天然ガスは完全に輸入依存であり、電力も7〜8割を域外に頼っている。電力の輸入源は、沿ドニエストルとウクライナである。
特に安価な沿ドニエストル電力は貧しいモルドバにとって他に代え難く、2021年度のモルドバ輸入電力の95%を占めていた。
こうした関係は、ロシアのウクライナ全面侵攻後も維持されてきた。
ロシアのガスプロム社はウクライナにパイプライン輸送料を支払ってモルドバ(沿ドニエストル分含む)にガスを供給、モルドバはガスプロムにガス代金を支払い、そして沿ドニエストルは(ガスプロムにガス代金は払わず)火力発電を行いモルドバに電力輸出を続け外貨を獲得してきた。
このようにして見ると、ロシアの天然ガスを用いた沿ドニエストル支援は、モルドバへの電力輸出とセットであることが分かる。
沿ドニエストルの対外貿易においてモルドバが輸出の第1位、ロシアが輸入の第1位をそれぞれ占めている理由もこの文脈から理解できよう(グラフ参照)。
壊れる天然ガス・電力関係
ロシアがモルドバを巻き込んで作り上げた巧妙な沿ドニエストル支援システムは崩壊に向かっている。
ガスプロム社は、「ウクライナがパイプライン輸送を制限したため」と称して、10月期のモルドバ(沿ドニエストル含む)向けガス供給量を契約量の3割減とした。
モルドバ向けは沿ドニエストルを含むため、沿ドニエストルの取り分も減少、沿ドニエストルのガス火力発電の減産、対モルドバ電力輸出の減少につながった。
沿ドニエストルの火力発電所は、全発電量の8割を対モルドバ輸出に回しているが、これは域内ガス消費量の4割分に相当する。
域内消費を優先するのであれば、電力輸出にシワ寄せがくる。