(田中 美蘭:韓国ライター)

 ついに始まったと言うべきか。来年の大統領選挙に向けた動きが活発化する中で、候補者同士のあら探しのような暴露、報復合戦が始まっている。

 韓国の大統領選挙は来年3月9日で、投票まで既に半年を切っている。新型コロナワクチン接種率の上昇や、昨年に続き2回目となるコロナに関連した支援金の支給を決定したことなどが評価され、文在寅政権の支持率はやや盛り返した感がある。ただ、依然として厳しい政権運営を迫られていることに変わりはない。

 文在寅大統領と与党「共に民主党」は与党政権の維持のために、「国民の力」をはじめとする野党側は政権奪還のために、確実に勝てる候補者を探している。

 11月には与野党ともに正式な候補者が決まる見通しだが、その中で、野党側の有力候補の一人として目されているのが前検事総長の尹錫悦(ユン・ソギョル)氏である。

 文政権では、「検察改革」に意欲を燃やしていた文大統領によってソウル中央地検長に任命。2019年には検察のトップである検事総長に起用された。両者は蜜月関係にあるように思われたが、文大統領の腹心で法務長官に任命された曹国(チョ・グク)氏の数々の不正疑惑を巡り、文大統領の反対を押し切り起訴に踏み切ったことで、その関係は脆くも崩れ去った。

 尹氏の名が野党の有力候補として浮上した際には驚きの声が上がると同時に、与党側は危機感と警戒心を募らせたと言われている。その尹氏に対して、複数の疑惑が浮上している。検事総長在任中、自身に対して批判的であった与党または与党寄りの政治家を告発するよう、側近の検事を使って野党議員に働きかけたという「職権乱用」や「個人情報保護法違反」などの疑惑だ。

 尹氏については今回のスキャンダル以前にも、自身の妻と義母の不正疑惑が取り沙汰されており、叩けばほこりの出る身かもしれない。一方で、尹氏の疑惑自体に「こじつけ」「疑惑と言うには無理がある」といった指摘もある。

 韓国で言うスキャンダルの発覚とは、言い替えれば足の引っ張り合いである。今後、正式な大統領候補が決まり、選挙運動が本格化していく中で、各候補者に何らかの醜聞が出ることは韓国では想定の範囲内であり、選挙終盤まで目が離せない。ただ、タイミングを図ったかのように、尹氏や尹氏の家族、「国民の力」に関連した醜聞が出てくるところを見ると、偶然ではない何かがあるものと思われる。