西バルカン諸国の離反を招いたEUの痛恨ミス

 中東欧諸国の多くは、第一次大戦後にオーストリア=ハンガリー二重帝国から独立、第二次大戦後は一様にソ連の影響下に置かれた経緯がある。そのため、十把一絡げに中東欧諸国という呼称が当てられているものの、必ずしも一枚岩ではない。その意味では、中東欧諸国がEUと中国によって「分裂」したというよりも、EUと中国という二つの極による引力の下で「二分化」したという表現の方が正しい。

 親中色を強める西バルカン諸国の盟主であるセルビアとその隣国であるモンテネグロは、2025年のEU加盟を目指している。西バルカン諸国に対して中国は相応の投融資を実施、ワクチン外交もあって影響力を強めている。また西バルカン諸国は、シリアからを中心とする難民の移動ルートでもある。そうした西バルカン諸国を戦略的に取り込んでいくことは、EUが抱える安全保障上の優先事項だ。

 EUはセルビアとモンテネグロのEU加盟を支援すると明言しておきながら、新型コロナウイルスの感染が拡大した際の初動対応で医療物資の提供を拒絶、代わりに中国がそれを提供する「マスク外交」を許すという大きなミスを犯した。巻き返しを図るEUは2020年5月のEU西バルカン首脳会議で西バルカン諸国に33億ユーロの財政支援を約束したが、「マスク外交」を許した後遺症は深刻だ。

 それにセルビアの場合、2008年に袂を分けたコソボとの関係正常化をEUから迫られている。しかしアルバニア系住民が多数を占めるコソボはセルビア正教の聖地であるため、この問題でセルビアが譲歩し過ぎると国内の保守派が反発、EU加盟交渉が停滞する恐れがある。EUは適切なフォローに努めないとセルビアの態度が一段と硬化し、2013年のクロアチア以来12年ぶりとなるEU拡大に赤信号が灯る。