⑤“ロス現象”のはじまり

 2015年放送の第93作『あさが来た』に登場した五代友厚(ディーン・フジオカ)がドラマ中盤で病死してしまった際には“五代様ロス”という言葉が生まれ、ちょっとした社会現象にまでなったのをご記憶の方も多いのでは。

 実は、ああした“ロス現象”のはじまりとなったのも『おはなはん』なんです。ハナの夫となった速水謙太郎中尉(高橋幸治)が早くに亡くなってしまうという噂が視聴者の間で広まり、NHKには大量の“助命嘆願書”が届き、それを受け、何と脚本が書き換えられ、速水中尉を“延命”するということが起きたとか。正に“ロス”を回避したいという願いですよね。

 その後も『あぐり』のヒロインの夫(野村萬斎)や、『カーネーション』の周防龍一(綾野剛)、『半分、青い』の秋風先生(豊川悦司)などなど、“朝ドラ”の途中で退場してしまう人物に対して、しばしば起きる“ロス現象”の草分けともなったワケです。

⑥元祖“聖地巡礼”

 “朝ドラ”に限ったことではありませんが、物語の舞台となったロケ地をファンたちが訪れる、いわゆる“聖地巡礼”。2013年の第88作『あまちゃん』のロケ地などは、今でも多くのファンが訪れることで知られていて、ガイドブックまで出版されています。

 そんな“朝ドラ聖地巡礼”の元祖となったのも『おはなはん』。実在した林ハナが生まれ育ったのは徳島県でしたが、番組のロケは愛媛県大洲市で主に行われました。

『おはなはん』が大人気となった後、大洲市には当時からドラマファンが殺到。その模様を伝えるニュース映像も残されています。今でも『おはなはん』人気は続いていて、“おはなはん通り”が現存し、大洲市の防災無線のBGMも『おはなはん』の番組テーマ曲になっているとか。

 番組のプロデューサーが大洲市を訪れた際には地元の人から「あれが、おはなが登った木です」と案内されたとか。実は木に登るシーンは東京のNHKのスタジオで撮影されたものだったため、ロケ地にあるわけがなく、苦笑いするしかなかったというエピソードもあるそうです。

 ・・・という具合に、第6作『おはなはん』は朝ドラにとって、エポックメイキングな作品だったことは、お分かりいただけたでしょうか?

『夜だけど朝ドラ名場面スペシャル』では、主人公ハナを演じた樫山文枝にも取材させていただきましたが、“朝ドラ”の原点と呼ばれることに戸惑っておられながらも、当時のことをとても楽し気にお話しされていたのが印象的でした。

 58年前に確立されたものが、今も受け継がれている・・・“朝ドラ”が長く愛されている理由の一つは、こうした“変わらぬ老舗の味”のようなものなのでは・・・筆者はそんな風にも感じました。※文中敬称略

(小林 偉)