国際ドナーがいない沿ドニエストル
11月21日、モルドバ政府は12月期のガスプロムのモルドバ向けガス供給量は契約量のマイナス56.5%と発表した。
しかしながら、翌日、ガスプロムは、モルドバ向けガスの一部がウクライナ領内のパイプラインで抜き取られていることを示唆して、さらなる削減を予告してきた。
ガス需要が高まる冬季に親欧米的モルドバ政権に負荷をかける意図は明白だ。
実際、モルドバでは年始以来、国内ガス料金は6倍、電気料金は3倍に跳ね上がっており、10月以降のガス・電力の絶対量不足が加わって、政府に対する批判が高まっている。
「西側寄りの政策がロシアを挑発しエネルギー危機を招いた」と主張する親ロ派政治勢力のデモも頻発している。
しかし、少なくともモルドバには代替供給源がある。
ガスはEU市場から調達しウクライナ領経由で輸入でき、電力もルーマニアから輸入している。また、EUからエネルギー購入の信用や援助を受けている。
一方で、沿ドニエストルは国際社会から承認されていないため、ロシア以外のドナーは想定できず、代替供給源の確保が困難である。
ロシアは沿ドニエストルの危機を「パイプライン輸送を妨害する」ウクライナと「沿ドニエストルの取り分を奪っている」モルドバに責任転嫁して、「モルドバ・ウクライナ=悪」「沿ドニエストル=無垢な被害者」というお約束の二項対立図を描き出している。
しかし、既に見たように、ガスプロムのモルドバ(沿ドニエストル分含む)への供給削減が危機の主因である。
ロシアはウクライナやその連帯者にコストを強いることに血道を上げ、沿ドニエストルを顧みる余裕はない。
今のガス削減状態が続けば、モルドバよりも先に沿ドニエストルが干上がるのは明らかなのだが・・・。
(藤森 信吉)