(譚 璐美:作家)

 2021年10月26日、中国の海上保安機関である海警局は、計344条に及ぶ独自の規定案を決定し、外国の組織や個人が領海侵犯した際、拘束・送検する具体的な手続きを発表した。もし拘束時に抵抗・凶行に及んだ場合は、武器の使用を認めるとも明示した。中国は今春2月に「海警法」を施行したが、今回の規定案でそれを補完し、海洋権益をますます強化していこうとするものだ。

 果たして、中国が南シナ海の領有権を強く主張する根拠はなんなのか。拙著『中国「国恥地図」の謎を解く』(新潮新書)では、その背景に中国の歴史認識と「失地意識」があり、100年前の「国恥地図」と深く関わっている事実を明らかにした。

中国の「国恥地図」とは何か

「国恥地図」とは、かつて中国が列強に奪われた領土を「国の恥」だと考え、清朝時代の版図をもとに支配地域を示した地図のこと。その範囲は、近隣18カ国を呑み込み、日本をはじめ、3カ国を切り取り、南シナ海全域をほぼ囲いこんでいる。無論、現在の国際基準に従った地図ではなく、極めて政治性が強い荒唐無稽なものだ。

 製作したのは戦前の蒋介石・国民政府の時代で、国家存亡の危機に遭って、国民に国恥教育を実施するために使われ、小中学校の教科書にも盛り込まれた。それだけなら戦時中の話として笑って済ませられるものだ。ところが、今日の中国政府も、100年前の国恥地図を小中学校の歴史教材として使い、愛国主義教育を行っていると聞けば、由々しき問題である。

「三つ子の魂百までも」というが、幼い頃から「国恥」という政治的メッセージを刷り込まれて育った中国人の中には、現在の南シナ海が「本当は中国のモノ」だと考える人がいても、不思議はないだろう。なんとも怖い話なのである。