(山根 一眞:ノンフィクション作家)

 1989年と1990年にブラジルの2つの新聞が報じた「釣り人(歯科医)がアナコンダに呑まれた」事件と写真。両紙は同じ写真を掲載しながら記事では事件現場もまったく異なっていた(1500kmも離れている)。事件発生年月日の記載もなく写真の出典も不明。いずれもフェイク記事だった(前回記事「大蛇が釣り人を呑み込んだ!ブラジルで飛び交ったフェイク記事」参照)。

 だがアナコンダの腹が膨れている写真は合成写真ではない。誰かが撮影したことは間違いない。鮮明なカラー写真があるはずだが、それを見ることはないだろうと思っていたが、2000年に手にしたのだ。一時帰国したアマゾンの日本人移住者から「お土産です」と手渡されたのが、件の新聞掲載と同じ写真だったのだ。しかもカラープリントだ。

 また数日前、懇意のアマゾン・コミュニティーの友人(現在は東京在住)が「私も大蛇写真を持っていますよ、90年代にAさんからもらったんです」と提供してくれたのも、同じ写真だった。

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 マナウスやベロオリゾンテの新聞にフェイク記事として掲載された大蛇写真は、おそらく撮影者、あるいはプリントを手にした者が「アマゾン記念絵葉書」のように大量に焼き増しプリントして広く長期間にわたって売られてきたに違いない。

 このカラープリントを持参した知人は、「呑まれたのは歯医者か漁師(釣り人の誤り)だが、弓を引いたまま呑まれたインディオの子供という話もあります」と語っていた。弓を引いたままのインディオの子供を丸呑みとなると、空想としても無理があるが、大蛇の面白ウソ話は際限がない。

 腹を膨らませたアナコンダの写真は、「人が呑まれた」という情報を加えることで写真の価値が上り高く売られてきたのだろう。各新聞も、「人が呑まれた」と書くことで読者受けを狙ったことは疑いがない。大蛇は人を襲い人を殺し呑み込む恐怖の存在であってこそ、市場価値が上がるのだ。