かかしは、本来は農作物をついばむ鳥を追い払うために田畑に立たせる人形だが、地位や外見だけで、役割を果たさない名ばかりの人を指すこともある。
 
 北朝鮮では、1998年から2019年まで、金永南・最高人民会議常任委員長が対外的な“国家元首”としての役割を果たした。北朝鮮は当時の金正日総書記ではなく、国会議長に当たるナンバー2の金永南委員長を国際外交舞台の「かかし」として起用したのだ。なぜ、北朝鮮はかかし元首を立てたのか。

(過去分は以下をご覧ください)
◎「北朝鮮25時」 (https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E9%83%AD+%E6%96%87%E5%AE%8C%EF%BC%9A)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 1994年に死去した金日成主席の3年祭を終えた97年以降、北朝鮮は金正日総書記を中心とする新たな指導体制を構築することになった。その際の大きな変化として、1998年4月に実施した国家主席制を廃止する憲法改正が挙げられる。

 国家主席制を廃止したのは、国家元首として外交の表舞台に立つことを金正日氏が嫌ったからだ。

 金正日氏が国家元首になれば、国連の首脳級会議をはじめ、外国の首脳と会う機会が増える。だが、北朝鮮の人権問題や核問題などが議題として取り上げられた時、金正日氏は国家元首として対処する自信がなかった。

 そこで、金正日氏は中国の最高指導者、鄧小平に倣って、裏で実権を掌握する国家指導体制を考えた。そして、国家主席制度を廃止し、最高国家機関である国防委員会制度を復活させ、自身は国防委員会委員長に就任することにした。実権を掌握しながら、外交舞台では金永南委員長を前面に出す「かかし外交」を導入したのだ。

 金永南委員長を表向きの国家元首に据えた理由はもう一つある。警護問題だ。

 金正日氏が国家元首になると、外国訪問は避けられない。だが、北朝鮮の首脳警護は国内に特化しており、海外歴訪時の首脳警護は不可能に近い。金正日氏の警護を担当していた護衛総局も身辺警護の観点から金永南委員長を国家元首にすることに賛成だったため、護衛総局の意見を取り入れたかかし元首が誕生した。

 ところが、金永南委員長が表向きの国家元首となった2年後に事件が起きた。