モルドバは電力不足をウクライナからの輸入で埋めようとしたが、ロシアのエネルギー・インフラへの攻撃を受けてウクライナは電力輸出能力を喪失してしまった。

 それだけではない。

 ロシアのウクライナ電力インフラ攻撃によりウクライナ南部で大規模な停電が起きると、旧ソ連時代の電力システム網で接続されているモルドバ、沿ドニエストルでも停電が発生してしまう。

 11月期にガスプロムが縮小幅を契約量の5割に拡大すると、沿ドニエストルのガス不足はさらに深まり、不可抗力が宣言され対モルドバ電力輸出が完全に停止された。

 沿ドニエストルとウクライナという2大輸入源を断たれたモルドバは、沿ドニエストル電力に比べて単価が2倍以上のルーマニア電力の輸入に切り替えざるを得なくなった。

 3月に同期試験に成功した欧州送電システム運用会社ネットワーク(ENTSO E)が役に立った形だ。

 ただ、モルドバ・ルーマニア間の送電容量は十分ではなく、モルドバ国内では節電・計画停電が実施されている。

 他方でソ連時代に構築された電力システム網でウクライナ・沿ドニエストル・モルドバはつながっている。

 そのため、ロシアのウクライナ電力インフラ攻撃よりウクライナ南部で大規模な停電が起きると、モルドバ、沿ドニエストルでも停電が発生してしまう。

 天然ガス不足については、モルドバは短期的には省ガス政策とルーマニアおよびウクライナ領内の地下貯蔵庫に備蓄したガス、国内火力発電所の重油、石炭への転換で乗り切る予定である。

 モルドバと比べると沿ドニエストルはより深刻である。

 ガス不足の影響は、発電の減産のみならずガスを消費する主要企業、すなわち冶金工場、繊維工場、セメント工場の操業停止にまで及んでいる。

 沿ドニエストルの2021年統計によると、鉄鋼・電力・繊維合計で全輸出額の4分の3を叩き出している。

 もとよりロシアのウクライナ侵攻で、沿ドニエストルは貿易パートナーと通商ルートを失い甚大な影響を蒙っているところに加えての輸出産業の稼働停止である。

 また、トローリーバスの間引き運転、停電など、市民生活にも影響が生じており、沿ドニエストル当局は「経済危機」に続いて、「人道危機」を宣言するに至っている。