もちろん、機密年限が定められており単純に年数が経過したから、たまたまその時期に公開されただけ、という可能性もあります。ですが、納得のできる動きはありました。

 忘れ去っている方は多いかもしれませんが、この頃の日本は政権交代で騒がしくなっていました。昨年8月は、菅義偉前首相の自由民主党総裁任期が満了直前で、総裁選挙(9月29日)が迫っていた時期です。

 菅内閣では、コロナ対策、オリンピック実施に全力を注いでいたこと、および安倍路線の継承を唱えていたこともあり、日ロ交渉は停滞していました。2016年に、安倍政権による北方領土返還交渉が失敗していたためです。

 ところが9月の総裁選で岸田政権が発足すると、外務副大臣に鈴木貴子衆議院議員が就任し、状況が一変します。鈴木貴子氏は言わずと知れた鈴木宗男参議院議員のご息女です。岸田政権の発足後、停滞していた日ロ交渉には、鈴木父子、森喜朗元総理などロシアとの太いパイプを持つ政治家が関与を始めます。2016年の安倍政権による日ロ交渉に大きく関わっていた人物たちです。当時、外務大臣としてその失敗をつぶさに見ていたはずの岸田総理が、なぜこの路線に戻ったのか理解に苦しみますが、路線は戻されていたのです。

 今年1月14日には、ロシアのラブロフ外相が日ロ平和条約締結交渉のため数カ月以内に訪日予定であると発言しています。2月24日のウクライナへの侵攻がなければ、日本は日ロ平和条約締結に向けて大きく動いていたはずです。

 つまり、ロシアでの8月の反日情報キャンペーンは、安倍路線を継承し交渉を停滞させたままの菅内閣への圧力であるとともに、岸田政権後の日ロ平和条約交渉における条件闘争の支援だった可能性が考えられるのです。