

 本展は東京国立博物館の会期を終えた後、京都国立博物館、九州国立博物館に巡回する。各会場独自の見どころが用意されているのでそちらも楽しみにしたい。

 東京会場では、東京の浄土宗本山「大本山 増上寺」に奉納された《五百羅漢図》が展示される。幕末の絵師・狩野一信が自らの信仰心を表し、画業の集大成とするために構想した全100幅の巻物。恐るべき技量を駆使しつつ96幅を描き上げたが、あとわずかというところで没してしまう。残り4幅は妻・妙安、弟子・一純らが補作して完成させた。釈迦の弟子として悟りを開き、人々を救済するために活動した羅漢の姿は、鬼気迫る表情が恐ろしくもあり、優しくもある。

《日課念仏》は、70歳頃の徳川家康が滅罪を願って毎日筆写した念仏だと伝えられている。縦6段、横41列に整然と並ぶ六字名号「南無阿弥陀仏」の文字。ただし約250の六字名号のうち、2つは「南無阿弥陀仏」ではなく「南無阿弥家康」と記されている。家康の単なる遊び心なのか、それとも家康自身が人々を救う仏になりたいと願ったのか。それは誰にもわからない。

(川岸 徹)