共産党が恐れる都市での暴動

 ここで配送に関わる人々の出身が問題になる。現在、中国において配送に関わる人々は農民工だけではない。労働はきついが、目一杯働けば月収は1万元(約16万円)から1.2万元程度になるとされる。大都市で働く一般サラリーマンの平均月収は6000元程度とされるから、宅配サービスで一生懸命に働くと、サラリーマンの2倍程度を稼ぐことができる。そのために、大学を卒業した都市戸籍を有する人々も宅配サービス部門で働いている。

 もはや中国の大都市では、都市戸籍を持つ人々と農民工の間の格差は問題ではない。深刻なのはバブルに踊った一部の富裕層とそれ以外の人々の間の格差である。バブルに乗り遅れた多くの都市住民は、農民工と共にバブルに踊った一部の人々に対して強い反感を持つようになってしまった。

 ここに述べたことは、現在の中国の政治や経済を理解する上で重要である。都市と農村の格差が問題になっていた胡錦濤時代は、農民が暴動を起こしても武装警察を使って鎮圧すればよかった。しかし、大都市で都市戸籍を持つ人々が農民工と一緒になって富裕層に恨みを抱く社会は恐ろしい。なにかの際に、都市で規模の大きい暴動が起こるかも知れない。それは共産党の統治の根本を揺るがす。現在、中国共産党はその対策に追われている。

 不動産大手の「恒大産業」の経営危機が問題になっているが、共産党政府はその救済に及び腰である。これまでなら、金融危機を引き起こしそうな「Too big to fail(大きくてつぶせない)」案件は裏から手を回してそっと救済してきた。しかし、今回、なかなか腰をあげようとしない。それは、恒大の破綻が周辺に波及して金融危機に発展することは怖いが、陰で救済するような措置を続けていると今以上にバブルが膨らんで、それによって都市で暴動が起こるかもしれないと考えているからだ。これが恒大の経営危機に対して共産党が小田原評定を続けている真の原因である。

 今後の展開を予測することは難しい。しかし、ネットビジネスが急速に発展した中国がこれまでと大きく異なってしまったことだけは確かなようだ。知人が言うように、愛人とネット宅配の組み合わせがパンドラの箱を開ける契機になってしまったのかもしれない。笑い話のようだが、歴史は些細なことから、その流れを大きく変えてしまうことがある。

(川島 博之)